44 / 78
追い剥ぎ街道
第44話
しおりを挟む僕達は王都圏からやや離れた次の町を目指し、街道を進んで行きます。
田舎道ですが、それなりに整っていて歩きやすい道です。
人家はまばら。やがて道は深い森の中へ入っていきました。
ひと気がないのでラミアさんは仮面を外して包帯顔に。あれを付けているのは実際うっとうしいでしょう。
鬱蒼と茂る木々の間を抜けていく曲がりくねった道。
左右から聞こえてくる野鳥のさえずりが賑やかです。
「悪くない雰囲気だけど、今やこの森の道は追い剥ぎ街道と呼ばれてるんだよねぇ」
フィンさんが呟きました。
「追い剥ぎ? つまり、馬車を襲ったような人達が潜んでいるのですか?」
僕はあの時の賊達の姿を思い出す。
「そういうこと。それもたくさん集まってるのさ。この街道を通って王都を目指す人も王都から出て来る人も、いくばくかの路銀は持ってるはずだからね。賊にとっちゃ狙い目なわけ」
「5分に1回は賊に遭うらしいよ」
トーマさんが話に入ってきます。
「そんなにですか! でも」
僕は素朴に疑問を感じて言いました。
「襲われた人は最初の賊に金目のものは全部奪られてしまいますよね? 次の賊はその人を襲っても、もう奪えるものなんてないんじゃないですか?」
「うん! 良いところに気が付いたね!」
「はっ、はい」
「通行人が行列を作るくらいいないと、出入り口付近にいる賊以外は何も奪れないね! 良い場所の確保は早い者勝ちかな?」
どうやらトーマさんも追い剥ぎ街道の詳細は知らないようです。
「街道のどの位置で仕事できるかは賊同士の力関係で決まってくるさ」
言いながらフィンさんはバナナを食べ始めました。
「つまり、一番強い賊が出入り口に陣取って全てを奪ってしまうわけですね」
「そうでもないんだなぁ」
僕の理解をフィンさんは否定します。
「何? 何? どういうことです?」
トーマさんも気になる様子。
「危険と分かっててこの道を通る人が非武装ってことはないよね」
フィンさんがヒントを出します。
「あっ、武力が未知数の通行人を最初に襲う賊は反撃されて倒される可能性があるんだ」
僕は納得しました。
「うん。となると次々出て来る多くの賊と戦って疲弊しきった通行人を襲う方が得だね。奥にいる賊に旨味がありそうだ」
「でも好みの場所を選べる一番強い賊が奥の方を縄張りにするとも思えませんね」
「そうだね。弱っちい通行人が相手なら真っ先に襲える方が得だもんねぇ」
「一番手の場所を確保した上で襲う相手を選べばいいんだよ! 強そうな相手はスルーです!」
トーマさんの意見が正解かもしれません。
「なるほどねぇ。でもさ、重武装の通行人ほどたくさん金目のもの持ってそうだけど」
「そうか! 難しいですね」
「位置取りの解を導き出すには様々な要素に目を配って総合的に判断する必要があるね。もはや盗賊学とでも呼ぶべき学問だよねぇ」
そ、そうなんでしょうか。
とにかく賊も大変なんだということは分かりました。
「それに解を見つけても実入りが多い賊を他の賊が襲って稼ぎを奪う、まであるからね。弱い賊も同盟すれば強い賊に勝てるでしょ」
フィンさんが更に言うと、トーマさんは思案顔。
「そうなるともう賊もストレス半端ないですね。皆いつ自分が被害者となるか分からない」
「そうさ。だからそんな混沌を脱するために賊達はいずれ団結して一つの集団となり、稼ぎはルールに則って構成員に分配するようになると思うなぁ」
「おおっ! なるほど」
感嘆するトーマさん。
「こうして社会というものは誕生するんだね」
したり顔のフィンさん。
「感動です! 人間って素晴らしいですね!」
トーマさんはどうやら本当に感銘を受けているようです。
だんだん付いていけなくなりました。
「それはそうと」
ルキナさんが口を開きます。
「長々としょうもない話をしてるのに、5分に1回の賊はいっこうに襲ってきませんわね」
「強そうな集団なのに金持ってなさそうだから見送りされてるんだよ!」
トーマさんが断言しますが、ルキナさんは納得しません。
「うーん。茂みの中にも人の気配がありませんし、隠れてるわけではなさそうですわよ」
「ああ、そんなら」
一番後ろにいたガンプさんの突然の発言。
「わしのせいかもしれんき」
「どういうことですの?」
ガンプさんは頭をポリポリ掻きました。
「町に戻る時この道を通ったんじゃ。次々出て来る賊をみんな再起不能にしてやったがよ」
「……あら」
「楽しみを奪っちもうたみたいですまんかったがや」
いえいえ、誰も楽しみになんてしてないと思います。
……してませんよね?
