7 / 44
第7話 両親
しおりを挟む父親が独りで亡くなってから、母親の再婚相手の父親は、なおさら、さやかに馴れ馴れしくなった。
「さやか、血はつがらないけれど、これからは、お父さんと呼びなさい」
実の父親が死んだ次の年の春、さやかが中学生に入学した時だった。
母親から小学生のさやかに、母親はそう言った。
ただですら、苦手だった母親の再婚相手を「お父さん」と呼ぶのは、さやかにとって、ほとんど母親の命令だった。
「無理して呼ぶことはないんだよ?今までみたいに、おじさんと呼んでくれて」
そう言った母親の再婚相手は、まんざらそうでもなく、笑ったので、家に居場所がないさやかは、ますます追い詰めらた。
兄ミタカの父親を「お父さん」と呼ぶ度に、さやかの口から出る「お父さん」は独りで亡くなった、さやかの本当の父親であり、虚しくなる。
用事がある時に、小学生のさやかが「おじさん」と呼ぶと、台所にいた母親が振り向き、不機嫌そうに、さやかを睨む。
「お父さん」と言い直した、さやかの口から出た言葉には、何の感情もなく、口から出た言葉だけが虚しく、中身が空っぽのまま、床に落ちていった。
母親の再婚相手を「お父さん」と呼ぶ度に、さやかの心の中では、違和感が広がり続け、虚しさに苛まれた。
大人になり、自分も華の母親になってから、さやかは、あの違和感の正体を知る。
歪なのだ。
石田と結婚してから、さやかは母親の再婚相手を「おじさん」と呼べるようになった。
結婚当初、石田が「さやかが、お義父さんをお父さんと呼ぶ時、苦しそうだけど、あれ、何?」
もともと石田は、さやかと違い、何でもストレートに聞いてくる。
散々、悩んだ後「お父さん」と呼ぶ経緯を話したら、いつの間にかに、さやかは石田の前で泣いていた。
話を静かに聞いていた石田だったが、さやかが泣き終わると、ポツリと言った。
「さやかのお父さんは、亡くなったお父さんなんだろう?無理に、無駄に、さやかが泣くまで苦しむ事はないだろ」
それからは、素直に兄ミタカの父親を「おじさん」と呼べるようになった。
最初は、母親も兄ミタカの父親も戸惑ってはいたけれど、結婚してから心境でも変わったのだろうと、そのまま兄ミタカの父親は、さやかの「おじさん」になった。
0
あなたにおすすめの小説
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
二度目の初恋は、穏やかな伯爵と
柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。
冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる