兄に恋した

桜海 ゆう

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第44話 出発

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   秋。

  うだるような暑い夏が終わりかけた季節、さやかのもとにミタカからLINEが一つだけきた。


   会社から新しい仕事を任され、付き合い出した女性がいると。


   さやかは、お兄ちゃん良かったねと返信してLINEを閉じた。



    ミタカの元妻のエリさんは、大学の同窓会で会った、まだ独身の元カレとよりを戻したという。

  
    友人のトモコは、性同一性障害、今の専門用語では性別違和症候群と言われているが、パートナーをトモコの親の養子縁組として本格的に迎えるために、会社に報告したらしい。


  トモコの悪い想像とは違い、会社の上司も同僚も部下もトモコの仕事ぶりをかっていた為、あっさり理解してもらえた。


    ミタカの母親の土田ヨキナは、うつ病が良くなったり、悪くなったりしながらもパートを続け、月に1度はトモコの母親とショッピングに行くほど仲が良い


  
   ミタカの父親、佐藤カツヤは独り暮らしをし、元気にしていてると風の便りで聞いた。

  
     さやかの実母、トヨコはマンションに独り住み、さやかの実父の月命日には墓参りに行っている。


    
   さやかはと言うと、お腹がぽっこり膨らんだ横で華が、小さな腕組みをしていた。

   「女の子だったら、妹って名前にする、男の子だったら、弟って名前にする」
     斬新な華の名前のつけかたに、リビングにいた、日曜日で会社が休みの石田も、さやかも笑い、華だけが、きょとんとしている。


 
    2人目の妊娠が分かったのは、夏だった。華が赤ちゃん返りをしたり、不安定になるのではと、石田と心配していたが、杞憂に終わった。


    華は自分に妹か弟が出来る事を喜んでくれた。


    まさか子供を2人も授かるとは思っていなかったさやかは、独身時代の、孤独だった子供時代の自分に言ってあげたい。
   「将来、あなたは独りではないんだよ」と一言だけを。


    華がお腹に手をあてて、穏やかに笑っている。その穏やかな微笑みが、亡くなったさやかの実父のトヤマとどこか似ていた。


   さやかは、華の頭を撫でながら微笑んだ。

    
     さやかとミタカは、兄妹だ。

  恋のような、愛のような、同士のような不思議な関係から、血の繋がらない兄妹に戻った。


    ぼんやり考えていたら、お腹にいる子供がお腹の中で動いた。



    それは、まるでさやかに自分の人生を前に進めとばかりに。


    チャイムが鳴る。


   妊娠の報告をしたら、トモコが会いたいと言ってくれてパートナーを連れて来る時間だった。


    さやかは、自分の人生を進めるかのように、席を立ち玄関のドアへと向かう。


      ドアを開けると、甘い甘い金木犀の花の香りが風と一緒に、さやかの髪を揺らした。

    


   





   

   
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