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第四章
03.聖女任命の儀
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そんな心と身体共にゆっくりとした生活なんてのは、少しずつ影を落とし始めた。
「あ、真だ」
暇になったと言う割には忙しく動いている真の姿が、ふと目に入った時だった。
「異端者……」
そんな声がふと、どこかから漏れ聞こえてきた。
文献が見つかっていないから、そんな事を言いだしているのかと、その時の私はあまり気にしていなかったのだけれど……。
日々広がる真への中傷は、止まる所を知らず、キィや琴子の耳にまでも入っていた。
「今日は悪魔だって聞いたよ!」
「むしろ、これだけ探しても文献に男の贈り人が乗ってないからこそ、悪魔でしかないと断定しているみたいね」
イライラしているのか、キィはぬるくなったお茶を一気に喉へと流し込む。
そんな私達は今、中庭にある東屋でお茶をしているのだけれど、お菓子を持ってきてくれた侍女はキィの迫力に少し怯える様子さえ見せた。
「文献が見つからないなんて、残してなかっただけじゃないの!? てか、文献、文献って! 馬鹿の一つ覚えみたいに!」
「昔の人は賢いというし、それは実感もしていたから分かるけれど……人を貶めるのは違うんじゃないだろうか」
お菓子等を運んでくれる侍女。
庭を手入れしている庭師。
側を通る神官達などに聞こえるような声で二人は話す。
これぞ女の怖い所……っ!
「民達の間でも悪魔降臨の話が……」
「あ、おい! しっ!」
通り過ぎようとした神官達の声が聞こえ、キィが思いっきり睨みつける。
聖女を真だと仮定したとしても、贈り人だ。その力は計り知れない。
いくら子どもだといえ、贈り人であるキィに睨まれたのは恐怖なのか、話していた神官達は急いで逃げるように立ち去って行った。
「なんなの!? 国を救ってもらっておいて!」
「という事は命を助けてもらったと言っても過言ではない筈なのにねぇ」
怒りのキィ。
侮蔑を込めた物言いをする琴子。
私も同じ気持ちだ。だからと言って、ここからどう解決していけば良いのかなんて分からない。
自分の無力さに溜息を吐きたくもなる。いっそ文献とやらを私も一緒に探してみようか……でも、それで見つからなかったとしたら……?
「こんな所に居たのですね」
「枢機卿!」
来訪者の声に喜び、キィは近くへと駆けていく。
相変わらず優しい微笑みを浮かべる枢機卿は、どこか疲れた様子だ。
「……何かありました?」
様子を伺うように琴子が声をかければ、キィも気が付いたのか心配そうな瞳を浮かべる。
少し困惑したように瞳を彷徨わせ、一呼吸吐いた後、枢機卿はこちらを見て言葉を紡いだ。
「次期聖女任命の儀をすると、国王陛下より贈り人の皆さまは王城に来られるように、と」
「あ、真だ」
暇になったと言う割には忙しく動いている真の姿が、ふと目に入った時だった。
「異端者……」
そんな声がふと、どこかから漏れ聞こえてきた。
文献が見つかっていないから、そんな事を言いだしているのかと、その時の私はあまり気にしていなかったのだけれど……。
日々広がる真への中傷は、止まる所を知らず、キィや琴子の耳にまでも入っていた。
「今日は悪魔だって聞いたよ!」
「むしろ、これだけ探しても文献に男の贈り人が乗ってないからこそ、悪魔でしかないと断定しているみたいね」
イライラしているのか、キィはぬるくなったお茶を一気に喉へと流し込む。
そんな私達は今、中庭にある東屋でお茶をしているのだけれど、お菓子を持ってきてくれた侍女はキィの迫力に少し怯える様子さえ見せた。
「文献が見つからないなんて、残してなかっただけじゃないの!? てか、文献、文献って! 馬鹿の一つ覚えみたいに!」
「昔の人は賢いというし、それは実感もしていたから分かるけれど……人を貶めるのは違うんじゃないだろうか」
お菓子等を運んでくれる侍女。
庭を手入れしている庭師。
側を通る神官達などに聞こえるような声で二人は話す。
これぞ女の怖い所……っ!
「民達の間でも悪魔降臨の話が……」
「あ、おい! しっ!」
通り過ぎようとした神官達の声が聞こえ、キィが思いっきり睨みつける。
聖女を真だと仮定したとしても、贈り人だ。その力は計り知れない。
いくら子どもだといえ、贈り人であるキィに睨まれたのは恐怖なのか、話していた神官達は急いで逃げるように立ち去って行った。
「なんなの!? 国を救ってもらっておいて!」
「という事は命を助けてもらったと言っても過言ではない筈なのにねぇ」
怒りのキィ。
侮蔑を込めた物言いをする琴子。
私も同じ気持ちだ。だからと言って、ここからどう解決していけば良いのかなんて分からない。
自分の無力さに溜息を吐きたくもなる。いっそ文献とやらを私も一緒に探してみようか……でも、それで見つからなかったとしたら……?
「こんな所に居たのですね」
「枢機卿!」
来訪者の声に喜び、キィは近くへと駆けていく。
相変わらず優しい微笑みを浮かべる枢機卿は、どこか疲れた様子だ。
「……何かありました?」
様子を伺うように琴子が声をかければ、キィも気が付いたのか心配そうな瞳を浮かべる。
少し困惑したように瞳を彷徨わせ、一呼吸吐いた後、枢機卿はこちらを見て言葉を紡いだ。
「次期聖女任命の儀をすると、国王陛下より贈り人の皆さまは王城に来られるように、と」
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