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メアリーの怒り
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翌日、三日連続で仮病を使うわけにはいかなかった私は噂の的になる覚悟を決めて学園に登校した。
馬車から降りるとすぐに周囲からの視線を感じた。
「あの方でしょ? 婚約者にパートナーを拒否されたのって」
「パートナーが居なくて早退されたそうよ」
「可哀想に……」
「それにしても男の方は酷くないか? 他の令嬢をパートナーにしたいのなら事前に伝えておくべきだろ」
「周囲の目がある中で婚約者に対してあの仕打ちはありえませんわ! わたくしでしたら頬を叩いてやりますもの!」
「側にいた令嬢も婚約者ではないのだから身を引くべきではありません? 男性パートナーはまだ余っていらしたでしょ? それを敢えて婚約者のいる男性をパートナーに選ぶなんて常識が無さすぎですわ」
「それに引き換えカタリナ様はご立派でしたわ。わたくしあの授業に居ましたが、あのような仕打ちを受けたにも関わらず涙一つ見せず授業を台無しにしてしまったと我々に謝罪したんですもの」
「普通の令嬢なら婚約者に問いただしたり、相手の令嬢を罵ったりしそうだが、シェルト嬢は感情を表に出すことなく冷静に対処していたな。それなのに」
見下されたり、蔑まれたりするのかと内心怯えていたのだが、何故か私への視線はわりと同情的な物が多くアルバート様とユリア様への非難の言葉があちこちから聞こえてきた。
もっと針ろ筵のような気持ちになるかと思っていたのにどういうこと? 何か思っていたのと違うかも。
私がそう思っていると背後から肩をポンと叩かれた。
「おはようカタリナ! 一緒に教室まで行きましょう」
「メアリー? え、おはよう。待っててくれたの?」
「ふふっ偶然よ。偶然見かけたから声をかけたの」
ありえない。普段は婚約者と登下校を共にしているメアリーが一人で私の元へ来るなんて絶対にない。
きっと私が教室へ行きやすいように此処で待ってくれていたのだろう。
メアリーの優しい気遣いに私は胸が熱くなり、小さな声で「ありがとう。助かるわ」と言った。
二人でとりとめのない会話をしながら教室へ向かった。其処には同じクラスメイトのアルバート様とユリア様もいる。そう思うと足取りが少しだけ重たくなった。
きっと彼等は私がこの状況をなんとかする事を期待しているだろうが、私は何も動かないと決めた。
婚約者として信じるとは決めたが、だからといってあの人達の為に私がそこまでする義理はないのだ。私は先日の事を誰かに聞かれたらありのままの事を話そうと決めていた。
どちらにしろあの現場を見ていた人は大勢いるのだから今更取り繕っても遅いのだ。
とは言っても顔をあわせるのはまだ辛い。
どう対応するかは決められたが、気持ちの部分ではまだモヤモヤが収まっていなかった。
「大丈夫よ。あの人達と話したくなければ逃げちゃいなさい。暫くは私達が防波堤になれるわ」
「え……」
「ふふっ。きっと驚くわよ」
難しい顔をして黙り込んで思考を巡らせていた私に悪戯な笑みを浮かべたメアリーはそう言って教室の扉を開けた。するとクラスメートの令嬢達が私を心配したと言って集まってきた。
「カタリナ様心配しましたわ!」
「御加減は大丈夫ですか?」
「登校されて安心しました」
「カタリナ様にはわたくし達がついておりますのでご安心ください!」
普段から仲良くしている令嬢もいれば、話した事もない顔見知り程度の令嬢も其処にはいて、何故か私に対しても好意的な態度をしていた。
不思議に思っていると、突然演技のようなわざとらしい態度で泣き真似を始めたメアリーが妙な事を言い出した。
「皆様、我が友人カタリナの為にありがとうございます。カタリナはあのような仕打ちを受けて心に傷を負いましたがこうして学園に戻ってくる事が出来ました。……どうかカタリナが学園でこれ以上傷つかずに済むよう皆様のお力をお貸しくださいませ」
えっ!? 何言ってるのよ!
力を借りるってどういう事!?
「お任せくださいな! クラスメートの危機なんですもの、わたくし少し頑張らせて頂きましたわ!」
「ええ、わたくしもです!」
「噂の方はカタリナ様には非はないとしっかり伝えさせて頂きました」
「上級生の方々にもバッチリです」
「この学園でカタリナ様を悪く言う者はいらっしゃいませんよ!」
「それに元はと言えばルヴェルダン様が他の女に現を抜かしてるのが悪いんですわ!」
「わたくし達貴族の婚約は政略結婚で其処には愛はないかもしれませんが、でも契約で結ばれているのですよ? 互いに思いやって労るのが常識ですわ! それをーー」
「ありえませんわよ! あの出来事は」
「女をなんだと思ってますの?」
「しかもあの日で懲りたかと思えば、あの二人カタリナ様があの出来事で体調不慮となって休んだ日もイチャイチャと……見ていてとても不快でしたわ!」
「あんな方々、絶対にカタリナ様には近づかせません!」
「反省するまでお預けですわ!」
「カタリナ様も此処は心を鬼にして耐えなくてはなりませんよ! 男が付け上がるかはこういう時にどう対処するかにかかっているのですから」
「簡単に許すなんて論外です!」
「少しは自分達のした事を知って後悔なさればよろしいのよ!」
「カタリナ様っ! 頑張って下さいませ!」
「え、、は、はいっ! 皆様のお心遣いに感謝致しますわ」
何故かアルバート様達に対する悪感情が強い令嬢達に押されてしまい、私はアルバートと少し距離を置くと返事してしまった。
まぁ、元々そのつもりだったから問題はないけど……
予鈴がなる寸前になり、令嬢達はそれぞれ席に戻っていった。そしてメアリーも同じように自分の席へ向かっていく。その去り際にーー
「ね? 大丈夫だって言ったでしょ。カタリナに恥をかかたあの男が如何にドクズかは私がしーっかり語っておいたから令嬢達はこっちの味方よ。安心しなさい」
「え、何したの!?」
「ふふっ、女を敵に回すとどうなるか教えてあげるだけよ。私の友人を傷つけたんですもの。それ相応の罰は受けてもらわなきゃね」
笑っていない瞳で微笑んでみせたメアリーはそう言って立ち去っていった。
ちょっと本当に何したのよー!?
相手は侯爵子息なんですけど本当に大丈夫なの?
メアリーいわく、誰から始まったのかわからない不特定多数の噂が広まっているだけだから私達が罰せられる事はないとのこと。
「そもそも事実しか話してないんだから自業自得よ」
そう言ってアルバート様の背中を睨みつけていたメアリーを見て、私は友人が思いの外、私の為に怒っていた事を知った。
馬車から降りるとすぐに周囲からの視線を感じた。
「あの方でしょ? 婚約者にパートナーを拒否されたのって」
「パートナーが居なくて早退されたそうよ」
「可哀想に……」
「それにしても男の方は酷くないか? 他の令嬢をパートナーにしたいのなら事前に伝えておくべきだろ」
「周囲の目がある中で婚約者に対してあの仕打ちはありえませんわ! わたくしでしたら頬を叩いてやりますもの!」
「側にいた令嬢も婚約者ではないのだから身を引くべきではありません? 男性パートナーはまだ余っていらしたでしょ? それを敢えて婚約者のいる男性をパートナーに選ぶなんて常識が無さすぎですわ」
「それに引き換えカタリナ様はご立派でしたわ。わたくしあの授業に居ましたが、あのような仕打ちを受けたにも関わらず涙一つ見せず授業を台無しにしてしまったと我々に謝罪したんですもの」
「普通の令嬢なら婚約者に問いただしたり、相手の令嬢を罵ったりしそうだが、シェルト嬢は感情を表に出すことなく冷静に対処していたな。それなのに」
見下されたり、蔑まれたりするのかと内心怯えていたのだが、何故か私への視線はわりと同情的な物が多くアルバート様とユリア様への非難の言葉があちこちから聞こえてきた。
もっと針ろ筵のような気持ちになるかと思っていたのにどういうこと? 何か思っていたのと違うかも。
私がそう思っていると背後から肩をポンと叩かれた。
「おはようカタリナ! 一緒に教室まで行きましょう」
「メアリー? え、おはよう。待っててくれたの?」
「ふふっ偶然よ。偶然見かけたから声をかけたの」
ありえない。普段は婚約者と登下校を共にしているメアリーが一人で私の元へ来るなんて絶対にない。
きっと私が教室へ行きやすいように此処で待ってくれていたのだろう。
メアリーの優しい気遣いに私は胸が熱くなり、小さな声で「ありがとう。助かるわ」と言った。
二人でとりとめのない会話をしながら教室へ向かった。其処には同じクラスメイトのアルバート様とユリア様もいる。そう思うと足取りが少しだけ重たくなった。
きっと彼等は私がこの状況をなんとかする事を期待しているだろうが、私は何も動かないと決めた。
婚約者として信じるとは決めたが、だからといってあの人達の為に私がそこまでする義理はないのだ。私は先日の事を誰かに聞かれたらありのままの事を話そうと決めていた。
どちらにしろあの現場を見ていた人は大勢いるのだから今更取り繕っても遅いのだ。
とは言っても顔をあわせるのはまだ辛い。
どう対応するかは決められたが、気持ちの部分ではまだモヤモヤが収まっていなかった。
「大丈夫よ。あの人達と話したくなければ逃げちゃいなさい。暫くは私達が防波堤になれるわ」
「え……」
「ふふっ。きっと驚くわよ」
難しい顔をして黙り込んで思考を巡らせていた私に悪戯な笑みを浮かべたメアリーはそう言って教室の扉を開けた。するとクラスメートの令嬢達が私を心配したと言って集まってきた。
「カタリナ様心配しましたわ!」
「御加減は大丈夫ですか?」
「登校されて安心しました」
「カタリナ様にはわたくし達がついておりますのでご安心ください!」
普段から仲良くしている令嬢もいれば、話した事もない顔見知り程度の令嬢も其処にはいて、何故か私に対しても好意的な態度をしていた。
不思議に思っていると、突然演技のようなわざとらしい態度で泣き真似を始めたメアリーが妙な事を言い出した。
「皆様、我が友人カタリナの為にありがとうございます。カタリナはあのような仕打ちを受けて心に傷を負いましたがこうして学園に戻ってくる事が出来ました。……どうかカタリナが学園でこれ以上傷つかずに済むよう皆様のお力をお貸しくださいませ」
えっ!? 何言ってるのよ!
力を借りるってどういう事!?
「お任せくださいな! クラスメートの危機なんですもの、わたくし少し頑張らせて頂きましたわ!」
「ええ、わたくしもです!」
「噂の方はカタリナ様には非はないとしっかり伝えさせて頂きました」
「上級生の方々にもバッチリです」
「この学園でカタリナ様を悪く言う者はいらっしゃいませんよ!」
「それに元はと言えばルヴェルダン様が他の女に現を抜かしてるのが悪いんですわ!」
「わたくし達貴族の婚約は政略結婚で其処には愛はないかもしれませんが、でも契約で結ばれているのですよ? 互いに思いやって労るのが常識ですわ! それをーー」
「ありえませんわよ! あの出来事は」
「女をなんだと思ってますの?」
「しかもあの日で懲りたかと思えば、あの二人カタリナ様があの出来事で体調不慮となって休んだ日もイチャイチャと……見ていてとても不快でしたわ!」
「あんな方々、絶対にカタリナ様には近づかせません!」
「反省するまでお預けですわ!」
「カタリナ様も此処は心を鬼にして耐えなくてはなりませんよ! 男が付け上がるかはこういう時にどう対処するかにかかっているのですから」
「簡単に許すなんて論外です!」
「少しは自分達のした事を知って後悔なさればよろしいのよ!」
「カタリナ様っ! 頑張って下さいませ!」
「え、、は、はいっ! 皆様のお心遣いに感謝致しますわ」
何故かアルバート様達に対する悪感情が強い令嬢達に押されてしまい、私はアルバートと少し距離を置くと返事してしまった。
まぁ、元々そのつもりだったから問題はないけど……
予鈴がなる寸前になり、令嬢達はそれぞれ席に戻っていった。そしてメアリーも同じように自分の席へ向かっていく。その去り際にーー
「ね? 大丈夫だって言ったでしょ。カタリナに恥をかかたあの男が如何にドクズかは私がしーっかり語っておいたから令嬢達はこっちの味方よ。安心しなさい」
「え、何したの!?」
「ふふっ、女を敵に回すとどうなるか教えてあげるだけよ。私の友人を傷つけたんですもの。それ相応の罰は受けてもらわなきゃね」
笑っていない瞳で微笑んでみせたメアリーはそう言って立ち去っていった。
ちょっと本当に何したのよー!?
相手は侯爵子息なんですけど本当に大丈夫なの?
メアリーいわく、誰から始まったのかわからない不特定多数の噂が広まっているだけだから私達が罰せられる事はないとのこと。
「そもそも事実しか話してないんだから自業自得よ」
そう言ってアルバート様の背中を睨みつけていたメアリーを見て、私は友人が思いの外、私の為に怒っていた事を知った。
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