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第1話 カモメ君と会話
しおりを挟む「カモメ君、偏差値75って本当?」
まずった。制服を第一ボタンまで止め、背筋を伸ばし、黒ぶちメガネをかけ、人を射ぬくような観察眼のある目をした、田中カモメ君に話す第一声の初手を間違えたと、佐々木ラナは動揺した。
中学2年A組に上がった佐々木ラナは、入学式から名前と市内一秀才で有名な田中カモメ君が気になっていた。
もちろん、恋じゃない。ただの好奇心だ。
1時間目の授業が終わり、休み時間に同じ班になった田中カモメ君が独りで座って教科書をまるで雑誌を読むようにパラパラめくっていたので、ラナは他の子達が話に夢中になっているのを見計らい、話しかけたのだ。
カモメ君は、黒ぶちのメガネの中から、お菓子のハッピーターンを横にしたような横長の人を見透かす目でラナを無言で見上げてる。
「あの、今年から受験生だから、参考にしようかな、なんて、でもカモメ君の行く高校に行ける頭、私にないし」
周囲から、カモメ君に話しかけたラナ好奇の目の視線が突き刺さり始めたラナは、慌てて話を終わりにしようと、カモメ君の席から去ろうとした時だった。
「里山さん、いくら僕だって75はないよ。私服で行ける都立は狙っているけれど、里山さんだって一年頑張れば受験で合格出来るよ」
あまりにも単調で、大人っぽい静かな声に、自分が周りの目を気にした子供っぽい態度に、ラナは恥ずかしくなった、
「カモメ君が行く高校なんて、私は行けないよ」
休み時間が終わるチャイムが鳴り、チャイムの音にかきけされるような小さな声で、ラナは呟いた。
カモメ君は、読んでいた今日からを机の上に静かに置くと、ラナを哀しい目でみる。
「何で?」
カモメ君が、一言行った瞬間、ラナは自分で自分に言い訳して、自分を守っている自分が恥ずかしくなった。
「進路は、里山さんの勝手だけどさ、何で自分を自分で決めちゃうの?」
教室の前のドアが威勢よく開き、理科の男性教諭が、入ってきてラナを少しにらんだ。
慌てて、ラナはカモメ君の斜め横の席に着席する。
だが、カモメ君から思いもしない一言を言われたラナは、理科の教科書を取り出す自分の手がふるえている事にすら気がつかない。
これが、ラナとカモメ君との始まりの会話だった。
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