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第3章:南海の決闘

第173話:神獣クラーケン討伐

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「勘違いするなよ、こんな島などどうでもいいがあいつは放っておいたらいずれアロガス王国にもやってくる、王子として放置できないからやるだけだ」

 ゲイルが顔をしかめながらルークに釘を刺す。

 ファルクスがそんなゲイルに剣を投げてよこした。

「御託はええよ、それよりも持ってきてやったぞ」

「それは……聖剣バニッシャーですか。直っていたのですね」

 ゲイルが手にしたのはベヒーモス戦で粉々に砕け散った聖剣バニッシャーだった。

 鞘から抜き放ったそれには新しい刀身が煌めいている。

「王国一の魔導刀工が半年かけて鍛えた業ものだ。あの時のなまくらとは違うぞ。そして俺もあの時の俺ではない」

 ゲイルの言葉と同時にバニッシャーの刀身から光が放たれる。

 先代バニッシャーはゲイルの魔力に耐え切れずに刀身が崩壊しかけていたが、今の刀身はその膨大な力を完全に受け止めていた。

「凄い……」

 ルークはゲイルと聖剣バニッシャーの力に素直に感心した。

 ベヒーモス戦でバニッシャーが砕け散ったのは彼の皮膚が強靭だったからというのもあるがそれ以上にゲイルの魔力が強すぎたからだとルークは解析していた。

 国宝として扱われていたために長らく使われていなかったバニッシャーの刀身が脆くなっていたのだ。

 そこに覚醒したばかりで不安定だったゲイルの魔力が加わって刀身の耐久限界を超えてしまったのだ。

 しかし今のゲイルは違う。

 魔力の出方が安定しているしバニッシャーも全く危なげがない。

 これならみんなで力を合わせれば本当になんとかなるかもしれない、そう思わせるほどにゲイルは変わっていた。

「それで、どうやってあのでかいのを仕留めるつもりなんじゃ。あれだけの大きさとなるとそう簡単にはいかんぞ」

「それなんですが、僕の持つ最大の攻撃魔法をぶつけてみようと思います。しかし詠唱に少し時間がかかるのでそれまで時間を稼いでもらえないでしょうか」

 ルークは2人に作戦を説明した。

 神獣には根源魔法しか通用しない。

 訓練に訓練を重ねてようやく自分の思い通りに放てるようになっていたがそれでも1日1回が限界、しかも詠唱にはまだかなりの時間を要する。

「ふむ、確かに儂らの剣では奴の急所まで届くとは思えんしの。ここは若いのに活躍してもらうとするかの」

「ふん、貴様の案というのが癪だが今回は乗ってやる。そのかわり失敗したら許さんからな」
 サイフォスとゲイルも納得したようだ。

「それではお願いします。アルマ、君は周りの人たちの護衛を頼むよ」

「わかった。他のみんなはこっちへ!」

 アルマがキールたちを避難させたのを確認するとルークは詠唱を開始した。

 ルークを中心に魔力が集まっていく。

 それを感知したのかクラーケンがこちらに腕を伸ばしてきた。

「早速きおったぞ!」

「次は負けん!」

 サイフォスとゲイルが飛び出した。

絶対支配ドミネーション!」

 ゲイルの斬撃がクラーケンの腕を切り裂いた。

「はあっ!!!」

 続く斬撃で腕が斬り飛ばされる。

「凄い……!」

 詠唱を続けながらルークはゲイルの力に目を見張った。

 ベヒーモス戦では僅か2撃で魔力を使い果たしていたのに今回はそんな兆候すらない。

「ほれ、油断するでないぞ」

 ゲイルの頭上から降ってきた腕をサイフォスが難なく斬り飛ばす。

「チッ、そのくらい対処できた!」

 舌打ちをしながらゲイルが更に前へと飛び出す。

 師弟だけあって2人の息は完璧だった。

 ゲイルが攻めることでクラーケンの意識をそちらに向けさせ、サイフォスがフォローしつつ周りへの攻撃を牽制している。

 陽動でありながら2人は徐々にクラーケンの頭部へと近づいていた。

 しかし体の中心に近づくほどに腕で太くなるし背後から回り込むように先端が伸びてくるようになる。

 徐々に2人の前進は速度が落ちていき、やがてクラーケンの攻撃と完全に拮抗していった。

「む、まずいっ!」

 サイフォスが突然ゲイルを突き飛ばした。

 その直後、すぐ近くに生えていた大木が轟音と共に真っ二つに裂けた。

「クソ、雷撃魔法か!」

 地面を転がりながらゲイルが距離をとる。

 見上げるとクラーケンの体表を幾筋もの電気が走っていた。。

 ルークが叫ぶ。

「気を付けて!クラーケンは自身の生体電流を自在に操れるようです。これは魔力で感知することができません」

「お主、若いのによく知っておるのお」

 サイフォスは感心したように言うと鞘に剣をおさめた。

 そのまま悠然とクラーケンに向かって足を進める。

「な、なにをしているんですか!無防備すぎます!」

 クラーケンの体表の模様が大きく動いた。

 雷撃が発射されるその瞬間、サイフォスの体が霞んだように見えた。

 直後にクラーケンの腕が斬り飛ばされた。

 膨大な電気を帯びた肉塊が地面に落ちて爆散する。

「魔力を使わぬ雷撃と言えどもその直前に起こりはあるものよ。それを見てから動けばよいだけじゃ」

 サイフォスがこともなげに独り言ちる。

「あれがサイフォス・スパーサ様の神技、先閃せんのひらめき……」

 ルークの横でアルマが息を呑んでいる。

 神経の伝達速度である毎秒120mをも超える速さによる斬撃は魔族と言えども反応することは不可能だ。

「また来ます!」

 再びクラーケンの模様が大きく動いた。

 が、今度は何も起こらなかった。

 むしろクラーケンの動きが止まっている。

「雷撃のタイミングが読めないというのなら、そもそもさせなければいいだけだ」

 ゲイルの両腕から魔力が迸り、クラーケンの腕を制している。

 固有魔法、絶対支配ドミネーションの力だ。

「凄い……」

 再びルークは息を呑んだ。

 2人ともとてつもない強さだ。

 これなら本当に神獣を倒せるかもしれない……

「おい、長くはもたんぞ!さっさと詠唱を完成させろ!」

 ゲイルが吠えた。

 やはり神獣相手では限界があるらしい。

 しかしこれだけ時間を稼いでくれれば十分だった。

 ルークの周囲が淡く発光していく。

 根源魔法が生み出す魔力の光だ。

(これならいける!)

 しかしルークが放とうとした根源魔法は突如足元を襲った巨大な揺れに阻まれてしまった。
「うわあっ!?」

「うおっ!な、なんだ、この揺れは!?」

「きゃあっ!」

 大地を砕くような地鳴りと共に揺れがますます大きくなっていく。

「ま……まさか……?」

 ルークは地鳴りのする方を見て目を疑った。

「もう一体の神獣が目覚めようとしているのか?」

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