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 今の今までは、ただ推しが目の前に居るという喜びで、そんな細かいところまで気にしていなかった自分が憎い!

「いやぁああ!! ルイス! 寝て!」

 悲鳴のような私の声に、一瞬ビクリと身体を揺らしたルイスだけれど、お父様の顔を伺うように見る。お父様がルイスに対して頷けば、ルイスは私に頭を下げて部屋から出て行った。

「ミアもまだ少し横になっていなさい」

 お父様が優しく私をベッドへと倒す。
 その行為に対し、お母様は一瞬お父様に対して厳しく睨みつけたけれど、すぐに私へと視線を戻して心配そうな表情をした。

「もうすぐお医者様が来てくれるから、診てもらうまで安静にしていてちょうだい」

 今までずっと仲睦まじい両親だったのに、今は見て分かる程に距離がある。

 ――そうだ、今二人は、誤解によって心が離れているんだ。

 思考を巡らせる為に目を閉じた私を見て、両親とコランは私をゆっくり休ませる為に部屋から出ていった。

「異世界転生……ってやつかな……」

 ポツリと言葉に出せば、謎に実感が湧く。
 奴隷のような日々を過ごし、そして……私は死んだのだろう。むしろ、いつ死んでもおかしくなかったのではないかと今なら思える。
 死因は過労死かな。
 他人事のように思い、寝返りを打つ。
 むしろそんな事よりも重要なのは今だ。

『国を救うは二人の愛』

 そんな大層なタイトルがつけられた乙女ゲーム。
 それが今、私が転生してきた世界で、生前に癒されていたゲームでもある。
 ただ、タイトルが大げさすぎるというか……何だこれは! というラストでしかなかったのだけれど。
 ヒロインが攻略対象者達と愛を育むのは、定番中の定番で、当たり前だ。

 ――問題は、私の推しであるルイスの扱いなのだ。

 魔術家系であるセフィーリオ公爵家に、最強の魔術師と呼ばれる存在が居た。
 それがお父様の姉、リリアック・セフィーリオ。ルイスの母親だ。
 そして父親は……王弟のエザリオ・アサニヨ殿下だ。
 二人は思いあっていたが、お互い婚約者が居る身だった。だけれど、リリアック・セフィーリオは良くも悪くも自分に正直だった為、何とエザリオ・アサニヨ王弟殿下に薬を盛って一晩を共にしてしまったのだ。
 公爵家に迷惑がかからないようにと、そのままリリアック・セフィーリオは国外へ逃亡したのだが、身籠っていた事が判明し、国外でルイスを出産。
 エザリオ・アサニヨ王弟殿下は、リリアック・セフィーリオの安否を心配しつつも、不義を働いたと婚約を白紙に戻し、未だに独身。
 ……これだけで、ルイスの生い立ちは十分すぎる程に訳ありなのだが、まだあるのだ。
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