ガンプさんが大掃除してくれていたおかげで一行の足の進みは速い。
「あなたには他にも色んな武勇伝がありそうですわね」
ルキナさんの言葉をきっかけに、ガンプさんが武者修行中に体験した様々なエピソードを聞かせてもらう流れになりました。
色んな武芸流派の達人たちとの試合、各地にはびこる賊の駆逐、人々を苦しめる害獣退治。例えば電撃を放つ魔牛ストーンカや、子を攫う巨鳥ルフとの死闘。
語り方は淡々としているのに血湧き肉躍る熱い話が次々と出てきます。
かなりの距離を進んだ時のことです。初めて道の向こうから人が歩いてくるのが見えました。
紫色のケープを纏った老婆。
お婆さん一人でこの大きな森を歩いて抜けていくなんて大変だな、大丈夫かな、と心配になります。賊がいないのは本当に幸いでした。
かくしゃくと近付いてくる彼女は僕達の馬と擦れ違う直前、ふと足を止めました。
そして、先頭のラミアさんを見上げる。
「不吉な……」
そう呟き、僕ら一人一人の顔を順に見ていきます。
馬を停止させてラミアさんが聞きました。
「どうかしました?」
老婆は難しい顔をして唸る。
「死の女神の息吹が薫っておるの。主らの半数は近いうちに命を落とそうぞ」
「えっ!!」
思わず声を上げたのは僕だけです。
老婆はその声に振り向き、射るような眼差しで僕を見つめます。
圧が凄い。
「お主。気の毒に」
僕は一瞬言葉に詰まりました。
「…………なっ、な、何がです?」
「残してきた大切な者達がおるのか? このままでは全て失おう」
僕の顔からは血の気が引いていたと思います。
「どうすれば良いのかしら?」
ルキナさんが聞きました。
「善を為して魔を払うが良い。貧しき不具の者に出会わば、ありったけの施しを。神の加護を引き寄せようぞ」
「分かった。ありがとう」
ニッコリ微笑みを老婆に向けるラミアさん。
そして、また前を向いて歩み出しました。皆も動き出す。
え、それだけ?
もっと詳しく聞いた方がいいのでは……。
僕は言われたことが気になって仕方ありません。
そうか、でもラミアさん達は信じてないんだ。
確かに老婆の言葉を信じる根拠はありません。
背中に老婆の視線を感じながら、僕もやむなく馬を前へ進めました。
「残してきた者達って……」
道を行きながら僕はそのことばかり考えてしまう。
「そりゃ旅人はたいてい親族なり友人なり残してきた者がいるよね」
フィンさんが僕の独り言に答えます。
しばらく行くと遠く道端に人が倒れているのが見えました。
僕は馬を走らせ傍らに駆けつける。
「どうしました? 大丈夫ですか?」
地面に横たわっていたのはボロに身を包んだ老人。
側に杖が転がっています。
「うう、足が萎えておりますのじゃ。空腹じゃし、歩けのうなりました」
「食べ物なら……」
僕は鞍に下げた荷袋からパンと水筒を取り出し、老人に差し出しました。
「これを食べて下さい」
老人は身を起こしてパンを受け取ると猛烈な勢いで食べ始めます。
「ありが、ガツ、ムシャ、モグモグ、とごぜます、ハムホム、ゴクゴク」
「あの、もっとゆっくり食べた方が……」
「なんの。ちょっぴり元気になりました。ちょっぴり」
「ちょっぴりですか」
「金がないので明日にはまた飢えるかと思いますと……」
「あっ、そっ、そうですよね」
先程の老婆の言葉が頭を過ぎります。
符合する……。
僕は所持するありったけのお金が入った巾着袋を老人に渡しました。
「これを使って下さい」
こんなにすぐに老婆の言葉通りの相手に出会うなんて、あのお婆さんは確かに他人の運命が見える人だったんだ。
貧民街のモーラさんのように力を持つ巫者は間違いなくいる。
そんな人にたまたま行き会えたなんて本当に幸運でした。
このお金で大切な人達の命を買えるなら、安いなんてものじゃありません。
ご老人も助かるし、良いこと尽くめです。
