断罪された悪役令嬢はそれでも自分勝手に生きていきたい

たかはし はしたか

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ジェーンの場合

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見晴らしのいい山道からは、遥か彼方に街の明かりがぼんやりと見える。
あそこが王都だろう。
慣れ親しんだ場所への感傷より、ここまで来たというささやかな達成感の方が何倍も大きい。
王都をでて、乗り合い馬車を乗り継いでそして歩いて山道にはいった。
全てが初体験だった。
疲れていた。
足は痛い。
荷物が重い。
滑って尻餅をついてズボンがぬれた。
この国を抜けるのにはまだあといくつも山を越えなくてはならない。
予定ではもうこの山は超えているはずで、全てが順調とはいえない。
ただ、もう日没から少し経ち移動は困難になっている。
今日はここで野宿だ。
ジェーンは荷物をそっと草の上に下ろした。
全財産の入った鞄は侯爵令嬢らしからぬリュックサック。
それは亡き母に贈られたものだった。
中に入っているのは、金銭的な価値のあるものではなく、生きていくのに必要なもの。
そして亡き母との思い出の品。
手際よく火を起こし、道中で見つけた食べられる草と水筒の水と手持ちの調味料で手早くスープを作る。
リュックにに入れていたパンと、草のスープ。
リュックから出した着替えを丸めて頭の下に入れて、早々に眠りにつく。
明日は朝早く出発して、明後日には国境を越える予定だ。

わたし、ジェーンは侯爵令嬢としてごくごく平均的に生きてきた。
5歳から家庭教師に学び、13歳から全寮制の学校に入った。
15歳で病で母を亡くしました。
一人っ子のわたしは、少し早いですが16で親の決めた婚約が整っていました。
相手は公爵家の次男アート様。
可もなく不可もないお相手でした。
お父様としては、アート様を婿として、我が家を盛り立てていって欲しいという事だったのでしょう。

一応納得してそのまま生きて行こうと思っていたのです。

ただ、迷いもありました。
わたしの母は冒険者でした。
わたしは子供の頃から、母の話が大好きでした。
異国の話。
仲間との冒険譚、仕事を干されて住み込みで下働きしながら次の冒険を計画した話。
いくさが起こって、いきたかった場所に行けなくなって悲しかったこと。
一人で夜を超える心細さと開放感。
身の危険を感じた時のこと。
仲間に裏切られたこと。
世界は広いこと。
綺麗事だけでは済まないこと。
母は足を悪くして、冒険者を引退して、縁あって父と結婚した。
それは幸せだったけれど。
それでも時々遠くを見ていた。
侯爵の妻ではなく、一人の女として人間として立っていた頃。
わたしの知らない世界を。

わたしはたまらなく憧れた。
そんなわたしに、冒険の辛さを説きつつも、母は色々なことを仕込んでくれました。

わたし自身の進むべき道に悩んでいたところに唐突に婚約。
父は父で、娘のわたしを心配しているのはわかります。
貴族ですから、家の都合で結婚が決まるのもわかります。
ですが、聞いてしまいました。
お父様、借金を肩代わりに爵位(娘)を売りましたね。
家のためですらない、自分の浪費と投資の失敗の穴埋めのための結婚だなんて。

冗談ではありません。

わたしはグレました。
婚約者家の夜会をすっぽかしたり、髪を5センチばかり切ったり。
極め付け、ヒールを履きました。
アート様とわたしはほとんど身長差がない。
そこにヒールを履くとどうなるか。
父からも、相手のお家からも激しい叱責を受けました。
それでも、やめませんでした。
だって、冒険者はヒールなんて履きません。
ヒールを履くことが、私のとって貴族として生きる誓いのようなものでした。
そしてアート様は、他の女性と仲良くされるようになりました。

そして夜会での断罪。
ご自分の浮気は棚にあげ、一方的にこちらを攻めるその姿に心底幻滅しました。
それでもなんとかして私をアート様と結婚させようとするお父様にも。
そんなにアート様に跡を継がせたいなら養子でもなんでもしたらいいではないですか。

わたしは家を出ました。
もっと早くそうすべきだったのです。
この先は平坦ではないでしょう。
でも、きっと後悔はありません。

まず、海というのを見にいきましょう。
その先はまた、その後考えます。

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