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1章
コウ、21歳。
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ああ、恋がしたい。
恋人が出来た夢を見たのだ。
2人は手を繋ぎ、ベタながらに食べ歩きをし、最後は夕日を背にキス。
なんてベタベタの恋愛だろう。
自分には到底無理な話だろうが。
そう思いながらコウは目を開けた。
朝、訓練をする軍人たちがコウの眠る自室の横を通る。
軍人らしい起立正しい掛け声、それがもっぱらコウの目覚まし時計になっていた。
「ふわぁ…」
欠伸をかみしめ、眠気の残る頭を振り払うかのように身支度をしながら睡魔を頭の中に追い出していく。
終えるころにはずいぶん目が覚め、憂鬱な一日が始まりを告げる。
空気の入れ替えをしようと窓を開けると、冷気が心地よくコウの頬を撫ぜた。
広大な雪と僅かな木々しかない光景はいつまでも変わらない。
それはこの世界から来てからも同じだった。
ふと壁横に吊るしてあるカレンダーをみた。
いまだ完全にはよめないが、日付くらいなら読める。
「…三年目か」
ひょんなことでコウが日本からこの異世界の『ブルデガル国』にきてから3年、変わらない雪景色の銀世界である。
ちょうど三年前のこの日、コウはこの世界に召喚されたのである。
あっという間な気もするし、まだ三年しか経っていないのか、という気持ちが半々である。
夏でもわずかな土地にしか地面は見られず、冬は夜はほとんど吹雪のこの雪山の中のこの軍事施設は国境と国境の間にあり、国の北の要と言える場所だが30年前は隣国との戦争の激戦地となったらしい。
双国疲弊による休戦状態が現在でも続いてはいるが未だ戦争の終結宣言は出されておらず、気が抜けない状況を打破すべく、コウは召喚された。
しかし、様々な政治的、地理的要因が重なり、今ではもっぱら実験体兼雑用係としてこの世界にいる。
コウとしては早いところ前者の肩書も取っ払って穏やかに過ごしたいのだが、それはいまだにかかるとのことだ。
そんな状態だからこそ、演練場の兵士たちも訓練に熱が入る。
「訓練開始!」
上官の合図とともに訓練兵達が訓練を始めた。
その訓練もコウがいた日本とは少し変わり、下の演練場では、軍人たちは皆手をかざし、そのままかざしたまま丸太を切っていく。
どうやら均等に切れるかどうかが難しいらしい、乱切りになってしまうもの、薄すぎるもの、厚すぎてしまうもの様々だ。
驚くことにこれらの行為はノコギリなど刃物を一切使わず、手をかざしただけで切っているのだ。
その少し奥では飛行訓練が行われ、上官が投げてくる魔法玉を飛行状態で避ける訓練など、どこぞの魔法学校にきてしまったのだ、といいたくなる光景である。
その光景をみてコウがポツリと呟いた。
「これが『魔法』…、いつ見てもなれないなぁ…」
コウの目から見れば、空中で急に丸太が切れ、透明なワイヤーかなにかで吊るされているように見えるが、この世界の人々に言わせればこれこそが「魔法」なのだという。
魔法がある世界、そんな世界になんの因果かコウは日本からきてしまったのだ。
まだ朝食まで時間があるのでしばし訓練の様子でも見ていると、コウの目の前に、手紙が宙に浮きながら現れた。
「…………」
黙ってその手紙を受け取り裏面を見る。
上司からの印を確認し、溜息をつきコウは手紙を開けた。
機械的な性格を表したかのような字面に書かれていたのはシンプルな指示。
『 45分後、研究所にくるように ユーバ要塞研究所 ハクギン』
「45分後にってそもそも始業時間なんだけど・・・」
コウはさりげなく手紙にツッコミを入れる。
涼しい顔をして無茶なことを言い出す癖にこういった報連相の報連はしっかりしているだが相がないため、三年経っても上司の人となりがよく分からない。
また無茶ぶりをされるのかとコウはすこし溜息を吐いた。
