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第3章:南海の決闘
第182話:侵攻
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「動くな!貴様らは何者だ!」
村に着くなりルークたちは兵士に囲まれた。
全員完全武装して殺気をみなぎらせている。
「あたしはこの村に住んでるもんだよ!そっちこそ何だ!あたしの村に何をしてんだ!」
キールが怒気も露わに兵士たちに食って掛かる。
「黙れ!言うことを聞かなければ拘束するぞ!」
血走った目の兵士が抜身の剣を振り上げた。
「危ない!」
「グハッ!」
ルークの左拳が兵士の顔面にめり込んだ。
「貴様ァッ!何をするか!」
周りの兵士が一気に色めき立つ。
「暴力反対……と言っても説得力ないですよね……」
「良いね良いね、こういうの大好きだよ!」
冷や汗のルークとは正反対にイリスは嬉しそうに拳を鳴らしている。
「結局こうなるのね」
アルマは半ば諦めたようにルークと背中合わせに立った。
既に展鎧装輪で全身を包んで臨戦態勢だ。
剣を構えた兵士たちがジリジリと距離を詰めてくる。
「畜生、何が何だかわからねえがこうなったらヤケだ!徹底的にやってやるぜ!」
ガストンが兵士たちに向かって吠えた。
「そこまでだ!」
その時奥から鋭い一声が飛んできた。
兵士たちをかき分けるようにやってきたのは1人の男だった。
鎧に付けられた徽章から兵士たちを指揮する立場にいることがわかる。
「一般人への危害は厳罰だと言っているだろうが!」
男は兵士たちを叱責しながらルークの前に歩み出た。
「部下が失礼をはたらき申し訳ない。しかしこの島は現在厳戒態勢にあり我々治安維持部隊の監視下に置かれている。勝手な行動は慎んでもらいたい」
「だ、か、ら、なんであんたたちが我が物顔でこの島を管理してんのかって聞いてんのよ!この島はあたしたちの島だ!勝手なことをしてんのはそっちじゃないか!」
「そ、それは……我々はただ命令に従っているだけで……」
「じゃあ今すぐその命令した奴を連れてきなよ!どこのどいつがそんな勝手な真似をしてんのさ!」
キールは鬼のような剣幕で男に詰め寄っていった。
「何事かね、騒がしい」
人混みの奥から聞こえてきた声にルークは咄嗟にキールを後ろに下がらせた。
「アルマ、キールを頼む」
アルマが頷いてキールを背後に隠す。
その声はルークやキールのよく知る人物だったからだ。
人混みをかき分けるように現れたのは南方領土監督官であるオミッド・ウィルキンソンだった。
オミッドの姿に兵士が安堵の吐息を漏らす。
「おお、オミッド様、よいところに!」
ルークたちの姿を認めたオミッドの顔が一瞬歪んだように見えた。が、すぐに穏やかな笑顔と共に両手を広げて近寄ってきた。
「これはこれはルーク殿にアルマ様、ご無事で何よりでございます。心配していたのですよ」
「何故あなたがここに?」
「何を言っているのですか、島に渡ったあなた方をお助けする為に来たに決まっているではありませんか」
「僕らを?」
「その通り!あなた方が去った後でこの島に眠る神獣が目覚めたという報告を受けて慌てて救助に馳せ参じた次第でございます。なにせ相手は神獣です、このままでは島の危機というわけで止む無く我々が治安維持を買って出たという次第でございます」
大袈裟に手を広げると芝居がかった動作で胸に手をあてるオミッド。
「僕らを助けるために……」
オミッドの言葉は一言一句信じられるものではなかった。
まずあまりに行動が早すぎる。
大陸と島の距離を考えると神獣が目覚めてからこの時間で辿り着くのは不可能だ。
事前にわかってでもいない限りは。
そして気になる点がもう1つ。
「何故魔族と行動を共にしているのですか?今は魔界と緊張状態にあるのでは?」
ルークは辺りを見渡した。
兵士の中には亜人や魔族も混ざっている。
正規兵ではなくオミッドの私兵なのは間違いないにしてもあまりにも不自然すぎた。
「それは儂から説明いたそう」
オミッドの後ろから声がした。
「ダンドーラ卿?あなたが何故ここに?」
歩み出てきたのは魔界の貴族、ダンデール・ダンドーラだった。
煌びやかな鎧に身を包んではいるが明らかに鎧に着られている感が拭えないのはオミッドと同じだ。
