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第3章:南海の決闘
第172話:勢ぞろい
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「サ、サイフォスさん!?」
「おお、おぬしらは確か……誰だったかのう?」
ひらりと腕から飛び降りたサイフォスが屈託ない顔でルークたちに近寄ってきた。
切られた衝撃のせいなのか残っていた腕も山の奥へと引っ込んでいる。
「ルーク、ルーク・サーベリーです。アロガス王国の」
「おお、そうじゃったのう。確かそちらのお嬢ちゃんは……アル……いやエル……?」
「アルマです」
「そうそう、確かバスティーユ辺境伯の娘じゃったか」
「と、ともかくおかげで助かりました」
ルークがサイフォスに頭を下げる。
「なに、構わんよ。釣りに行こうとしたら蛸が陸に上がっていたから獲ってやろうと思っただけじゃからの。おかげでしばらく食事には困らなそうじゃわい」
カラカラと笑うサイフォス。
「蛸って……」
手にした剣を見ただけでもサイフォスが助けに来てくれたことは明らかだった。
聖剣オルカッツ、通常武器が効かない魔族をも両断するといわれるこの剣はサイフォスの代名詞でもある。
神獣クラーケンの腕を一刀のもとに切り落としたところを見るにその噂は事実、むしろ矮小されていると言っても過言ではないようだ。
「それでもありがとうございます。サイフォスさんが来てくれなければ危ないところでした」
ルークは再び礼を言った。
「礼を言うのはまだ早いようじゃぞ。どうやら奴さんはこちらに目を付けたようじゃからの」
サイフォスが山の方を見上げる。
木々の向こうに赤黒い丘のようなクラーケンの胴体が見える。
そしてその周囲に8本の巨大な腕がゆらゆらと揺れている。
まるで山がそのまま肉の花へと変貌したような、非現実的な光景だった。
「あれが神獣クラーケンか……本物を見るのは儂も初めてじゃな」
サイフォスは神獣を前にしてもどこか楽しげだ。
「しかしあれだけの図体、どう攻めたものかの……」
そびえるようなクラーケンの巨体を前に考えあぐねていると足音が聞こえてきた。
「おいおい!ありゃあどうなってるんだよ?なんなんだ、あのでか物はよお!?」
「ガストン?」
「そこにいんのはルークさんじゃねえか!ありゃどうしたんで」
「いや、そっちこそ、その顔は一体?」
ルークはガストンの顔を見て目を丸くした。
ガストンの全身痣だらけ、顔はぱっと見で本人とはわからないくらいに腫れあがっていたからだ。
「まさかゲイル閣下がここまでするなんて……」
「いや、あの人は大した人だぜ」
治癒魔法をかけながら思わず憤りの声をあげるルークとは裏腹にガストンは嬉しそうな顔をしている。
「あんなに強え人は見たことがねえ。いやただ強いだけじゃねえ、あの意志の強さ、態度のでかさ、あれこそ王となる器だぜ」
「そ、そうでしょうか……」
「ああ、実際に手合わせして分かったぜ、俺が目標とするべき人はあの人だってな!俺の師匠はあの人を置いて他にいねえ!」
「誰が師匠だ」
そこへのっそりとゲイルがやってきた。
「俺は弟子をとることに興味はない、勝手に名乗るな」
「へへっ、そんなこと言われて諦める俺じゃねえっすよ。俺は男としてあんたに惚れ込んだんだ、地獄の果てまでだってついてきますぜ」
「まったく……面倒な奴だ」
軽くため息をついたゲイルがサイフォスの存在に気付く。
「なんで師匠がここにいるんだ?」
「ふ、不肖の弟子が困ってるのではないかと様子を見に来たのよ」
「心にもないことを、と言いたいがあれがいる以上ただの軽口というわけにはいかないようだな」
サイフォスの言葉を一笑に付したゲイルがクラーケンを見上げる。
「あれは……」
「神獣クラーケンだろう、あれくらい見ればわかる」
クラーケンを見上げるゲイルの顔に緊張が走る。
おそらくベヒーモスとの戦いを思い出したのだろう。
それはルークも同じだった。
しかしだからと言って手をこまねいているわけにはいかない。
「このままでは島が危ない。僕は何としてもあれを止めるつもりです。手伝っていただけませんか?」
「……あれを止めるだと?貴様、自分の言っている意味が分かっているのか?」
ゲイルがルークの胸ぐらを掴んで睨み付けた。
「あの時とはわけが違う。貴様を手伝う軍も神獣を封印するための神殿もない、それでもやろうというのか!」
責めるようなゲイルの言葉にルークは静かにそれでいて毅然と頷いた。
「もちろんです。今止めなければクラーケンは完全に覚醒してしまいます。そうなれば手の施しようがありません」
「……ふん、後先考えん貴様のことだ、そう言うに決まっているだろうよ」
しばらく睨んでいたゲイルはやがて突き放すようにその手を放した。
「怖いのならついてこんでもええぞ。神獣にはお主も嫌な思い出しかないのじゃろう?」
飄々とした口調でサイフォスが剣を構える
「しかしこの年で神獣討伐ができるとはの。長生きはするもんじゃ」
「誰が怖いと言った!」
ゲイルが吠える。
「ったく、引退したと言ってたくせに、どこまでも油っこい爺さんだ」
呆れたように舌打ちをするとゲイルは再びルークの方を向くと指を突き付けた。
「ルーク、神獣討伐は俺も参加してやる。だが俺が貴様を手伝うんじゃない、貴様が俺を手伝うんだ。そこを履き違えるなよ」
