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「可愛いな」
「どうだ?側室にならないか?」
「王宮に泊まりにくるか?」

一緒に毎朝、毎昼、毎放課後に恒例となっている、殿下の世迷いごと。
ロラン殿下の周りには女性が蔓延り、殿下が甘い言葉を紡ぐ。
蔓延っているのは主に下位貴族の令嬢で、側室に選ばれたら運が良いという程度であり、基本的には殿下を満足させる事が出来ればという王族に従う気持ちからだ。
だからこそ王宮に泊まりどころかロラン殿下と二人っきりになるという愚かな事は一切していない。
下位とは言え貴族の矜持はしっかり持っている令嬢達なのだ。
それはもう昔からの光景なので皆慣れ親しんでいるものの、ここ何日か前からは違う。

「やだ~殿下ってば!私がいるのに~」
「もちろん一番はパティだよ」

殿下の腕に手を添え、くっついて歩く令嬢がいるのだ。勿論それは私の妹、パトリシアである。
周囲は微妙な表情で見ているのを殿下もパトリシアも気がついていない。

「あら?お姉様。そんなところで何をしているの?婚約者の相手もしないで」
「あぁパティは本当に優しいな、そんな気遣ってくれて。レティも少しは見習え」

周囲は哀れんだ目を私に向けてくる。
そんなはしたない事を見習いたくもないし、娼婦のような事もしたくはない。

「パトリシア、姉の婚約者であるロラン殿下とそんな親密にしていてはいけません」

ラグローズ公爵家の事を考えて注意をする。いくら殿下が女に見境なく声をかける相手であっても、パトリシアがこのような態度を取っていては公爵家に傷をつけられてしまう。

「何を言ってるんだ。お前が相手をしないからパティが相手してくれるんだろう。冷たい奴だ」
「お姉様が不甲斐ないからじゃないですか~!」
「貴族としての嗜みを持てと言っているのです」
「あぁああ!もう煩い!いい加減にしろ!指一本触れさせない婚約者などいらん!」
「結婚、特に王族へ嫁ぐとなると純潔である事は当たり前ではないですか。王家の血を守る為にも」

尻軽なぞ論外。病気を持ったまま嫁ぐのも論外。
どこの種を持ち込むか分からない状態ではなく、きちんと王家の血筋を守る為にも決められていること。
何か嫌な予感がすると背中に汗が伝う…が

「パティは喜んで俺の相手をしてくれるぞ!お前みたいな冷たい婚約者なぞ要らん!婚約を破棄する!その顔を二度と見せるな!」

——終わった——

周囲の驚きと諦めの顔。
不貞を堂々と宣言した事もそうだが、パトリシアがもう純潔でないという事を周囲にしらしめる結果ともなってしまった。
言ってしまった言葉は…周囲が聞いてしまった事は…取り消せない。
ラグローズ公爵家に思いっきり傷がついてしまう結果となったわけで……

「あ~あ、お姉様ったら本当不甲斐ないわ~!残念ね~」

すでにロラン殿下に愛想をつかしていた私は、婚約破棄はどうでも良く。
事の重大さを理解していない妹を含めて色々と面倒な事になったと頭を抱え帰路についた。
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