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第17話 明らめる
しおりを挟むガシャン!
台所のシンクの中で白い皿が割れた。
呆然とサユコは、流れる水と粉々になってしまった皿を見つめていた。
私はいつまでいない家族の食事を4人分を作り、テーブルに置き、1人分を食べ、3人分の料理を捨て、皿を洗い続けるのだろう。
これでは、公園でひらかれる幼
子のおままごとよりひどい1人芝居だ。
すでに季節は暑い夏から秋へと移動しているというのに、私はいつまで現実を見ないつもりだ。
夫の真と一卵性双生児の娘二人が失踪してから2ヶ月経過していた。それでも世間は何事もなかったのように進む。
必死で姉のマユコの真似をして、必死に家族を作ってきた。
偽物の家族を自分の手で。
震える手で割れた皿を拾ったら右手の人差し指をスパッと切った。
流れる水と一緒に、ひとすじの赤い血が流れていく。サユコはぼんやりとそれを見ていた。
亡くなった双子の姉と同じ死んだ両親の血が流れているというのに、私は姉のように子供が好きなわけでも、家族を作りたいわけでもなかったのに。
罪悪感がサユコの胸に押し寄せてきた時だった、ひんやりとしたリビングに置いてある電話がなった。
一瞬、動揺した自分が嫌になった。このまま夫も娘達も帰ってこなければ・・・なんて気持ちがどこかにある。
右手の人差し指を近くにあったタオルで止血しながら恐る恐る電話にでた。
「ああ、サユコ?」
両親が事故で亡くなった時に、親戚が姉妹の今後で揉めた時に、二人を引き取り子供として育ててくれた叔母だった。
声が亡くなった母親に似ているが、すでに70後半の年齢になっているせいか、低く落ち着いた声になっている。
「叔母さん、どうしたの?」
久しぶりの電話に動揺しながらも、右手の鋭い痛みに気がいっているのかフラットな声が出た。
叔母と叔父は、姉妹を養子縁組した時から無理に自分達を母親、父親と呼ばなくて良いと言ってくれた。サユコもマユコも、叔母夫婦が継いでくれた両親の仏壇に毎日、学校に行く前に「お父さん、お母さん、行ってきます!」と堂々と言えた。
「叔母さん、叔父さん行ってきます!」と言っても2人とも優しい笑顔で学校へ見送ってくれた。
「声が疲れてるみたいだけど、大丈夫?もうすぐまゆとみゆの誕生日じゃない?プレゼント何がいいかなあって」
「えっ」
思わず声が出てしまった。母親である自分が、2人の娘の11月の誕生日を忘れていた。胸がキリキリ痛む。
「もう29になるし、誕生日プレゼントもどうかと思ったけど、やっぱり孫は可愛いのよ」
叔母夫婦は、まゆとみゆが産まれた時にとても喜んでくれた。自分達の孫としても可愛がり、まゆとみゆは本当の祖父母だと思っている。
「ああ、そうね。2人とも仕事が忙しくて忘れてたわ・・・」
思わず嘘をつくと、叔母が黙った。叔母は聡いのだ。
「この前・・・ずっと前なんだけど真さんから電話がきてねサユコが喫茶店で働いていた時の話を聞いてきたのよ」
思わず、止血していたタオルを落とした。サユコの心臓の脈が速くなる。
「真さん、何だか様子がおかしくてね、電話を切ったんだけど、まだまゆとみゆも小さかったし父親として悩んでいたのかとも思ったんだけど・・・あれはサユコの事を聞いてきたんだと今なら思うのよ」
右手の人差し指の血が止まった傷がズキズキと痛み、呼吸が早くなった。
「サユコ、私はあなた達を養女として迎えだけれど本当の娘達だと思ってる。家族なんて、どんな形でもいいのよ。サユコはずっとマユコばかりを見ていたけど、私もマユコもそのままのサユコが好きなのよ、わかってる?」
気がついたら、サユコの両目から何年も流していない大坪の涙がポロポロ流れていた。
何も聞かず、何も言わず、諭す叔母は昔から怒る事もない人だったが真実をいつも見抜いている。
「家族だって、壊れたなら直せばいいのよ。サユコは昔から裁縫が得意でマユコや娘達の洋服や手さげ袋を縫ってあげたじゃない。サユコだけが出来たことよ」
思わず受話器をキツく握りしめながら、サユコは声をあげて泣いていた。
「まゆとみゆのプレゼント、考えておいてね。何かあったらいつでも電話しなさい」
サユコの泣き声も、嗚咽も聞こえているというのに叔母はそう言って、静かに電話を切った。
受話器を落とし、サユコは誰もいないリビングで声をあげて泣いた。
偽物は、マユコのふりをしている自分ではないか。
真が好きで、苦手な子供なのに娘達は可愛くて偽物の自分でも必死に作ってきた家族だ。
泣き止むと、いつの間にか右手の人差し指の傷から血は止まり、傷口が乾き始めている。
取り戻さなければ。自分の家族を。
サユコは、涙をエプロンでふきながらゆっくりと立ち上がった。
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