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第2章:勇者と商人

第108話:魔獣活性の終わりと新たな危機

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 森の中にある広場に音楽と歌声、人々の陽気な声が流れている。

 広間では魔獣活勢アクティベートの終了を祝う宴が開かれていた。

 森の村から十人が集い、獣人と人族の区別なく肩を組み合い、共に笑っている。

 そしてその輪の中心にルークたちはいた。

「こんなに嬉しい《終わりの宴》は久しぶりだ!」

 ボルズの声にあちこちから賛同の雄叫びが巻き起こる。

「それもこのルークさんのおかげだ!この人がいてくれたから俺たちはこうしてここにいられるんだ!」

 再び歓声が広場を包み込む。

「俺たちは今までバラバラだった!貧困に苦しみ、疑心暗鬼になって村同士でいがみ合っていた。街の冒険者たちにいいように利用されていたのもそのせいだ。しかしこれからは違う!森のみんなで協力し合おうじゃないか!力を合わせれば無理だと思うようなこともできる、みんなもそれを実感したはずだ!」

「「「「おおっ!」」」」

 人々の間から叫ぶような賛同の声が上がった。

「人も獣人も関係ない、俺たちは森に住む仲間だ!そうだろ?」

 ヒクシンが立ち上がる。

「もう街の顔色を窺いながら生きるような真似は終わりだ!俺たちは誇りを持って生きようじゃないか!」



「ルーク殿、本当にありがとうございました」

 ナミルがルークの隣に腰を下ろして酒瓶を差し出した。

「こうして森の住人が1つにまとまったのも全てあなたのおかげです」

「そんなことはないですよ」

 ルークが頭を振る。

「僕は自分にできることをしただけです。こうなるように決断したのはみなさんですから」

「それでもお礼を言わせてください」

 ナミルは酒瓶を傾けながら言葉を続けた。

「ボルズの言う通り我々はバラバラでした。儂としてもみなの暮らしをよくするためには森の中で力を合わせることが重要だと分かってはいたのですが……なかなか思うようにいかずいつしか貧困をしょうがないものとして受け入れてしまっていた。そしてその諦めが疫病のように村人たちにも蔓延していったのです。言ってみれば今までの村の惨状を招いたのは儂の責任なのです」

「ナミルさん……」

「しかしあなたと会って村の若者たちは変わった。みな自分たちに自信を持つようになり、近隣の村を思いやる気持ちまで生まれてきた。こんなことはこの数十年で初めてのことです。あなたは我々にはできなかったことをしてくれたのです」

 ナミルは頭を下げた。

「あなたにはどれほど礼を尽くしても足りぬほどです。我々クリート村の住民はあなたのしてくれたことを決して忘れぬでしょう」

「いいんですよ。僕もしたくてしたことです。それにこの村で師匠のことを知ることができましたから」

 ルークは手を振って微笑んだ。

「おかげで師匠の別の一面を知ることができました。千年以上師匠のことを伝えてくれたことに感謝したいのは僕の方です」

 イリスを解放する、それはルークの目標だったがそれには大きな問題が立ちはだかっていた。

 ― 果たしてイリスは解放しても良い存在なのか? ―

 旧帝国滅亡の一因とも言われているイリスは人族から最悪の悪神として忌み恐れられている。

 彼女を悪の根源と定義している宗教もある位だ。

 イリスを解放することに迷いはない。

 しかしそれを実現させるために並々ならぬ困難を乗り越えなくてはならないこともよく分かっていた。

 そのために最も必要なのが解放するにあたっての裏付けだ。

 その足掛かりがクリート村で見つかったのだ。

 ルークにとってこれは大いに勇気づけられる出来事だった。

「そう言えばあなたは紅角姫様を解放すると仰っていましたな」

 ナミルは興味深そうに顎をさすった。

「もしそれが叶うのであれば儂も是非ともお目にかかりたいものですな」

「もちろん師匠を解放した時はまっ先にクリート村を紹介しますよ。次に会った時に話すのが楽しみです」

 ルークとナミルは笑みをかわすと盃を鳴らした。




    ◆




「うわっ!なんだ?」

「あぶねえっ!」

 宴もたけなわとなった頃、突然走竜が宴会の輪の中に飛び込んできた。

「ナターリア?なんでここに?」

 転がり落ちるように走竜から降りてきた人を見てシシリーが驚きの声をあげる。

 それはメルカポリスにいるはずのナターリアだった。

「メルカポリスに避難してたんじゃ……って、ナターリア?」

 近寄るシシリーにナターリアがぐらりと倒れこんだ。

「ちょっと……これ……凄い熱だよ!?」

 ナターリアは全身から汗を吹き出し、苦しそうな浅い呼吸を繰り返している。

「これは……まさかそんな……そんな馬鹿な……」

 その様子を見たナミルが息を呑んだ。

「ナターリア殿は……黒斑熱に罹っておられる」

「本当ですか!?」

 ルークは驚きに眼を丸くした。

 言われてみれば確かに胸元に黒い痣のようなものが浮かんでいる。

 話には何度も聞いたことがあるが実際の症状を見るのはこれが初めてだった。

 かつて発症すれば8割が死に至ったという恐るべき死病、まさかナターリアがその病気に罹っているなんて。

「ル……ルーク……それにみんな……た……大変なことが……」

 ナターリアが苦しそうに口を開いた。

「ま……街に……黒斑熱が……広がってる」

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