「恋がしてぇなぁ・・・」
それに答えるものはいなかった。
恋人が出来た夢を見たのだ。
2人は手を繋ぎ、ベタながらに食べ歩きをし、最後は夕日を背にキス。
なんてベタベタの恋愛だろう。
自分には到底無理な話だろうが。
そう思いながらコウは目を開けた。
朝、訓練をする軍人たちがコウの眠る自室の横を通る。
軍人らしい起立正しい掛け声、それがもっぱらコウの目覚まし時計になっていた。
「ふわぁ…」
欠伸をかみしめ、眠気の残る頭を振り払うかのように身支度をしながら睡魔を頭の中に追い出していく。
終えるころにはずいぶん目が覚め、憂鬱な一日が始まりを告げる。
空気の入れ替えをしようと窓を開けると、冷気が心地よくコウの頬を撫ぜた。
広大な雪と僅かな木々しかない光景はいつまでも変わらない。
それはこの世界から来てからも同じだった。
ふと壁横に吊るしてあるカレンダーをみた。
いまだ完全にはよめないが、日付くらいなら読める。
「…三年目か」
ひょんなことでコウが日本からこの異世界の『ブルデガル国』にきてから3年、変わらない雪景色の銀世界である。
ちょうど三年前のこの日、コウはこの世界に召喚されたのである。
あっという間な気もするし、まだ三年しか経っていないのか、という気持ちが半々である。
夏でもわずかな土地にしか地面は見られず、冬は夜はほとんど吹雪のこの雪山の中のこの軍事施設は国境と国境の間にあり、国の北の要と言える場所だが30年前は隣国との戦争の激戦地となったらしい。
双国疲弊による休戦状態が現在でも続いてはいるが未だ戦争の終結宣言は出されておらず、気が抜けない状況を打破すべく、コウは召喚された。
しかし、様々な政治的、地理的要因が重なり、今ではもっぱら実験体兼雑用係としてこの世界にいる。
コウとしては早いところ前者の肩書も取っ払って穏やかに過ごしたいのだが、それはいまだにかかるとのことだ。
そんな状態だからこそ、演練場の兵士たちも訓練に熱が入る。
「訓練開始!」
上官の合図とともに訓練兵達が訓練を始めた。
その訓練もコウがいた日本とは少し変わり、下の演練場では、軍人たちは皆手をかざし、そのままかざしたまま丸太を切っていく。
どうやら均等に切れるかどうかが難しいらしい、乱切りになってしまうもの、薄すぎるもの、厚すぎてしまうもの様々だ。
驚くことにこれらの行為はノコギリなど刃物を一切使わず、手をかざしただけで切っているのだ。
その少し奥では飛行訓練が行われ、上官が投げてくる魔法玉を飛行状態で避ける訓練など、どこぞの魔法学校にきてしまったのだ、といいたくなる光景である。
その光景をみてコウがポツリと呟いた。
「これが『魔法』…、いつ見てもなれないなぁ…」
コウの目から見れば、空中で急に丸太が切れ、透明なワイヤーかなにかで吊るされているように見えるが、この世界の人々に言わせればこれこそが「魔法」なのだという。
魔法がある世界、そんな世界になんの因果かコウは日本からきてしまったのだ。
まだ朝食まで時間があるのでしばし訓練の様子でも見ていると、コウの目の前に、手紙が宙に浮きながら現れた。
「…………」
黙ってその手紙を受け取り裏面を見る。
上司からの印を確認し、溜息をつきコウは手紙を開けた。
機械的な性格を表したかのような字面に書かれていたのはシンプルな指示。
『 45分後、研究所にくるように ユーバ要塞研究所 ハクギン』
「45分後にってそもそも始業時間なんだけど・・・」
コウはさりげなく手紙にツッコミを入れる。
涼しい顔をして無茶なことを言い出す癖にこういった報連相の報連はしっかりしているだが相がないため、三年経っても上司の人となりがよく分からない。
また無茶ぶりをされるのかとコウはすこし溜息を吐いた。
「恋がしてぇなぁ・・・」
それに答えるものはいなかった。
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