いつの間にか他の皆は僕の後ろに立っていて、事の成り行きをじっと見ていました。
「アレン、その人は」
言いかけたトリアさんをフィンさんが片手で制します。
「いいの?」
ラミアさんがフィンさんの顔を見て聞きました。
「いいんじゃないかなぁ。好きにやらせてあげようよ」
「意地悪ですわね」とルキナさん。
「そういうつもりじゃないんだ。ただね、なんていうかな、何だかアレンがいれば本当に神の御加護がありそだな~って思わないかい?」
フィンさんの言葉にラミアさんは少し吹き出しました。
「そうね」
いったい何の話をしているのかさっぱり分かりません。
「アレン、気が済んだら行くよぉ」
「あ、はい」
フィンさんに声を掛けられ、僕は馬の上に戻ります。
歩き出しながら振り向くと、老人は袋の中のお金を数えているところでした。
少ない額で申し訳ないです。
「あっ! あの人、ちゃんと歩いて森を抜けられるのかな。送っていった方が……」
僕の呟きにフィンさんは掌を上下に振って応えます。
「大丈夫、大丈夫」
「あの二人って夫婦なのかな?」
トーマさんが言います。どの二人??
「そうかもしれませんわね。色んなやり方があるものですわ」
ルキナさんは普通に分かっているようです。
色んなやり方? 何の?
本当に皆は何を言っているのでしょうか。
0
あなたにおすすめの小説
器用貧乏な赤魔道士は、パーティーでの役割を果たしてないと言って追い出されるが…彼の真価を見誤ったメンバーは後にお約束の展開を迎える事になる。
アノマロカリス
ファンタジー
【赤魔道士】
それは…なりたい者が限られる不人気No. 1ジョブである。
剣を持って戦えるが、勇者に比べれば役に立たず…
盾を持ってタンクの役割も出来るが、騎士には敵わず…
攻撃魔法を使えるが、黒魔道士には敵わず…
回復魔法を使えるが、白魔道士には敵わず…
弱体魔法や強化魔法に特化していて、魔法発動が他の魔道士に比べて速いが認知されず…
そして何より、他のジョブに比べて成長が遅いという…
これは一般的な【赤魔道士】の特徴だが、冒険者テクトにはそれが当て嵌まらなかった。
剣で攻撃をすれば勇者より強く…
盾を持てばタンクより役に立ち…
攻撃魔法や回復魔法は確かに本職の者に比べれば若干威力は落ちるが…
それを補えるだけの強化魔法や弱体魔法の効果は絶大で、テクトには無詠唱が使用出来ていた。
Aランクパーティーの勇者達は、テクトの恩恵を受けていた筈なのに…
魔物を楽に倒せるのは、自分達の実力だと勘違いをし…
補助魔法を使われて強化されているのにもかかわらず、無詠唱で発動されている為に…
怪我が少ないのも自分達が強いからと勘違いをしていた。
そしてそんな自信過剰な勇者達は、テクトを役立たずと言って追い出すのだが…
テクトは他のパーティーでも、同じ様に追い出された経験があるので…
追放に対しては食い下がる様な真似はしなかった。
そしてテクトが抜けた勇者パーティーは、敗走を余儀無くされて落ち目を見る事になるのだが…
果たして、勇者パーティーはテクトが大きな存在だったという事に気付くのはいつなのだろうか?
9月21日 HOTランキング2位になりました。
皆様、応援有り難う御座います!
同日、夜21時49分…
HOTランキングで1位になりました!
感無量です、皆様有り難う御座います♪
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!
野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。
私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。
そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる