(元)独りぼっち幽閉娘の流刑島暮らし〜不本意ですが、毒母のスペアに覚醒します〜

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厳しい幽閉生活

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 侍女さんがいなくなった翌日。
 昼間っから酒臭い女達が私の世話役としてやってきた。

 どっからどう見ても働く気なんてないと思われる薄汚れたワンピースを着ていた女達は酒瓶片手に私を部屋から追い出して自分達の溜まり場にした。

 侍女さんとは違う服。
 あきらかに酒臭くて態度も悪い。
 きっと王城勤務の人間ではないだろう。質が悪すぎる。

 それに女達は私を罪人の娘と呼んだ。
 私が王太子妃の不義の子とは知らない様子。

 きっと極秘情報を知る立場にはないのだろう。

 だからなのか女達は塔に幽閉された罪人の娘なんかに気を遣う必要はないと思い至った様子で、ぞんざいに扱うようになり塔にやってきては毎回部屋を占拠して、私を追い出した。

 部屋の外に追い出された私は塔の下に続く長い階段が定位置となった。一応私の食事を持ってきてくれたのか、毎日布袋に詰められた三つの黒パンと黒ずんだ果物が与えられた。

 部屋から聞こえる下女達の下品な笑い声をBGMにして、黒パン齧る。

 階段は室内よりも数倍暗くて寒かった。
 女達が持っていたランタンが欲しいと何度も思った。

 暗闇の中、私には目の前の物がぼんやりとした影のように見えるだけ、段差が何処にあるのかはわからなかった。冷たい石床を這いながら手探りで階段の位置を確認して腰を下ろした。

 女達が来てから毎日食べることになった黒パンは岩のように固くて食べ物とは思えなかった。まず歯が全然役に立たず、固すぎて噛み切れず、手でちぎるのも困難だった。興味本位で石床に打ちつけるとカンッカンッと音がなった。あれはどう考えても食べ物の音じゃないと思う。……しかもこの黒パン、問題なのは固さだけではなかった。口の中の水分が全て持っていかれるパサつきと妙な酸っぱさがあった。

 パンなのに酸っぱいのは何で?
 
 黒ずんだ果物は見ての通り腐っていた。
 力のない小さな手で皮を剥き、実を見ると中は茶色くなってぶにぶにとしていた。甘ったるくて喉の奥がキュッと閉まるような酸っぱい妙な匂いがした。わかるとは思うがこれは人が美味しさを表現する甘酸っぱいという意味ではない。ゲロ吐きそうな鼻につく異臭なのだ。試しにペロリと舐めてみたところ、舌がビリビリッとした。アウトだ。身体の軟弱な子供が食べたら腹を壊すだけではすまない。

 こうして私は突然の食糧難に陥った。

 はじめは意地で固くて不味いパンを食べた。
 けれど固いパンに顎が痛くなり、食べるのが嫌になった。

 恐る恐る女達にそのことを言っても……

「罪人の子が文句言ってんじゃない! 生かされてる事に感謝しな! この役立たずが!」

 怒鳴られるだけで改善する事はなかった。

 鬼の形相をしていたから殴られなかっただけ良かったと思わなくてはならない。どうせ怪我しても誰も手当てなんてしてくれないし、痛いのはいやだもの。

 毎日、毎日、固くて不味いパンを食べる。食べる。食べ……られるかああああ!!!

 我慢の限界に達した私はこの状況に甘んじる事を止めた。
 女達はどうせ私を世話する気はないし、性格も悪い。
 誰の助けも来ないのだ。
 自分でどうにかするしかない。

 そう決意した私はまず目の前に続く長い長い階段と向き合った。成長した大人の身体であれば何も思うことはない段差が、小さな身体の私には一段、一段が断崖絶壁の崖のように見えた。

「っ……ひぃい!」

 意を決して地面にしがみつきながら足を下ろす。腹這いになってずりずりと後ろに下がり、浮遊している足で地面を探す。力のない腕がプルプルと震えるが、ここで気を抜いたら下まで真っ逆さまだ…と自分に言い聞かせて耐えた。そうしてつま先がなんとか地面を見つけ、ようやく一段降りる事が出来た。これだけで数十分以上かかった。

「ふぃ~、しゃきはにゃがい」

 そこからは又も訓練の日々が始まった。
 毎朝女達がやってきて、私の部屋で酒ありの談笑を始めて追い出され、口の中でふやかしたパンを無心で咀嚼して腹を満たし、階段の上り下りを練習した。

 私の安全第一。でも素早い動きを目指して奮闘した。
 
 まだ発達途上の幼い身体は毎日疲労と筋肉痛に蝕まれたが、それは生き残る為に必要なことだと自分に言い聞かせて毎日疲弊した身体を酷使した。

 そうして半年かけてようやく一時間ほどで階段の終わり、塔の出入り口まで辿り着けるようになった。


 


 
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