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第3章:悪魔と天使

43.帰り道

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「ぶ、無事だったのですか!?しかも本当にグレーターウルフを…!?」

 翌朝村に帰ってきたエヴァンたちを見てフォレスタ村の村長ヨーゼフは眼を飛び出さんばかりに驚いていた。

「まあね。こいつが証拠だよ」

 エヴァンは重たそうな革袋を前に突き出した。

 中にはグレーターウルフから取り出した魔核がぎっしり入っている。

 その数は23、通常なら上位冒険者でもなければ無理な数だ。

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

 村長がエヴァンの足下にすがりついた。

「これで村のみんな安心できます!いつ奴らが襲ってくるかと気が気ではありませんでした。これも全てあなた方のおかげです!この恩にどう報いればいいのか…」

「こっちは依頼できただけだから別に気にしになくってもいいよ。それより妖精の墓場って場所を知ってるかな?そこにグレーターウルフの死骸が転がってるから毛皮なんかを獲るなら早めに行った方がいいと思うぞ。流石にあの量は俺たちじゃ持て余しちゃうからさ村のみんなに進呈するよ」

「ほ、本当ですか?グレーターウルフの毛皮は1枚で大銀貨数枚、良いものは小金貨1枚になるのですよ?それを頂けるというのですか?」

「いいよ、いちいち皮剥いでなめすことを考えたらやってらんないから。そっちもなにかと入り用なんだろ?」

「ほ、本当にありがとうございます!…ですが、それはおそらく無理ですじゃ」

 ヨーゼフは顔を輝かせたと思ったすぐ後に沈痛な表情を浮かべた。

「昨日も言いましたがあそこは山賊が住みついております。我々が行っても連中の餌食になるのが関の山です」

「ああ、そっちも大丈夫だよ」

 エヴァンが顎で合図をするとサリアが縄を引いてやってきた。

 その先にはゾングが縛られている。

「ついでにこいつらも片付けてきたんだ。滝の奥には手下も転がってるよ」

「ほ、本当ですか?本当に山賊のゾング団を倒していただけたのですか?」

「まあね。ある意味グレーターウルフを討伐できたのはこいつらのおかげでもあるんだけど。それからこいつらが言うには森に生えてる蛇血樹という木の樹液が魔物避けになるらしい。試してみたらどうかな」



「ありがとうございます!本当にありがとうございます!」

「こいつらには何度苦しめられてきたことか…」

「これで村は平和になります!」

 今や村長だけでなく村人総出で地面に膝をついてエヴァンに感謝を捧げていた。

 中には涙を流している者すらいる。

「エヴァン様、本当にありがとうございます!あなたは村の救世主だ!」

「そういえばあなたの名前はかつて人類を救った英雄、勇者エヴァンと同じ名前ではないですか!」

「勇者エヴァン、この人こそ我々の勇者エヴァンだ!」

「エヴァン!エヴァン!エヴァン!」

 唐突に巻き起こったエヴァンコールが村を包んでいく。

「ちょ、そういうのは困るって。俺はただ仕事をしただけだから。それじゃ、そういうわけでもう帰らせてもらうよ」

「あ、ちょっと待ってください!せめてお礼の宴でも…」

「そうですとも!村人総出でおもてなしいたします!」

 エヴァンが困り顔で辞退しても村人は聞き入れようとしない。

 それどことか引き留めようとする有様だ。


「いや、ほんとに良いから!」

「え~、ただ酒とただ飯が出るんだよ?ちょっとくらい良いじゃん」

「いいから行くぞ!」

 サリアと名残惜しそうなメフィストの腕をとるとエヴァンは追いすがる村人たちを振り切るようにアイラットへの帰路についた。




    ◆




「くくっしかしあの時のエヴァンの慌てようときたら…」

 馬上で喉を鳴らして笑うサリアにエヴァンはばつが悪そうに頭を掻いた。

「ああいうのは苦手なんだよな」

「いっそのこと本当のことを言ったら良かったのではないですか?私がその本物の勇者エヴァンですと」

「勘弁してくれよ」

 エヴァンは天を仰いだ。

「でも村の人たちは喜んでいましたよ。あなたほどの力があるのならもっと人の役に立てるのではないですか?」

「そういうのは60年前で懲り懲りしてるんだ。今はただ穏やかに過ごしたいだけさ」

 それでもサリアは食い下がってきた。

「しかしそれは力ある者として責任を放棄していることになるのではないですか?力を持った者が持たざる者を守る、そうして我々の社会は成り立っているはずです」

「…そうだな。俺も昔はそう思っていたよ」

 サリアの言葉にエヴァンはふっと息を吐いた。

「でも力があるとかないとか、守るとか守られるとか、そういうのは関係ないんだよ。世界ってのはそういうのと関係ないところで回ってる。俺はそう思ってるんだ」

 馬に揺られながらエヴァンは話を続けた。

「60年前の戦争は俺が世界を救ったと言われてるけどそれは誤解だ。俺がやったのは人類に敵対していた連中を倒しただけで何かを救ったわけじゃない」

「で、でも、そのお陰で命を救われた人が多数いるのでは?」

「同じ位苦しんだ人だっているさ」

 エヴァンは微かに笑った。

 それは自嘲とも思える笑みだった。

「その証拠に俺が封じられている間も世界は回り続けていただろ?俺という力があってもなくても世界はそうあり続けるし、人は生き続けるんだよ」

「…そういう…ものなのでしょうか…」

「まあそれは俺が勝手にそう思ってるだけだけどな。そうだな…力というよりはそうしたいと思う意思と覚悟があって行動に起こした者に責務が伴うという感じかな。で、少なくとも今の俺にはその意志も覚悟もないって訳だ」

「それってただの駄目な大人なのでは…」

 サリアが呆れたようにため息をつく。

「否定はしないよ」

 エヴァンは笑った。

 メフィストはエヴァンの背中でこくりこくりと舟を漕いでいる。

 3人を乗せた2頭の馬は晴れた空の下をのんびりと進んでいった。

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