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52: オキナ・タカサゴです。最近繁華街に通ってます。
しおりを挟むオキナ・タカサゴです。ネオン・ブレーカーが見つかりません。トホホ……。
「はぁ、大分朝は冷え込む様になってきたな…。」
学園の身分証と剣を携えて、俺はまだ朝靄立ち込める繁華街を静かに駈けていた。
今日こそはネオン・ブレーカーを見つけるぞ!ネオン・ブレーカーと話をするぞ!と意気込んで幾星霜……は言い過ぎだけれど、最近、繁華街へ行くのが日課になっている。
此処数日は、レツーサに繁華街の夜や明け方は治安が悪いと聞き、学園帰りだけでなく早朝にも繁華街に出向いて…。
(全く、何やってるんだろう……。)
昨日なんか、休みだからって一日中繁華街を彷徨いてしまった。
はぁ、自分で自分の休日の使い方に残念な気持ちになる。
繁華街と言っても、俺が彷徨いてるのは繁華街の後ろにある高級住宅街やその境目周辺なのだが、言葉だけ聞くとまるで不良だ。
でも、ああ、もしネオンが毎夜毎夜繁華街で遊び回る様な不良に目を付けられてたらどうしよう。
粗末なアパートに閉じ籠られて、金を搾り取られてたら…?Ωだし、いかがわしい夜の店で働かされてたら……?
まさか、そのネオンがもう何年も前から毎夜毎夜繁華街に入り浸り、ちょっと前まで粗末なアパートに住んで浮かせた金を搾り出す様に俺の追っかけ費用に費やしてて、最近は時々店でピアノを弾いてはチップを稼いでるとか露程にも思わなかった俺は、脳内に犇めく良からぬ妄想に頭を掻き毟った。
「うわぁぁぁ心配だ……」
どうにも、"ネオンが親に内緒でアパルトマンを又貸しし、違う所で一人暮らししている。そして、それを知ってるのは俺だけ。"という事実が俺を不安な気持ちにさせる。
なのに、追い討ちをかけるように、ネオンがΩだと知って……。
早くネオンと話をしたいのに、会いたいと手紙を書いてものらりくらりと躱した返答ばかり。
かといって婚約の打診を手紙でする訳にもいかず、誰かに見られるかもしれない手紙で"本当は何処に住んでいるんだ"とも聞けず…。
「キャァ!誰か!」
「……ッ!!」
と、前方で悲鳴が上がり、俺は即座に駆け出した。
「ひったくりよ!」
掠れた中年女性の声がひったくりだと言うが、こんな風に駆け出してしまってはもう止まれない。仕方がなく、俺はそのひったくり犯に追い付くとタックルして組伏せ、女性のモノであろう鞄を奪い取る。
「まぁぁ、ありがとう!」
「いぇ、どういたしまして…ハハハ」
最近パッタリとネオンの姿を見なくなったのもあって、本当に彼が心配で仕方がない。
そのせいか、こうやって繁華街を彷徨いてる時に悲鳴が聞こえると、全部ネオンの悲鳴かもしれないと思って駆け付けてしまうのだ。
感動したおばさんが俺の事を何だか貴族令息の鑑みたいに褒めちぎってるが、そんな事に時間を割いてる暇は無いんだ。俺は急いでひったくり犯とおばさんを衛兵に引渡し、こうしてる間にネオンがピンチになっていないかと耳を澄ませて住宅街を進んだ。
「騎士見習いでも自発的に見廻りをするやつは殆どいないのに、騎士科だからと見廻りをするなんて、今時中々居ない!立派な!」
「卒業後は王都騎士団を志望してるのかい?又会えることを楽しみにしてるよー!」
後ろで衛兵長らしき人達がにこやかに手を振りながら何か言ってるが、俺はそれにヘラヘラと手を振り返して急いでその場を離れる。
昨日、何だかんだあって強盗、空巣、ひったくり、喧嘩等合計15件位検挙してしまい、すっかり俺はこの辺りの衛兵達に顔を覚えられてしまった。
俺も怪しまれてしまい、職務質問されたので身分を明かし、まさか、最近行方が判らない幼馴染みと婚約したくて探して彷徨いてます!なんて言えないから、
「繁華街の治安の悪さを聞いて防犯に役立ちたいと思い、走り込みを繁華街でする事にしたんです。」
なんて答えたものだから株が上がっちゃって……。はぁ、困った。
さりげなく、幼馴染みが繁華街に住んでて心配なのもあって、と言い、ネオンの特徴を伝えるも、
「うーーん。派手な格好のΩの貴族令息かぁ。繁華街は派手なヤツばかりだからなぁ…。平民向けエリアにド派手なΩのピアニストが居るのは有名だが…。こう、半分青と菫色に染めた髪を垂らした…。」
「ああ、確かに。パッと思い付くのはアイツ位だよなぁ…。でも貴族は髪を染めないから、アイツは平民だろ。」
と、役に立つ情報は皆無だった。
はぁ、ネオン…何処に居るんだよ…。
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