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53: オキナ・タカサゴです。繁華街はドキドキしますね。
しおりを挟むはぁ、ネオンが今回も見つからなかった…。
その後も何件か悲鳴や叫び声に駆け付けた俺は、流石に今日はもう帰ろうと決意する。
「課題も溜まってるしな。又夜来よう…。」
気が付けばもう、すっかり朝で。
住宅街に溢れる朝食を作る匂いに空腹を思い出した俺は、手っ取り早く繁華街の一部を突っ切って帰る事にした。
丁度、貴族や富豪向けのエリアの中でも一、二を争う様な店が軒を並べる辺りを突っ切る形になり、客も従業員も居ない早朝の通りなのに俺はドキドキしながら歩いた。
「はぁ、凄い細工だな…。」
営業中は只管光り輝く宝石の塊みたいな店だが、朝の光の中、照明を落とした姿を見ても、どの店も惚れ惚れする様な店構えだ。細かいところまで拘って、素晴らしい装飾が施されている。
何時もは遠目にチラッと見る程度だったが、人気が無いのを良いことに少し近寄って、歩調を落としてまじまじと見物する。
それだけで、何だか大人になった様な、いけない事をしている背徳感の様な、何とも言えない高揚した気持ちになった。
と、そんな俺の鼻を懐かしい匂いが掠めた。
(これは…ネオンが使ってるΩ風香水!)
慌てて振り向いて出所を探れば、閑散とした通りの真ん中を、大きな毛皮のコートを揺らして悠々と歩いてくる色男が目に入った。
すらりとした長身、褐色の肌に緩くうねる黒髪、金のざっくりとした作りのネックレスに、肌寒い季節にも関わらず鎖骨を魅せるアッシュピンクのシャツ。
物凄く、イケメン。
物凄く、色男。
物凄く、見るからに、遊び人。
こんな見るからに遊び人な人を見るのは生まれて初めてで、思わず見惚れてしまった俺の横を、眠そうに欠伸を噛み殺しながら遊び人が上機嫌で通り過ぎていく。
(うっ!凄い酒臭い!そんでもってコートからネオン並みのΩ風香水の匂いが…!)
遊び人は何処からどう見ても上位のαで、凄く楽しんできたのだろうな、と伺える足取りだった。
きっと、振り向かせたくてΩ風香水を全身に振りかけた女とかが山程寄ってくるんだろうな。
そして、そんな女達を山程侍らせて、絢爛豪華な夜の世界を遊び尽くしたんだろうな……。
なんて、昔読んだ冒険譚のイケメン豪商の描写なんかを思い出して妄想逞しく遊び人の後ろ姿を見送る。
「あら、ジュリアじゃな~い♪ヤッホー☆」
「ヤダァ、今頃帰ってくるなんて、随分楽しんだみたいじゃな~い?」
と、そこに、絢爛豪華な店の一つから出てきた双子美女が親しげに遊び人に声をかけた。
「おー、お陰様で。ありがとうな♪……うりゃ!愛の御裾分けをしてやろう♪」
呼び止められた遊び人が美女二人纏めてヘッドロックをかける様に抱き締める。
流石遊び人!あんな美女をあんな雑に扱うなんて!
まるで親しいわんぱく坊主を構うガサツな衛兵みたいな態度の遊び人に、俺は痺れる様な気持ちになる。はゎゎ、俺とは別世界で生きる生物だ……。
「キャァァ♡ダメ!ダメよぉ、イケナイわジュリアァ…ダ、ダメ~ン♡♡ぁぁぁ……♡」
「キャァァ♡ダメよぉ!イっちゃう!イっちゃうからぁぁぁ~♡ふぇぁぁ……♡」
と、双子美女が、ジョークなのだろうが往来でとんでもない事を口走る。ヒェェェ…!往来なんだぞ!?流石繁華街!爛れている!不謹慎だ!とんでもない!!
俺は慌てて顔を背け、止まってた足を動かして家路を急ぐ。
「フフフ、良い夢見ろよ…♡」
なんて色男の言葉が俺にも突き刺さる。全く!ふしだらな夢を見たらどうしてくれるんだ!!破廉恥過ぎる!!
