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第1章:ルーク・サーベリーの帰還
第58話:50層の封印
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ゲイルがルークを睨みつけて不敵に笑う。
「ちょうどいい機会だ。貴様もついてこい」
そう言うと踵を返して50層への階段を下りていった。
第50層、そこはダンジョン最奥部であり、かつてアロガス王国を蹂躙した魔獣が封印されている座だ。
そして一行の目の前にはその封印がそびえていた。
高さ十数メートルはあろうかという巨大な扉が丸太のような閂で閉じられ、幾重にも鎖がかけられている。
人々はこれを禁竜錠と呼んでいた。
「これが禁竜錠……」
アルマが強張った声で呟く。
隣で見上げるルークも緊張した面持ちで見ている。
それは迫力に圧倒されたからではない、封印が解けかかっていることに気付いていたからだ。
強固なように見えるが鎖はところどころが千切れかけ、閂も劣化が甚だしい。
そして見た目以上に魔導的封印が消えかかっている。
このままでは早晩封印としての意味をなくしてしまうだろう。
一刻も早く封印の儀式をはじめなくては。
「おい、ここに封じられている魔獣は何という」
ルークが進言しようとした時、ゲイルがぶっきらぼうに尋ねた。
「は、ここにいますのは年経た灰色竜でございます。100年前にセントアロガスに現れ、封印するのにアロガス国軍が総力を挙げてあたったと……」
傍らに控えていた魔導士長、ギュンター・ワイズが冷や汗を吹きながら答える。
「今すぐこの封印を解け」
「は?……今何と?」
ギュンターが呆けた顔で問い返した。
ゲイルが何を言っているのか理解できなかったからだ。
「聞こえなかったのか、この封印を解けと言ったのだ。今すぐやれ」
「何を言ってるんですか!」
ルークが叫んだ。
「ここに封印されているのは先ほどの魔獣とはわけが違うんですよ!しかもこの封印は解けかけている、今すぐ再封印しないと大変なことになってしまう!」
「ならば尚更都合がいい」
ゲイルが不敵に笑う。
「こんなものをいつまでも閉じ込めておくから4年おきに大規模討伐などをせねばならんのだ。そんなくだらぬことをしないで済むように今ここで俺が討伐してやる」
「馬鹿な!」
ルークが叫ぶ。
「兵士たちだって疲弊している!こんな状態で灰色竜と戦って勝てると思ってるんですか!」
「俺に指図するな!」
ゲイルが吠えた。
「貴様如きが俺に意見できるなど思い上がるんじゃない!おい、さっさと封印を解け!この俺様が直々に竜退治をしてや……」
バキン
ゲイルの言葉を待たずに鈍い金属音が響いた。
直後、人の胴体よりも太い鎖が落下してくる。
しかも1本ではない、幾重にもかけられていた鎖が次々に断ち切られ、落ちてくる。
扉にかけられていた閂に亀裂が入った。
「ふん、ようやく封印を解いたか。グズグズしやがって」
ゲイルが不敵な笑みと共に剣を抜き払う。
「いえ……我々は何もしておりませぬが」
そう答えるギュンターの顔は血の気が引きすぎて青黒くなっている。
「なに?」
「……遅かったか」
ルークは歯噛みをした。
見た瞬間に封印が長く持たないことはわかっていた。
それでもついてすぐに儀式をしていれば間に合っていたかもしれないのだ。
しかし今や封印は破られた。
閂は2つに割れ、重い扉が内側から開かれようとしている。
「ふ、ふん!結局は俺が倒せばいいだけのことよ!おい、貴様はそこで見ていろ!今度は邪魔するんじゃあないぞ!」
剣を構えたゲイルがルークに嘯くが流石に緊張しているのかその頬を汗が伝っている。
やがて耳をつんざくような軋み音と共に巨大な扉が開かれた。
暗闇の中から白骨のような灰色竜の頭部が浮かび上がる。
身構える兵士たちの間に緊張が走った。
しかし灰色竜はそこから動こうとしない。
やがてその頭部がぐらりと揺れた。
そのまま力なく地面へと落下する。
地響きと共に落ちてきたそれは……灰色竜の頭部だった。
首から先が何者かによって食いちぎられ、完全に死に絶えている。
「……これは、どういうことだ?」
「みんな下がるんだ!」
訝しげな表情でゲイルが近づこうとした時、ルークの声が轟いた。
詠唱を続けていた防御魔法が展開されるのと扉の奥から凄まじい魔力弾が飛んできたのはほぼ同時だった。
ルークが展開した防御魔法を一瞬で破壊した魔力弾はあらぬ方向へと逸れて壁に巨大なクレーターを作り上げる。
「おい!どうなっているんだ!封印されているのは灰色竜だけじゃなかったのか!まさかこいつは灰色竜の餌だっていうのか!」
突然の攻撃にゲイルも完全に浮足立っている。
「それは紛れもなく灰色竜です」
ルークが次の詠唱を行いながら緊張の面持ちで応える。
「なにい!?」
「灰色竜は食われたのです。あの中にいる存在に!」
ルークが極大爆雷魔法を放った。
それは今まで使ってきたどんな魔法よりも強力な破壊力を持っていたのだが、扉の中に届く前に霧散してしまった。
中にいる存在が持つ魔力が大きすぎて届かないのだ。
ゆっくりとそれは外に出てきた。
まるで巨大な闇が出てくるようだった。
圧倒的存在感に兵士たちは立っていることもできずに腰を落とし、呆然と見上げているばかりだ。
「な、なんだあれは……」
ゲイルすらも知らず知らずのうちに数歩後退っていた。
思わず腰が引けそうになるのをこらえながらルークが呟く。
