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「王弟殿下の第一子……リムド・ハーパー公爵子息が自ら動いているから、今まで以上の危機というわけですか?」
「そうだね。遠慮がなくなってきたよ」

 そりゃ王族の血脈が動いているのだから、後押ししている奴の動きも活発になるだろう。

 ――不憫だ。

 思わず王太子殿下に同情という失礼な感情が埋め付くした。けれど、そんな状態を自分に重ね合わせてしまったのだ。
 誰も望んでいないのに、勝手に決めつけたり、周囲が色々動かしていたり。気が付けば全てが決まっているのだ。ただ、貴族の令息令嬢であれば当たり前だと思っていたけれど、私や王太子殿下の場合は生活だけでなく、命に関わってくる。
 そりゃ、政略争いで負ければ、確かに命は脅かされてしまうだろうけれど……。

「本当、人間って面倒くさい」
「まぁ、今のイルは猫ですし」

 人間に対して嫌気がさし、嫌悪感満載で呟けば、師匠はそんな事を口にしながら、紅茶に口をつけた。
 思わず睨めば、師匠はカップを置いて、優しい目で口を開いた。

「イルは私に対しては平気ですし、人間嫌いと言っても、人間全てが嫌いというわけではないでしょう。猫の姿であれば王太子殿下とも仲良くしているようですし」

 ……確かに。自分を害してくる人が多いから、そう思う事が多いけれど、害を与えられなければ思わない。でも、出来れば関わりたくない。人間には絶対に裏がある。

「まぁ、イルは猫のままで良いのですよ。目立った護衛をつけられないので助かりましたよ。そんな事をすれば向こうを刺激しかねないですからね。そのまま猫可愛がり受けていて下さい」
「お断りしたいです」

 希望的に言うのは、王太子殿下に直接止めてくれと言えないし、師匠が言ったところで…………聞かない気がするからだ。

「困っていた事に、怖いのは1人になる時間ですからねぇ。深夜の寝室、猫であれば居てもおかしくないですし、警戒もされませんからねぇ」
「問題はありまくりですよね!?」

 猫だからで全部解決するとでも!?中身を考えろ!中身を!見た目が猫でも猫じゃないのに!!
 ……まぁ、雨風を凌げる上に、食べる物もあって、猫のまま居られる環境には助かっているし感謝もしている。しかし、精神面的には助かっていないのだ。

「そういえば……猫の姿での街中生活はどうしていたんだ?」

 ふと、今気が付いたと言わんばかりに放った師匠。

「少しだけ魔法具を使いましたけれど、目立てないので……」
「どんな魔法具を!?」

 弱った精神を盛り上げるには最高の話題となる。師匠と私は、超がつく魔法馬鹿なのだ。
 その後は日が暮れるまで、ひたすら魔道具の話で盛り上がっていた。
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