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第2章:独角党

28.リディウス

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「貴様か、私のことを嗅ぎまわっているという冒険者は」

 リディウスの金色の瞳がエヴァンを睥睨する。

 横にいたドルゴが思わず半歩下がるほどの迫力だった。


「うははははは、この方が独角党のリーダー、リディウス殿だ!ただの魔族と思うなよ。リディウス殿は上級魔族、アークデーモンなのだ!貴様ら冒険者如きが太刀打ちできる存在ではないぞ!」

 バンガーが得意そうに大笑している。


「アークデーモンだと…なんでそんな奴がこんなところに…」

 ドルゴが青ざめた顔で呟いた。

 アークデーモンは1体が軍の中隊に匹敵するとも言われる高位魔族だ。

 最上位の冒険者であっても束になってかからなければ太刀打ちできない。

 しかしエヴァンはそんな上位魔族を前にしても全く意に介していなかった。


「むしろ嗅ぎまわっているのはそっちだけどな。俺たちを攫いにやってきたあんたらの仲間は今頃幸せな夢を見てると思うぜ」

「ふん、少しは腕に覚えがあるようだな。私が北の森に放ったトロルとオークを倒したのも貴様というではないか」

「もうそこまで知っているのか。照れるね」

「この町で私の耳に入らぬむのはない。それで何のために我々のことを調べていたのだ。貴様の腕に免じて話くらいは聞いてやろう」

 リディウスもエヴァンの無遠慮な口調に動じる様子はなかった。

「そうそう、聞きたいことがあったんだよ」

 エヴァンはまるで世間話でもするかのようにリディウスに話しかけた。

「おたく、魔族の登録証なんか持ってないか?」

「は?」

 突然のことにリディウスは虚を突かれたように目を瞬かせた。

「エ、エヴァン、何を言ってるんだ?こんな時に!」

 ドルゴも目を丸くしているがエヴァンは気にする様子もなく話を続けた。

「だから魔族の登録証だよ。おたく魔族なんだから持ってないか?でも犯罪者だったら持ってないってこともあるか」

「…いや、登録証くらいなら持っているが」

 何のことを言っているのか分からないというようにリディウスが答える。

「そうか!それは良かった!悪いんだけどそれをもらえないかな?」

「…貴様…何を言っているのだ?」

 話の筋が読めないせいかリディウスの言葉には若干の苛立ちが含まれてきた。

「いやあ、話せば長いんだけど、こいつが登録証をもってなくってさ。おたくの登録証をこいつのものにできないかと思ってさ」

 エヴァンはそう言ってメフィストと肩を組んだ。

「……」

 話にならない、とでも言いたげにリディウスは頭を振ったが、何か面白いことを思いついたのか口の端を持ち上げながらエヴァンの方を向いた。

「よかろう、貴様のその願い、受け入れてやってもいいぞ」

「本当か?いやあ~助かるよ」

「ただし条件がある。我々の仲間になれ」

 リディウスはそう言って両腕を広げた。

「貴様のように腕の立つ者は大歓迎だ。我々の仲間になるのなら新しい身分など幾らでも用意してやる。それどころではない、贅沢・放蕩の限りを尽くさせてやるぞ」

 リディウスはそう言うと今度はドルゴを指差した

「そうだな、貴様にそのつもりがあるならまずそこの男を殺してもらおうか。それをもって入党試験としよう」

「てめえっ!」

 顔を上気させて突っかかろうとするドルゴをエヴァンが手で制する。

「その話、本当なのか?」

「お、おい、エヴァン!あんた…」

 ドルゴが慌てたようにエヴァンを見た。

 リディウスがにやりと笑う。

「約束しよう。まずは覚悟を示すのだ」




「でもそれって俺に何の得があるんだ?」

「なにっ?」

 思いがけないエヴァンの言葉にリディウスが眉を吊り上げた。

「だって俺はメフィストを自由に行動させるために登録証を手に入れようとしてるんだぜ?あんたらの仲間、というか部下になったら意味ないだろ」

「つまり…私の登録証は欲しいが言うことを聞く気はない、と…?」

「まあそういうことだな」

 エヴァンはそう言ってボリボリと頭を掻いた。

「エヴァン!」

 ドルゴが歓喜の声をあげる。



「腕は立つようだが愚かな男だ」

 リディウスの言葉から一気に熱が消えた。

 その言葉を合図に独角党のメンバーが一斉に武器を構える。

「ここから逃げられるなどとは思わないことだな」

「話は変わるんだけどさ、独角党はここにいるので全員なのか?」

「…だったらどうしたというのだ?言っておくが私たちは少数精鋭、貴様がどれだけ腕が立とうが勝てるなどとは思うなよ」

 危険な状況などどこ吹く風のエヴァンにリディウスは怪訝な顔だった。


「いや、それを聞いて安心したよ」

 エヴァンはそう言ってメフィストに耳打ちをした。

「…まあできると思うけど。この屋敷の主であるあの男も契約を飲んでたからね」


 メフィストはそう言うと腕を掲げた。

「この屋敷の主、バンガーとの契約の下に石壁の封印よ、解けよ!」

 メフィストの言葉と共に独角党の背後の壁が崩れ落ちた。

「なにっ!?」

 慌てて振り向いたリディウスたちの目に映ったのは崩れ落ちた石壁に完全に埋められた扉だった。

「これであんた方の逃げ場はなくなったという訳だ」

 その背後からエヴァンの涼しい声が響いてきた。

「貴様…」

 ギリリ…と歯ぎしりをしながらリディウスが睨みつける。

「あんたには不本意だろうけど力づくでいただいてくよ」

 エヴァンは剣を構えると不敵に言い放った。

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