俺は真っ赤になってるだろう顔を隠すように俯き、唇を噛み締める。怪しまれない様に歩いてるが、次の角で通りを一本移動して走って帰ろうそうだそうしよう全速力だ。
(そういや、ネオンのΩ風香水って特注なのかと思ってたけど違ったんだな……。)
なんて、久々に嗅いだ匂いに少しだけ心癒される様な、でも、市販品と知ってガッカリする様な気持ちを味わいながら、俺は角を曲がって、全速力で駆け出した。
*ーーーーーーーーーー*
「ふぁ。…眠い」
欠伸を噛み殺しながら、だが、スキップでもしてしまいそうな足取りで俺、ジュリアは閑散とする繁華街を家に向かって歩いていた。
寒いな、と肩を竦めれば、ふわりとコートに染み込んだネオンのフェロモンが俺を眠りの国へと誘う。まるでずっとネオンを抱き締めてるみたいだ。
「あ、結局プレゼント渡しそびれたな……。」
不意にポケットの中の指先に固いものが当たり、俺はその存在を思い出した。……けど、まぁ良い。寝て、起きて、それからネオンに渡そう。デートに用意したのに渡しそびれたよって。
「あら、ジュリアじゃな~い♪ヤッホー☆」
ネオンの部屋に行く口実が一つ出来たとニマつく俺に声が掛かる。
「ヤダァ、今頃帰ってくるなんて、随分楽しんだみたいじゃな~い?」
良く行くキャバレー"ダンカン"のオーナーにして俺の友人、モリムラとナカジョだ。二人は典型的仕事中毒αの双子で、俺の貴重な相談相手。いつでも大抵起きてて、何でも知ってるし調べてくれる。
今回のデートにあの港町を薦めてくれたのもこの二人だ。
(又こんな時間まで仕事してたな?酷い隈作りやがって……そうだ、デートスポット教えてくれた礼をしてやろう♪)
「おー、お陰様で。ありがとうな♪……うりゃ!愛の御裾分けをしてやろう♪」
不意打ちじゃないと逃げるから、充分近付いて、ガバリと二人の頭を両脇に抱える様に抱き着く。喰らえ!たっぷりと染み込んだ超絶眠たいネオンが放つフェロモンだ!!
「キャァァ♡ダメ!ダメよぉ、イケナイわジュリアァ…(なんて癒しフェロモン!ダメよ!三徹なのよ!まだ仕事残ってるのよ!)ダ、ダメ~ン♡♡ぁぁぁ……♡」
「キャァァ♡(フェロモンがオフトゥンに誘ってくる!)ダメよぉ!(夢の国に)逝っちゃう!逝っちゃうからぁぁぁ~♡ふぇぁぁ……(い、意識が…)♡」
フフフどーだ、ネオンのフェロモンは匂いも量も最高だろう?
「フフフ、良い夢見ろよ…♡」
「「…………スヤァ」」
がくりと二人の膝から力が抜け、体重が腕に掛かったのを、俺はニンマリ笑って受け止めた。
何時もならネオンのフェロモンの残り香や移り香でさえ他人には嗅がせたくない派の俺だが、今日はとても気分が良いし、こいつらのお陰でもあるし、こいつらは性自認も性対象も女な超絶女好きなので許すとする。
それにしても見事な即堕ち♪秒で堕ちたよ、こいつら。
幾ら徹夜続きとはいえ……ホント、俺の恋人ってば最強フェロモンの持ち主だよなぁー♡♡
「「ありがとうございます、ジュリア様…。」」
「何、これくらい。お前らも今の内にしっかり休んどけよ。」
二人に付き合わされて働き詰めであろう側近達が双子を受け取りながら本当に嬉しそうに礼を言う。
そんな側近達に手を振って、俺は足取りもふわふわと家路を急いだ。
帰ったらこのコートを抱き締めてベッドにダイブしよう。と、それだけを考えて…。
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