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第3章:南海の決闘

第152話:拿捕

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 船内を沈黙が支配していた。

 先ほどまで罵声を張り上げていたドーキンは今や甲板で物言わぬむくろとなっている。

「な……何をしてんだ!」

 沈黙を破ったのはキールだった。

「何って、この者が海賊を働いていたと証言したのは貴様ではないか」

 刀についた血をぬぐいながらバラバドがうそぶく。

「だ……だからってこんな、いきなり殺さなくたって!」

「私は魔界領海内巡視隊小隊長を任されている。私の任務には領海内で起きた犯罪行為に対して刑を執行する権利も含まれている」

 詰め寄るキールに冷静に言い放つ。

「それで処刑したというわけですか」

 ルークが前に出た。

「何か文句でもあるのかね?」

「残念ながら魔界の法律には疎いのであなたの行為に正当性があるのかどうかはわかりかねます。が、領海内とはいえ他国の人間の命を奪うのは魔界の法と言えども許されるものではないのでは?」

 ルークの言葉にバラバドの瞼がぴくりと動く。

 甲板の空気が静かに張りつめていった。

「……何が言いたいのかね」

「別に何も。ただ僕は海賊行為だけではなく今さっき起きたことの証人にもなったということです」

 ルークはそれだけ言うと体を引いた。

「ともあれこれが海賊行為であることをあなたも認めたわけですから、僕たちの潔白も証明されたわけですよね。それならば開放してもらえますか。僕らはアロガス王国に戻らなくてはいけないので」

「それはできない」

「何故ですか?もう僕らに用はないはずです」

 バラバドがルークに指を突き出した。

「確かに海賊行為だと分かった以上君たちの証言は必要ないだろう。だがそれとは別件に君たちは魔界の法を犯している。領海侵犯という名の犯罪をだ。それを見逃すわけにはいかない」

「……!」

 ルークは思わず言葉を詰まらせた。

「何言ってんだよ!」

 抗議の声を上げたのはキールだった。

「救助の際に領海を越えて行動するのは協定で認められた行為じゃないか!」

「それはその通りだ。だが君たちが救助をしたという証拠はどこにもない以上我々も君たちを解放するわけにはいかない」

「私が証言してもですか」

「残念ながら君も当事者である以上証人とはならない。そもそも君たちがアロガス王国の貴族であるという確証もない。故に今後の措置は魔界当局に委ねることになるだろう」

 取り付く島もないバラバドを見てキールはルークの耳元に顔を寄せてきた。

「ルーク、どうしよう?このままだと素直に帰してくれそうにないみたい」

「残念だけど、どうしようもないね」

 ルークは諦めたように肩をすくめた。

「下手に逆らうとそれこそ立場が悪くなってしまいそうだ。ここは従うしかないだろうね」

「でもそれじゃあルークたちが帰れなくなっちゃうんじゃ……」

「まあしょうがないよ。これも運命だと思って諦めようよ」

 あっけらかんとしたルークとは対照的にキールは悔しさと申し訳なさで顔をゆがませていた。

「……ごめん。あたしのせいでルークたちにまで迷惑かけちゃって。こんなことになるなんて……」


 ルークは肩を震わせるキールの頭に優しく手を置いた。

「大丈夫、別に命まで取られるわけじゃないだろうし。それに自分のことを顧みずに助けに行ったキールの行動は立派だったと思う。僕は尊敬するよ」

「……ありがとう」

 キールがごしごしと目をこする。

「それに、考えようによってはこれは凄いチャンスかもしれないよ。なんせ特に手続きせずに魔界に行けるんだからさ!」

「……ルーク、さっきからあまり困ってないように見えたのはそれが理由だったのね」

 アルマが呆れたようにルークを見た。

「い、嫌だなあ、そんなわけないじゃあないか。僕はただ状況をなるべく肯定的に捉えようとしているだけだって」

 目を逸らしながらもごもごと言い訳をするルーク。

 しかしその体は期待でソワソワしっぱなしだった。

「まったく」

 アルマは軽くため息をつくとキールの肩に手を置いた。

「ルークはあんな感じだからそんなに気にしないで。私も平気だから。ルークと一緒だったらこんなトラブルはしょっちゅうだし、いつだって切り抜けてきたから大丈夫!」

「2人とも……ありがとう」

 キールが目を潤ませながら2人に笑顔を返す。

「……わかった、2人のことはあたしが何としてでも無事に帰してみせるから心配しないで!」

「話は終わったかね」

 うんざりしたような顔でバラバドが割って入ってきた。

「それでは我々の船に移ってもらおうか。君らの船は私の部下が操舵するから安心したまえ。逃げようなどとはゆめゆめ思わぬことだ」

「誰が逃げるもんか。言っとくけどあたしの船に傷1つでもつけてみな、そん時はあんたら全員鮫の餌にしてやるから」

 噛みつくように言うとキールはバラバドの前に立ってさっさと歩いて行った。

「いつものキールが戻ってきたね」

 ルークがアルマに耳打ちする。

「でも実際これからどうするの?私たちにとっては敵地に行くことになるのよ」

「それはまだわからない。とにかく魔界に行ってみないことにはね」

 心配そうなアルマにルークは肩をすくめてみせる。

「でもいずれにせよ魔界には行かなきゃ駄目な気がするんだ。今の南方領土は僕らの国から見ただけでは見えない部分があると思う」

「そうね、確かに行ってみないとわからないよね」

 アルマは大きく頷く。

「私はルークが行くところだったらどこにだって行くから」

「ありがとう、アルマが一緒にいてくれると僕も心強いよ」

 ルークはアルマの手を握ると優しく微笑んだ。

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