全て切り捨てて自分の幸せを掴みます~都合良い駒として生きるのはやめてやる~

かずきりり

文字の大きさ
33 / 92

33

しおりを挟む
「え……? あれ? 梨花?」

 大学に来れば、やはりというか絶対に美和と大地が絡んでくる。
 私は呼びかけられた声に振り向くどころか、足を止める事さえせずに歩き続ける。

「え、梨花だよね!? 凄いイメチェン!」
「梨花……?」

 それでも、正面に割り込んで私の行く道を遮って話しかけてくる図々しさは、どこからくるんだろうと学びたくない尊敬が溢れ出る。
 同時に、それ以上の嫌悪感も湧き出ているのだけれど。
 冷たい眼差しだけを返せば、大地がボーっとこちらを見つめていた。
 ……いつもなら何かと上から目線で煩いし、一昨日約束を破った事に関して何か言ってきそうなものだけれどと疑問に思い大地の顔を訝し気に眺めると、少しだけ顔を赤く染めて慌て始める。

「あ、似合ってるね。凄く良いよ」
「は?」

 大地の言葉に、思わず顔を顰めて声を出してしまった。
 美和は不服そうに顔を歪め、肘で大地を突いている。
 一体、何がしたいんだろう、このふたりは。
 私は見せつけるように大きな溜息を吐き、その場から離れようと一歩を踏み出すのだけれど、すぐに諦めるふたりではなかった。

「ちょっとちょっと梨花! そういえば一昨日はどうしたのよ!? いきなり約束破るなんて!」
「そ……そうだぞ! 何度も連絡したのに……体調が悪かったのか?」

 またも行く先に割り込んで、勝手に話し続けるふたり。
 流石に、二対一だと突破しにくい。

「すっごい良いお店だったんだから! また大地と予定合わせて行ってきた方が良いって!」
「そうだな! 教室に行くまでの間に、次の予定でも決めようか」

 ふたりの脳内は、とても都合良いものばかりで構成されているのだろうか。
 そして、駒のように都合良く動かせた私も、その一部だったのだろうと今ならよく理解できる。

「別れたい。てか、別れたって言ったよね。次なんてないよ」
「納得してねぇし!」
「ちょっとそれ、いくらなんでも梨花勝手すぎない!?」

 冷たく言い放つ私の言葉に、ふたりは牙を向くように表情を怒りへと染め、怒鳴りつけてきた。
 自分の都合良く動かないと、こういう風になるんだなと冷めた気持ちでふたりの表情を眺める。
 ずっと言いなりになり続けてきて、都合良く扱われてきたのだ。こんな二人を見るのなんて初めてだし、ある意味で滑稽にすら思えて笑えてくる。
 二人の言いなりで、ずっと言う事を聞いてきた。一人になるのが怖くて。幼馴染という関係が崩れてしまうのではと怖くて。
 でも……前回の人生を辿って思うのだ。

 ――何も怖い事なんてないと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方が私を嫌う理由

柴田はつみ
恋愛
リリー――本名リリアーヌは、夫であるカイル侯爵から公然と冷遇されていた。 その関係はすでに修復不能なほどに歪み、夫婦としての実態は完全に失われている。 カイルは、彼女の類まれな美貌と、完璧すぎる立ち居振る舞いを「傲慢さの表れ」と決めつけ、意図的に距離を取った。リリーが何を語ろうとも、その声が届くことはない。 ――けれど、リリーの心が向いているのは、夫ではなかった。 幼馴染であり、次期公爵であるクリス。 二人は人目を忍び、密やかな逢瀬を重ねてきた。その愛情に、疑いの余地はなかった。少なくとも、リリーはそう信じていた。 長年にわたり、リリーはカイル侯爵家が抱える深刻な財政難を、誰にも気づかれぬよう支え続けていた。 実家の財力を水面下で用い、侯爵家の体裁と存続を守る――それはすべて、未来のクリスを守るためだった。 もし自分が、破綻した結婚を理由に離縁や醜聞を残せば。 クリスが公爵位を継ぐその時、彼の足を引く「過去」になってしまう。 だからリリーは、耐えた。 未亡人という立場に甘んじる未来すら覚悟しながら、沈黙を選んだ。 しかし、その献身は――最も愛する相手に、歪んだ形で届いてしまう。 クリスは、彼女の行動を別の意味で受け取っていた。 リリーが社交の場でカイルと並び、毅然とした態度を崩さぬ姿を見て、彼は思ってしまったのだ。 ――それは、形式的な夫婦関係を「完璧に保つ」ための努力。 ――愛する夫を守るための、健気な妻の姿なのだと。 真実を知らぬまま、クリスの胸に芽生えたのは、理解ではなく――諦めだった。

貴方の幸せの為ならば

缶詰め精霊王
恋愛
主人公たちは幸せだった……あんなことが起きるまでは。 いつも通りに待ち合わせ場所にしていた所に行かなければ……彼を迎えに行ってれば。 後悔しても遅い。だって、もう過ぎたこと……

誰も残らなかった物語

悠十
恋愛
 アリシアはこの国の王太子の婚約者である。  しかし、彼との間には愛は無く、将来この国を共に治める同士であった。  そんなある日、王太子は愛する人を見付けた。  アリシアはそれを支援するために奔走するが、上手くいかず、とうとう冤罪を掛けられた。 「嗚呼、可哀そうに……」  彼女の最後の呟きは、誰に向けてのものだったのか。  その呟きは、誰に聞かれる事も無く、断頭台の露へと消えた。

噂(うわさ)―誰よりも近くにいるのは私だと思ってたのに―

日室千種・ちぐ
恋愛
身に覚えのない噂で、知らぬ間に婚約者を失いそうになった男が挽回するお話。男主人公です。

妹を愛した男は、もうじき消えます。

coco
恋愛
私には、可愛い妹がいる。 彼女はいつだって、男たちを魅了する。 それが、私の恋人であっても。 妹の秘密、何も知らないくせに。 あの子を好きになる男は、みんな消えるのよ。 妹を愛した男たちの末路と、捨てられた私の行く末は-?

愛は全てを解決しない

火野村志紀
恋愛
デセルバート男爵セザールは当主として重圧から逃れるために、愛する女性の手を取った。妻子や多くの使用人を残して。 それから十年後、セザールは自国に戻ってきた。高い地位に就いた彼は罪滅ぼしのため、妻子たちを援助しようと思ったのだ。 しかしデセルバート家は既に没落していた。 ※なろう様にも投稿中。

真実の愛、その結末は。

もふっとしたクリームパン
恋愛
こうしてシンディは幸せに暮らしました、とさ。 前編、後編、おまけ、の三話で完結します。 カクヨム様にも投稿してる小説です。内容は変わりません。 随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。 拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。

奪った代償は大きい

みりぐらむ
恋愛
サーシャは、生まれつき魔力を吸収する能力が低かった。 そんなサーシャに王宮魔法使いの婚約者ができて……? 小説家になろうに投稿していたものです

処理中です...