「うむ、我々もオステン島から救援の知らせを受けてな。急遽こちらに向かっていた時にウィルキンソン卿と遭遇したのだ。なにせこのような事態であるからな、ひとまず過去の遺恨は水に流して協同することにしたのだ」
「そういうわけです。彼らはリヴァスラ氏族と交易がありますから情報共有もしやすい。ダンドーラ卿とは過去に軋轢もありましたが、こんな時にこだわっていては人命救助もままならないということで共に力を合わせているのですよ」
オミッドとダンデールは立て板に水を流すように言葉を並べている。
疑っていても思わず信じてしまいそうになる自信に満ちた話しっぷりだ。
しかしルークの目は2人が嘘をついていることをしっかり捉えていた。
発汗量、呼気、瞳の動き、全てが2人ののただならぬ緊張を示している。
「なるほど、それにしてもどうしてこんなに早く到着できたのですか?神獣が目覚めてからまだ半日と経っていないはずですが……」
ルークの言葉にオミッドとダンデールは顔を見合わせて口元を歪めた。
まるでその質問は最初から分かっていたと言わんばかりに。
「ああ、それですか。実は元々演習をしていたのですよ。なにせここのところいつ戦争が起きてもおかしくない状況でしたからな。先日もクランケン氏族の船が拿捕されたばかりで……おっと、これは失言でしたか」
オミッドはしてやったりと言わんばかりに含み笑いを浮かべながら頭を下げた。
まるでもうこれでこの話は終わりだと言わんばかりだ。
ダンデールも同調するように首肯している。
「ウィルキンソン卿の言う通り、今はあちらが動けばこちらも動くという状況なのだ。人族が行動を起こせば我々も動かざるを得ぬ。そういうわけで沿海で演習をすべく出航したところだったのだ」
ルークは話を合わせるように大きく頷いた。
「そういうことだったんですか。そうであればこんなに早く到着できたのも納得ですね。ところであなた方に救助を求めたのはどなたなのでしょうか?こちらのキールはずっと僕たちと一緒にいましたが……」
気をよくしたオミッドが得意げに胸を反らしながら答える。
「それはクランケン氏族のエラント君ですよ。村長になにかがあれば彼が村の指揮を執ることになっていますからな。おそらく村長は何らかの事故に巻き込まれたのでしょうな」
「何言ってんだ!」
キールが前に出てきた
「そのエラントが神獣を目覚めさせたんじゃないか!」
村に着くなりルークたちは兵士に囲まれた。
全員完全武装して殺気をみなぎらせている。
「あたしはこの村に住んでるもんだよ!そっちこそ何だ!あたしの村に何をしてんだ!」
キールが怒気も露わに兵士たちに食って掛かる。
「黙れ!言うことを聞かなければ拘束するぞ!」
血走った目の兵士が抜身の剣を振り上げた。
「危ない!」
「グハッ!」
ルークの左拳が兵士の顔面にめり込んだ。
「貴様ァッ!何をするか!」
周りの兵士が一気に色めき立つ。
「暴力反対……と言っても説得力ないですよね……」
「良いね良いね、こういうの大好きだよ!」
冷や汗のルークとは正反対にイリスは嬉しそうに拳を鳴らしている。
「結局こうなるのね」
アルマは半ば諦めたようにルークと背中合わせに立った。
既に展鎧装輪で全身を包んで臨戦態勢だ。
剣を構えた兵士たちがジリジリと距離を詰めてくる。
「畜生、何が何だかわからねえがこうなったらヤケだ!徹底的にやってやるぜ!」
ガストンが兵士たちに向かって吠えた。
「そこまでだ!」
その時奥から鋭い一声が飛んできた。
兵士たちをかき分けるようにやってきたのは1人の男だった。
鎧に付けられた徽章から兵士たちを指揮する立場にいることがわかる。
「一般人への危害は厳罰だと言っているだろうが!」
男は兵士たちを叱責しながらルークの前に歩み出た。
「部下が失礼をはたらき申し訳ない。しかしこの島は現在厳戒態勢にあり我々治安維持部隊の監視下に置かれている。勝手な行動は慎んでもらいたい」
「だ、か、ら、なんであんたたちが我が物顔でこの島を管理してんのかって聞いてんのよ!この島はあたしたちの島だ!勝手なことをしてんのはそっちじゃないか!」
「そ、それは……我々はただ命令に従っているだけで……」
「じゃあ今すぐその命令した奴を連れてきなよ!どこのどいつがそんな勝手な真似をしてんのさ!」
キールは鬼のような剣幕で男に詰め寄っていった。
「何事かね、騒がしい」
人混みの奥から聞こえてきた声にルークは咄嗟にキールを後ろに下がらせた。
「アルマ、キールを頼む」
アルマが頷いてキールを背後に隠す。
