全て切り捨てて自分の幸せを掴みます~都合良い駒として生きるのはやめてやる~

かずきりり

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「梨花!」
「待って」

 私を呼び止めようとする隼人の声、それを制する美和の声。
 仲睦まじく聞こえてしまうのは、私の醜い嫉妬心もあるのだろうか。
 素早く次の教室へと向かい授業を受けるが、教授の声が耳に届いているのは分かる。が、頭には入ってこなかった。
 言葉が意味として理解出来ず、ただ風の音や鳥の鳴き声のように、雑音としてしか感じられなかったのだ。
 意味を含まない、ただの音。
 何とか教科書を読もうとしても、そこに羅列されているのは文字ではなく記号のようで、言葉が頭に入らない。
 文字すら意味が理解できず、それにはただの記号が印字されているようにしか見えない。
 言葉を書こうにも、何を書いて良いか分からない。

 ――惨めだ。

 こんなに怒りを感じ、悲しみに心が張り裂けそうになり、声にならない叫びが身体中を貫くような感覚は、以前の生も含めて初めてだ。
 認められたいと願い、求められるまま動き、自分の感情を押し殺していた頃とは違う。
 感情が溢れて、叫びたくなるのを抑え、張り裂けるように心が痛む。
 どうして良いのかなんて分からないし、どうしたら収まるのか皆目見当もつかない。
 溢れかえる感情で、自分が自分ではなくなるように思えて怖くなる。


「……」

 溜息が出そうだったが、何の音も出ず、ただ口を開いただけで終わった。
 自分自身に呆れた気持ちを持ちつつ、何の意味もなさなかった授業が終わり、私は迷いながらも次の教室へと向かう為に廊下へと出る。

「梨花! 話を聞いてくれ!」
「梨花~、お疲れ!」

 既視感。
 またしても寄り添う二人が、私の目の前に現れた。
 授業が終わってすぐ廊下に居るなんて、授業をサボっているのだろう。
 こんなの待ち伏せだ。

「離せ!」
「え~? なんで今更?」

 隼人が美和の腕を振り払って怒鳴るけれど、今更? と思い冷めた目で見ていた。
 どうせ私の前でだけ見せるパフォーマンスなのだろうと……私をまた騙すつもりなのかと。
 怒りや悲しみで頭がごちゃごちゃするけれど、全く表情筋は動かない。
 鬱々とした気持ちだけが支配し、私は目の前に居る二人をスルーして通り過ぎる。

「梨花、なんで隼人さん無視するの? 婚約者なんでしょ?」

 頭にカッと血がのぼり、背筋に鳥肌が立つ。
 ゾワリと怒りの感情が奥底から這い上がる感覚がして、自分自身に身の毛がよだった。

「あ、違った。元だったっけ?」
「おまえ……っ!」

 馬鹿にするような美和の声。
 隼人が美和を制するように声を荒げたけれど、演技にしか思えなかった。
 だって、ならば何故、婚約解消を告げた事を美和が知っているというのだ。
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