「あれこそが神話上の魔獣、かつていくつもの都市、国家を滅ぼしてきた最強の存在、神獣ベヒーモスです」
「ちょうどいい機会だ。貴様もついてこい」
そう言うと踵を返して50層への階段を下りていった。
第50層、そこはダンジョン最奥部であり、かつてアロガス王国を蹂躙した魔獣が封印されている座だ。
そして一行の目の前にはその封印がそびえていた。
高さ十数メートルはあろうかという巨大な扉が丸太のような閂で閉じられ、幾重にも鎖がかけられている。
人々はこれを禁竜錠と呼んでいた。
「これが禁竜錠……」
アルマが強張った声で呟く。
隣で見上げるルークも緊張した面持ちで見ている。
それは迫力に圧倒されたからではない、封印が解けかかっていることに気付いていたからだ。
強固なように見えるが鎖はところどころが千切れかけ、閂も劣化が甚だしい。
そして見た目以上に魔導的封印が消えかかっている。
このままでは早晩封印としての意味をなくしてしまうだろう。
一刻も早く封印の儀式をはじめなくては。
「おい、ここに封じられている魔獣は何という」
ルークが進言しようとした時、ゲイルがぶっきらぼうに尋ねた。
「は、ここにいますのは年経た灰色竜でございます。100年前にセントアロガスに現れ、封印するのにアロガス国軍が総力を挙げてあたったと……」
傍らに控えていた魔導士長、ギュンター・ワイズが冷や汗を吹きながら答える。
「今すぐこの封印を解け」
「は?……今何と?」
ギュンターが呆けた顔で問い返した。
ゲイルが何を言っているのか理解できなかったからだ。
「聞こえなかったのか、この封印を解けと言ったのだ。今すぐやれ」
「何を言ってるんですか!」
ルークが叫んだ。
「ここに封印されているのは先ほどの魔獣とはわけが違うんですよ!しかもこの封印は解けかけている、今すぐ再封印しないと大変なことになってしまう!」
「ならば尚更都合がいい」
ゲイルが不敵に笑う。
「こんなものをいつまでも閉じ込めておくから4年おきに大規模討伐などをせねばならんのだ。そんなくだらぬことをしないで済むように今ここで俺が討伐してやる」
「馬鹿な!」
ルークが叫ぶ。
「兵士たちだって疲弊している!こんな状態で灰色竜と戦って勝てると思ってるんですか!」
「俺に指図するな!」
ゲイルが吠えた。
「貴様如きが俺に意見できるなど思い上がるんじゃない!おい、さっさと封印を解け!この俺様が直々に竜退治をしてや……」
バキン
ゲイルの言葉を待たずに鈍い金属音が響いた。
直後、人の胴体よりも太い鎖が落下してくる。
しかも1本ではない、幾重にもかけられていた鎖が次々に断ち切られ、落ちてくる。
扉にかけられていた閂に亀裂が入った。
「ふん、ようやく封印を解いたか。グズグズしやがって」
ゲイルが不敵な笑みと共に剣を抜き払う。
「いえ……我々は何もしておりませぬが」
そう答えるギュンターの顔は血の気が引きすぎて青黒くなっている。
「なに?」
「……遅かったか」
ルークは歯噛みをした。
見た瞬間に封印が長く持たないことはわかっていた。
それでもついてすぐに儀式をしていれば間に合っていたかもしれないのだ。
しかし今や封印は破られた。
閂は2つに割れ、重い扉が内側から開かれようとしている。
「ふ、ふん!結局は俺が倒せばいいだけのことよ!おい、貴様はそこで見ていろ!今度は邪魔するんじゃあないぞ!」
剣を構えたゲイルがルークに嘯くが流石に緊張しているのかその頬を汗が伝っている。
やがて耳をつんざくような軋み音と共に巨大な扉が開かれた。
暗闇の中から白骨のような灰色竜の頭部が浮かび上がる。
身構える兵士たちの間に緊張が走った。
しかし灰色竜はそこから動こうとしない。
やがてその頭部がぐらりと揺れた。
そのまま力なく地面へと落下する。
地響きと共に落ちてきたそれは……灰色竜の頭部だった。
首から先が何者かによって食いちぎられ、完全に死に絶えている。
「……これは、どういうことだ?」
「みんな下がるんだ!」
訝しげな表情でゲイルが近づこうとした時、ルークの声が轟いた。
詠唱を続けていた防御魔法が展開されるのと扉の奥から凄まじい魔力弾が飛んできたのはほぼ同時だった。
ルークが展開した防御魔法を一瞬で破壊した魔力弾はあらぬ方向へと逸れて壁に巨大なクレーターを作り上げる。
「おい!どうなっているんだ!封印されているのは灰色竜だけじゃなかったのか!まさかこいつは灰色竜の餌だっていうのか!」
突然の攻撃にゲイルも完全に浮足立っている。
「それは紛れもなく灰色竜です」
ルークが次の詠唱を行いながら緊張の面持ちで応える。
「なにい!?」
「灰色竜は食われたのです。あの中にいる存在に!」
ルークが極大爆雷魔法を放った。
それは今まで使ってきたどんな魔法よりも強力な破壊力を持っていたのだが、扉の中に届く前に霧散してしまった。
中にいる存在が持つ魔力が大きすぎて届かないのだ。
ゆっくりとそれは外に出てきた。
まるで巨大な闇が出てくるようだった。
圧倒的存在感に兵士たちは立っていることもできずに腰を落とし、呆然と見上げているばかりだ。
「な、なんだあれは……」
ゲイルすらも知らず知らずのうちに数歩後退っていた。
思わず腰が引けそうになるのをこらえながらルークが呟く。
「あれこそが神話上の魔獣、かつていくつもの都市、国家を滅ぼしてきた最強の存在、神獣ベヒーモスです」
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