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04.

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 仮にも一応伯爵令嬢として籍を置いているのだ。いきなり消えれば体裁を整える為にも探すという行動が起こるかもしれない。
 ……まぁ、病死したとか言いそうだけれど。その方が婚約者の変更もすんなりいくだろうし。
 でも、もうそういった全てが煩わしいと思える中、ゆっくりと身体が縮んで骨格が変化する奇妙な感覚を覚える。ギシギシと肉体が無理やり捻じ曲げられる気持ちの悪さから抜け出せば、私の手は亜麻色の毛にまとわれ、肉球もついていた。

「多分……成功?」

 この部屋に鏡なんて物はない。だから実際自分が猫になれたかどうかは分からないけれど……手……いや、前足を見れば猫であると思える。
 荷物……というか、研究の材料や魔法具は全部空間魔法へ収納した。
 ゴミ置き場とも思える何もない部屋を一瞥して……私は、そのまま外へ飛び出した。



 ◇



 甘かった、と言わざるおえない。
 馴染みの店で魔法具を売って、お金を作り、ついでに冒険者ギルドへ行って魔物討伐をして、討伐金を貰う。そして宿をとった……までは良かった。
 お金もあって、稼ぐ手段もあって、その時だけ人で居れば良いと思っていた。しかし、何故か家出した翌日には、私が家出したという噂が広まっていたのだ。挙句の果てには、街をうろつく兵達が増えたし、宿屋にまで聞き込みに来ていた。
 そうなれば……宿屋に止まる事も、冒険者ギルドで依頼を受ける事も難しいというわけで……。

「しまったなぁ……」
「ねぇねぇ、聞いた?」

 猫の姿で路地裏をウロつきながら呟いていれば、大通りから人の話し声が聞こえた。

「ティルトン伯爵家の令嬢が家を出たって!」
「貴族のご令嬢が? 一体どんな遊びなの?」
「どうやら悪逆非道な令嬢で、義理の妹を虐めていたらしいわよ」
「それを! 公爵令息が助けたらしいわ! お優しい……」
「でもそれ、姉の婚約者だったというじゃない」
「自分の婚約者でも、悪い所をきちんと戒める令息だったのよ」
「それで二人は恋仲になったとか……」
「そもそもが、あまりに酷くて耐えかねていたところもあるみたいよ」

 娘達の井戸端会議が聞こえる所で座り、聞き耳をたてる。
 すぐにこんな噂を流すとは、ある意味でやり手だなと義母や義妹に感心する。私なんかより、余程腹黒貴族社会に適しているだろう。

「貴族令嬢にあるまじき行動だから、恥ずかしくなって逃げたらしいわ」
「けれど、伯爵家と侯爵家は許すつもりで探しているとかって」
「お優しいわねぇ」
「私達の税金で我儘やってるとしたら、私は許せないわよ!」
「そうね! 探さなくても良いのに!」

 事実とは全く違う美談が広がっている事に、私はため息をついた。
 どうせもう、今更だという事も理解している。
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