幼馴染みに決闘を申し込むために手袋を投げつけたら拾ったのは想い人でした。

風季

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8.月見庵

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 卒業式まで残り半年。つまり、ステラを振り向かせるために動ける期間は残り半年ということだ。
 
 ここでまたレイモンドは悩んでいた。

 ステラを振り向かせることができる気がしない、と。


「よく考えたら出かけたのだってたった一回。最近なんて試験や生徒会の仕事があって忙しかったとはいえ、前以上に話せていない……!」


 一人教室に残って悩むレイモンド。

 前もこんな風に悩んでいたな、と思いながら次の週にどこか行くところはないかと考える。


「……そういえば街に外国の菓子の店ができたって聞いたな」


 レイモンドは立ち上がった。

 そして、荷物を寮に置いてからすぐに街へと向かい、その菓子屋の予約を取った。

 翌日。


「ステラ嬢。今週の休日に街へ行かないか? 外国の菓子屋ができて話題になっていただろう」


 廊下で会ったステラを呼び止め、レイモンドはステラを誘った。以前よりは簡単に誘えるようになったが、内心では断られないだろうかと不安だった。


「行きたいです! 私も気になって行ってみたかったんです」
「そうか、なら良かった」


 レイモンドは断られなかった安心と、もう一度ステラと出かけることができるという嬉しさから笑った。


 レイモンドが予約した店の名前は月見庵つきみあん
 見たことのない不思議な文字で書いてあり、横にこの国の文字で書かれていなければ読むことはできなかった。

 店の中には見たこともない菓子が並んでおり、不思議な色合いのものも売ってあった。本当に食べ物かと思ったが、実際に食べている人もいたし、全てが菓子なのだろう。

 初めて見る物を早く食べたいという気持ちもあり、レイモンドは約束の日を待ち遠しく思っていた。



 約束した日になり、レイモンドはステラを迎えにいった。

 今日もまた可愛らしい格好をしてくるのだろうと期待していたレイモンドは少しだけ拍子抜けした。

 ステラは制服だったのである。
 なぜだ。

 訳を聞くと、今まで補習があっていたらしい。ステラの成績は悪くないが、メイルが一つだけ落としてしまったらしく、それに付き合っていた。それで着替える時間がなくて時間に遅れるくらいならとそのまま来たそうだ。


(まぁ、どんな姿のステラ嬢でも可愛いし、ステラ嬢と一緒にいられるからいいか)


「あの、やっぱり着替えてきていいですか……」
「どうして?」
「レイモンド様と出かけるなら、やっぱりお洒落したいな、と思って」
「ステラ嬢はどんな格好でも可愛らしいよ。だけど、俺のためにお洒落をしてくれるなら俺はいくらでも待つよ」
「……き、きき着替えてきますぅ!」


 ステラは叫んで寮の中へと入っていった。


 そして、しばらくして出てきたステラはやはり可愛らしかった。


 当初の予定よりも遅くなってしまったが、二人は月見庵へとやって来た。

 席に案内され、メニュー表を渡される。

 レイモンドは先に来た時から気になっていた赤紫色の"おはぎ"を、ステラは"栗羊羹"を注文した。

 頼んだ物はすぐに抹茶という緑色の飲み物と一緒に運ばれて来た。
 これがお茶だと言われて、これは人が飲める物なのかと驚いたが、歩いて来て渇いた喉を潤すためにそっと口に含む。


(にっが……!)


 レイモンドは思わず開きそうになった口をしっかりと閉じ、抹茶を奥に流し込んだ。


「この抹茶というものは渋いですね。それに、持ち手がないカップというのも初めてです」


 ステラもお茶を一口飲んでから感想を言い、カップをじっと眺めている。

 確かに渋いが、入れるのに失敗した紅茶の渋さとはまた違う。どちらかといえば苦いと思いつつも、レイモンドはステラの言葉に頷いた。


「レイモンド様、レイモンド様」


 名前を呼ばれてステラの方を見ると、目の前に一口大に切られた羊羹が差し出された。

 困惑してステラを見れば、ステラは瞳を輝かせている。


「これ、すっごく美味しいです! 特に栗の食感がクセになりそう。それに、これを食べた後に抹茶を飲むと先ほどよりも渋くなくて飲みやすいですし、口の中の甘さが流されるのでいくらでも食べられそうです! 栗羊羹、美味しいので一口あげます。食べてみてください!」
「あ、あぁ、いただくよ」


 ステラの気迫に押されつつ差し出された羊羹を食べる。もちっとした弾力があり、その中に甘い栗がある。ほんのりと塩分も感じられ、それが甘さを引き立てているようだった。


「……美味い」
「ですよね! 抹茶を飲んでみてください」


 ステラに促されるがままに抹茶を飲めば、確かに先ほどよりも渋さがなくなり飲みやすくなっている。甘いものがいくらでも食べられそう、というのもわかる気がした。

 では、おはぎはどうかのだろう、と未知の食べ物へ期待をしながら一口サイズに切る。


「ステラ嬢。俺はまだ食べていないが、これもきっと美味いだろう。羊羹をもらったし、交換だ」
「ありがとうございます。いただきますね」


 ステラへとおはぎを差し出せば、ステラは身を乗り出して差し出されたおはぎを食べた。


「これとってもモチモチとしていて、このあんこ……というものは滑らかな舌触りですね。美味しいです! レイモンド様も早く食べてみてください!」


 美味しそうに、うっとりとした表情で食べるステラを見て湧き上がってきた幸福感を噛み締めていたレイモンドは、ステラに急かされたことで、もっとステラを見ていたいと思いながらもおはぎを食べた。


「ん、これはまた羊羹と違った美味しさがあるな」


 それぞれ頼んだ物を食べ終え、抹茶を飲んでいる時だった。なんとなく見ていた串を前に、ふと思い浮かんでしまった。


(……俺、もしかしてステラ嬢が食べた串で食べた? これ、か、間……!)


 そう認識した途端、レイモンドの顔は赤くなった。

 今すぐ叫んで飛び出したい衝動に駆られるが、それをやってしまえば突然荒ぶりだした奇人だ。レイモンドは奇人変人と言われることには慣れているが、ステラの前では言われたくない。格好付けていたい。

 ステラは気にしていないだろうなと思いながら、ちらりと見れば、ステラは俯いていた。よく見ればその頬は真っ赤で、恥ずかしそうだ。


「ス、ステラ嬢」


 レイモンドの声が裏返った。

 その恥ずかしさからレイモンドの顔はさらに真っ赤になった。

 それに、呼んだはいいものの、何と言うのかを全く考えていなかった。

 このまま帰るのは寂しい。しかし今からどこかへ出かけたとしても、記憶に残るのはステラと同じ串で食べたという嬉しいような恥ずかしいような、そんな気持ちだけだろう。


「レイモンド様、その、も、戻りましょう! 学園に!」
「あ、あぁ。そうだな」


 レイモンドは、ステラの言うことに頷いた。寂しいが、帰るのが一番だろう。

 帰りはどちらも無言で、少しだけ気まずかった。

 寮の前までステラを送り、自室へと戻ったレイモンドはベッドに寝転がって考えた。


「明日はどうやって顔を合わせたらいいんだ……」


 枕に顔を埋め、レイモンドは唸った。

 しばらくしてレイモンドは顔を上げ、のそのそと起き上がる。


「……ステラ嬢と会う時だけ無かったことにして普段通りにするか」


 そう結論を出したレイモンドは、明日の準備を始めるのだった。
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