「わかりました。よろしくお願いします」
ルークはにっこり笑うと頭を下げた。
「おお、おぬしらは確か……誰だったかのう?」
ひらりと腕から飛び降りたサイフォスが屈託ない顔でルークたちに近寄ってきた。
切られた衝撃のせいなのか残っていた腕も山の奥へと引っ込んでいる。
「ルーク、ルーク・サーベリーです。アロガス王国の」
「おお、そうじゃったのう。確かそちらのお嬢ちゃんは……アル……いやエル……?」
「アルマです」
「そうそう、確かバスティーユ辺境伯の娘じゃったか」
「と、ともかくおかげで助かりました」
ルークがサイフォスに頭を下げる。
「なに、構わんよ。釣りに行こうとしたら蛸が陸に上がっていたから獲ってやろうと思っただけじゃからの。おかげでしばらく食事には困らなそうじゃわい」
カラカラと笑うサイフォス。
「蛸って……」
手にした剣を見ただけでもサイフォスが助けに来てくれたことは明らかだった。
聖剣オルカッツ、通常武器が効かない魔族をも両断するといわれるこの剣はサイフォスの代名詞でもある。
神獣クラーケンの腕を一刀のもとに切り落としたところを見るにその噂は事実、むしろ矮小されていると言っても過言ではないようだ。
「それでもありがとうございます。サイフォスさんが来てくれなければ危ないところでした」
ルークは再び礼を言った。
「礼を言うのはまだ早いようじゃぞ。どうやら奴さんはこちらに目を付けたようじゃからの」
サイフォスが山の方を見上げる。
木々の向こうに赤黒い丘のようなクラーケンの胴体が見える。
そしてその周囲に8本の巨大な腕がゆらゆらと揺れている。
まるで山がそのまま肉の花へと変貌したような、非現実的な光景だった。
「あれが神獣クラーケンか……本物を見るのは儂も初めてじゃな」
サイフォスは神獣を前にしてもどこか楽しげだ。
「しかしあれだけの図体、どう攻めたものかの……」
そびえるようなクラーケンの巨体を前に考えあぐねていると足音が聞こえてきた。
「おいおい!ありゃあどうなってるんだよ?なんなんだ、あのでか物はよお!?」
「ガストン?」
「そこにいんのはルークさんじゃねえか!ありゃどうしたんで」
「いや、そっちこそ、その顔は一体?」
ルークはガストンの顔を見て目を丸くした。
ガストンの全身痣だらけ、顔はぱっと見で本人とはわからないくらいに腫れあがっていたからだ。
「まさかゲイル閣下がここまでするなんて……」
「いや、あの人は大した人だぜ」
治癒魔法をかけながら思わず憤りの声をあげるルークとは裏腹にガストンは嬉しそうな顔をしている。
「あんなに強え人は見たことがねえ。いやただ強いだけじゃねえ、あの意志の強さ、態度のでかさ、あれこそ王となる器だぜ」
「そ、そうでしょうか……」
「ああ、実際に手合わせして分かったぜ、俺が目標とするべき人はあの人だってな!俺の師匠はあの人を置いて他にいねえ!」
「誰が師匠だ」
そこへのっそりとゲイルがやってきた。
「俺は弟子をとることに興味はない、勝手に名乗るな」
「へへっ、そんなこと言われて諦める俺じゃねえっすよ。俺は男としてあんたに惚れ込んだんだ、地獄の果てまでだってついてきますぜ」
「まったく……面倒な奴だ」
軽くため息をついたゲイルがサイフォスの存在に気付く。
「なんで師匠がここにいるんだ?」
「ふ、不肖の弟子が困ってるのではないかと様子を見に来たのよ」
「心にもないことを、と言いたいがあれがいる以上ただの軽口というわけにはいかないようだな」
サイフォスの言葉を一笑に付したゲイルがクラーケンを見上げる。
「あれは……」
「神獣クラーケンだろう、あれくらい見ればわかる」
クラーケンを見上げるゲイルの顔に緊張が走る。
おそらくベヒーモスとの戦いを思い出したのだろう。
それはルークも同じだった。
しかしだからと言って手をこまねいているわけにはいかない。
「このままでは島が危ない。僕は何としてもあれを止めるつもりです。手伝っていただけませんか?」
「……あれを止めるだと?貴様、自分の言っている意味が分かっているのか?」
ゲイルがルークの胸ぐらを掴んで睨み付けた。
「あの時とはわけが違う。貴様を手伝う軍も神獣を封印するための神殿もない、それでもやろうというのか!」
責めるようなゲイルの言葉にルークは静かにそれでいて毅然と頷いた。
「もちろんです。今止めなければクラーケンは完全に覚醒してしまいます。そうなれば手の施しようがありません」
「……ふん、後先考えん貴様のことだ、そう言うに決まっているだろうよ」
しばらく睨んでいたゲイルはやがて突き放すようにその手を放した。
「怖いのならついてこんでもええぞ。神獣にはお主も嫌な思い出しかないのじゃろう?」
飄々とした口調でサイフォスが剣を構える
「しかしこの年で神獣討伐ができるとはの。長生きはするもんじゃ」
「誰が怖いと言った!」
ゲイルが吠える。
「ったく、引退したと言ってたくせに、どこまでも油っこい爺さんだ」
呆れたように舌打ちをするとゲイルは再びルークの方を向くと指を突き付けた。
「ルーク、神獣討伐は俺も参加してやる。だが俺が貴様を手伝うんじゃない、貴様が俺を手伝うんだ。そこを履き違えるなよ」
「わかりました。よろしくお願いします」
ルークはにっこり笑うと頭を下げた。
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