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魔界編

番外.こちらでの変化

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「そういえば、もうドゲザだっけ?しねーの?」
「え?ええ?えええ???」

色々アイデアが湧き出る為、まだまだというか、多分一生多忙を極める事となる魔道具作りの休憩中、いきなりルークがそんな事をアキに言った為、オトは若干というか大分ドン引きして、軽蔑を含んだ眼差しをアキに向けていた。そして聞かれたアキ本人は、思わず狼狽えてしまっている。

「いや……なんて言うか……謝れば全て済むと思ってたっす」
「んなわけねーだろ」
「はい、ごもっともっす……」

口を開けば厳しい言葉が返ってくるも、それはアキ自身も理解している。ただ、染み付いてしまった習慣だっただけだ。
あちらの世界では、思い出したくもない日々の暮らしに、自己肯定感なんてものは微塵に砕かれ、常に自分の存在意義を求めていたと言っても過言ではなく、ネットの世界に承認欲求を求めていた程だった。

「ん~……なんていうか……多分、全て曝け出して受け入れてもらったからっすかね?」
「確かに、そのウザい喋り方には、もう慣れたわ」
「……」

アキの言葉に、オトの辛辣な言葉が飛び出て、返す言葉もなくなる。

「そんなお前も、当初とは大分変わったよな」
「そりゃ、ちゃんと自分の足で立たないと生きていけないでしょ」

ルークの言葉に、オトもそう返す。
周囲に流されるまま、言われるまま、何も考えず、周囲に責任転嫁して……そんな事をしていては、結局自分の身が危うくなるだけだったのだ。
学生で、子どもという立場は結局のところ周囲の大人たちによって守られているのであって、それに対して反発して居た部分も多々あったし、言われてもちゃんと理解できていなかったのだと今なら思える。

「結局、色々スワさんに教わったようなものよね……」
「そっすね……」

向こうの世界で居たままならば、出会う事がなかった私達は、こちらの世界で自分を見つけられる程にまで成長したと言っても良いのかもしれない……が。

「……あれだけ自由を求めて動ける人が社畜だったんだよね……」
「社会って怖いっすよね……」
「本当……想像もつかないわ……」

自由を求めて、無責任にも色々と放り出して旅に出たスワを思い、アキとオトは遠い目をしながら窓の外を見る。行動力もある人が、社畜。逃げ出せる人が、社畜。あれだけの人が、社畜。
社会に出た事のない二人は、元の世界を恐怖に思う反面、ルークは度々聞いていた『社畜』という言葉は地獄に等しい事なのかもしれないと、聞かなかった事にして静かに紅茶を楽しむ事に専念した。

それもこれも『聖女』というチート現象が起こしてしまった事だというのには触れずに。
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