全て切り捨てて自分の幸せを掴みます~都合良い駒として生きるのはやめてやる~

かずきりり

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 予感はしていた。
 予想もしていた。
 だけれど、目の前で行われると、こんなに心が痛むのか。
 過去のトラウマとも言うのか、色んな事が思い起こされて心が引き裂かれるように痛み、目の前が真っ暗になる。
 くらりと身体が揺れた瞬間、知っている力が私の肩を抱いて引き寄せられた。

「気持ち悪い」
「……え?」

 何を言われたのか理解できないといった様子の美和が、ポカンと口を開けた。

「行こう梨花。何食べる?」

 何かを返すわけでもなく、隼人は私に優しく問いかけると、私を抱き寄せたまま食堂の注文口へと歩いて行く。
 まるで美和の存在が居ないかのようだ。

「え、ちょっと!?」

 後ろから美和が慌てた様子で何か叫んでいたけれど、隼人の耳には全く届いていないようで、反応する事もなく私を連れて歩いていく。

「おい、ちょっと来い」
「何よ!? 止めて!」

 大地が美和へと声をかけるが、美和は悲鳴のような声をあげる。

「いいから! 来い!」
「ちょっと! 痛い!」

 周囲の事なんて何も気にしていないのか、見えていないのか。
 二人は口論のようなものを交わしながら、大地は美和を引っ張って、どこかへと行ってしまった。
 一体何だったのか。
 でも、たった一つ分かる事がある。

(美和は隼人を狙っている)

 大地より資産もあり、大地よりかっこいい。
 そりゃ、より良い方へと目がいくよね、美和だもん。
 中身より条件だけを見れば、とんでもない優良物件だ。
 そう考えれば、私なんかが婚約者として隣に居る事が、とてつもなく烏滸がましいように思えてしまう。

「大丈夫だから」

 まるで心の中でも読まれたのかというタイミングで、私は驚いて顔を上げた。
 隼人は優しい微笑みを私に向け、更に言葉を続ける。

「俺には梨花だけだし、梨花以外に興味はない」

 まるで恋人に語り掛けるような言葉を放たれ、私は顔を真っ赤にして俯いた。
 私達の関係に恋愛感情なんてないというのに。
 隼人の言い方は誤解を招くんだと、そんな意味なんてないと自分に言い聞かせる。
 
(私達は……)

 隼人の微笑む姿を見て、胸がズキンと痛む。
 ただ、親同士が決めたような関係。
 もし誰か好きな人が出来たというなら私は喜んで身を引こう。
 やはり、一人でも生きていけるようにしないと。
 隼人に限って、ないとは思うけれど、以前のように形だけの夫婦となり、他で恋人を作られるというのも嫌だ。

(でも、隼人は私にとって大切で心強い存在になっているんだよな)

 自分の中に芽生えている気持ちを自覚しつつ、私は隼人と昼食を食べ、勉強に勤しんだ。
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