その声はルークやキールのよく知る人物だったからだ。
人混みをかき分けるように現れたのは南方領土監督官であるオミッド・ウィルキンソンだった。
オミッドの姿に兵士が安堵の吐息を漏らす。
「おお、オミッド様、よいところに!」
ルークたちの姿を認めたオミッドの顔が一瞬歪んだように見えた。が、すぐに穏やかな笑顔と共に両手を広げて近寄ってきた。
「これはこれはルーク殿にアルマ様、ご無事で何よりでございます。心配していたのですよ」
「何故あなたがここに?」
「何を言っているのですか、島に渡ったあなた方をお助けする為に来たに決まっているではありませんか」
「僕らを?」
「その通り!あなた方が去った後でこの島に眠る神獣が目覚めたという報告を受けて慌てて救助に馳せ参じた次第でございます。なにせ相手は神獣です、このままでは島の危機というわけで止む無く我々が治安維持を買って出たという次第でございます」
大袈裟に手を広げると芝居がかった動作で胸に手をあてるオミッド。
「僕らを助けるために……」
オミッドの言葉は一言一句信じられるものではなかった。
まずあまりに行動が早すぎる。
大陸と島の距離を考えると神獣が目覚めてからこの時間で辿り着くのは不可能だ。
事前にわかってでもいない限りは。
そして気になる点がもう1つ。
「何故魔族と行動を共にしているのですか?今は魔界と緊張状態にあるのでは?」
ルークは辺りを見渡した。
兵士の中には亜人や魔族も混ざっている。
正規兵ではなくオミッドの私兵なのは間違いないにしてもあまりにも不自然すぎた。
「それは儂から説明いたそう」
オミッドの後ろから声がした。
「ダンドーラ卿?あなたが何故ここに?」
歩み出てきたのは魔界の貴族、ダンデール・ダンドーラだった。
煌びやかな鎧に身を包んではいるが明らかに鎧に着られている感が拭えないのはオミッドと同じだ。
「うむ、我々もオステン島から救援の知らせを受けてな。急遽こちらに向かっていた時にウィルキンソン卿と遭遇したのだ。なにせこのような事態であるからな、ひとまず過去の遺恨は水に流して協同することにしたのだ」
「そういうわけです。彼らはリヴァスラ氏族と交易がありますから情報共有もしやすい。ダンドーラ卿とは過去に軋轢もありましたが、こんな時にこだわっていては人命救助もままならないということで共に力を合わせているのですよ」
オミッドとダンデールは立て板に水を流すように言葉を並べている。
疑っていても思わず信じてしまいそうになる自信に満ちた話しっぷりだ。
しかしルークの目は2人が嘘をついていることをしっかり捉えていた。
発汗量、呼気、瞳の動き、全てが2人ののただならぬ緊張を示している。
「なるほど、それにしてもどうしてこんなに早く到着できたのですか?神獣が目覚めてからまだ半日と経っていないはずですが……」
ルークの言葉にオミッドとダンデールは顔を見合わせて口元を歪めた。
まるでその質問は最初から分かっていたと言わんばかりに。
「ああ、それですか。実は元々演習をしていたのですよ。なにせここのところいつ戦争が起きてもおかしくない状況でしたからな。先日もクランケン氏族の船が拿捕されたばかりで……おっと、これは失言でしたか」
オミッドはしてやったりと言わんばかりに含み笑いを浮かべながら頭を下げた。
まるでもうこれでこの話は終わりだと言わんばかりだ。
ダンデールも同調するように首肯している。
「ウィルキンソン卿の言う通り、今はあちらが動けばこちらも動くという状況なのだ。人族が行動を起こせば我々も動かざるを得ぬ。そういうわけで沿海で演習をすべく出航したところだったのだ」
ルークは話を合わせるように大きく頷いた。
「そういうことだったんですか。そうであればこんなに早く到着できたのも納得ですね。ところであなた方に救助を求めたのはどなたなのでしょうか?こちらのキールはずっと僕たちと一緒にいましたが……」
気をよくしたオミッドが得意げに胸を反らしながら答える。
「それはクランケン氏族のエラント君ですよ。村長になにかがあれば彼が村の指揮を執ることになっていますからな。おそらく村長は何らかの事故に巻き込まれたのでしょうな」
「何言ってんだ!」
キールが前に出てきた
「そのエラントが神獣を目覚めさせたんじゃないか!」
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