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第3章:南海の決闘

第133話:南海の楽園

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「うわぁ~」

 アルマが歓声を上げる。

「近くで見ると更に奇麗!」

 荷物を置いた2人は早速ビーチに来ていた。

「見て見て!ルーク!淡い緑をしていてまるで魔法薬みたい!こんなにたくさんの水どこから来たんだろう!」

 アルマは完全に浮かれ切っている。

「アルマ、あんまりはしゃぐと危ないよ」

「大丈夫だってば!ルークも来てよ!足の裏が動いて面白いよ……きゃあっ!」

 波打ち際で遊んでいたアルマが波に足を取られて浜辺に尻もちをついた。

 そこへ波が覆いかぶさってくる。

「きゃあっ……って、しょっぱい!海って本当にしょっぱいのね!」

「だから言ったのに……大丈……」

 手を伸ばしかけたルークの言葉が止まる。

「ルーク?どうしたの?私の顔に何かついてた?」

 慌てて顔を背けたルークにアルマが不思議そうな顔をする。

「い……いや……アルマ、その……シャツが……透けてる……んだけど」


「うそっ!って大丈夫だってば、下に水着を着てるから」

 アルマは笑いながら上に羽織っていたシャツを脱いだ。

 その下から艶やかな黒い水着に包まれた豊満な双丘が現れる。

 珍品と呼ばれる一角アザラシの毛皮で作った最高級品の水着だ。

 耳たぶまで真っ赤になりながらアルマが上目遣いにルークを見上げる。

「ど……どうかな……」

「う、うん……凄く似合ってる……と思うよ」

 ルークも頬を染めながら頷いた。

(よっしゃ、シシリーグッジョブ!)

 アルマは心の中で拳を握った。

 シシリーの勧めもあり、血のにじむような思いで買ったのだ。


「ね、ルークも一緒に泳ごうよ!水が冷たくて気持ちが良いよ」

「いや、僕は遠慮しておくからアルマは楽しんできてよ」

「そうなの?」

 ルークの返事にアルマが意外そうな顔をする。

「こんなに奇麗な海だからきっと泳ぐのも楽しいよ」

「いや、僕はそういうのは」

 その時波打ち際に座っていた2人のところに大きめの波が打ち寄せてきた。

「うわあっ!」

 ルークが叫び声と共に両手をつきながら後ずさる。


「……」

「…………」

 沈黙の後でアルマが口を開いた。

「ひょっとして……ルーク、泳ぐのが苦手?」




    ◆




「水が苦手って、言ってくれれば良かったのに」

「それは……そうなんだけど……」

 ルークは日傘の下で膝を抱えていた


「苦手というわけじゃないんだよ、ただ……水に入るのが……あまり好きじゃないんだ」
「あ……」

 アルマが思い至ったように眉を上げる。

「あんなことがあったんだもんね……」

 叔父の放った殺し屋に狙われ、濁流の中に落ちたルークはそれ以来どうにも水を好きになることができなかった。

「師匠にもこのことで散々しごかれたんだけど結局まだ慣れることができなくて」

 イリスもルークの水嫌いを克服しようとあれこれ手を尽くしたのだが、それでも未だに水の中に入るのは抵抗がある。

「でも……それならなんでイアムに来ようと思ったの?ここは海で有名なところなのに」

「見る分には平気なんだよ。それにイアムには一度行ってみたかったし。それから……」
 そう言ってルークはアルマに微笑んだ。

「アルマが行きたがってたのは知ってたから。僕もアルマと一緒に行きたかったんだよ」

「ルーク……」

 アルマがルークの肩に頭を乗せる。

「ありがとう……私のために」

「いいんだ。僕も海は見たかったしね。それにここは噂通り本当に美しい場所だった。来て良かったと心から思ってるよ」

 ルークは海の彼方に目をやった。

 あの果てには何があるのかルークには想像もつかない。

 師匠は行ったことがあるのだろうか……この世界は丸いと言っていたけど、いつかそれを自分でも確かめてみたい、海を見ているとそんな気持ちが身の内に沸き起こってくるのをルークは感じていた。


「それよりもアルマだけでも泳いできたら?僕はここにいるからさ」

「いいの。私もルークとここにいる」

 首を振るアルマだったが泳ぎたくてうずうずしているのはルークにもわかっていた。

 普段から暇さえあれば公共のプールで泳いでいるとシシリーからも聞いている。

「僕は大丈夫だから。それにアルマが泳いでいるところを見てみたいんだ」

「そ、そう?ルークがそう言うなら……」

 ルークの言葉にアルマはそそくさと立つと海に向かって駆けだしていった。

 手を振りながら海に飛び込むと凄い勢いで沖に向かって泳いでいく。

 まるで海棲生物のような鮮やかさだ。

「凄いな……本当に泳ぎが得意なんだ」


「素敵な女性でございますな」

 アルマの泳ぎに感心していると後ろから声がした。

 振り返るとそこには執事のアルフレッドが音もなく立っていた。

「貴族のご子女でありながらそれをひけらかすでもなく、その立場に奢ることなく振る舞われております。フローラ様がお気に召すのも納得でございます」

「全くです。彼女の優しさと強さにどれだけ救われたか。アルマがいたから今の僕がいると言っても過言じゃないです」

「ルーク様、貴方様も大した御方です。辛い目に遭ってきたというのにそのような素振りは欠片も見受けられない。むしろそこらの貴族よりも泰然自若となさっておられる。王族の執事として数多の貴族と出会ってきましたが、貴方ほど悠然とした者はなかなかおりませんでした」

「そこまで褒められるとなんだが面映ゆいですね」

 ルークは恥ずかしそうに照れ笑いをするとアルフレッドに振り返った。

「それよりも僕に用があったのでは?」

 その言葉にアルフレッドが軽く頷く。

「お二方にパーティーに参加していただきたく、お願いに参りました」

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