親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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13: 手綱弛んで距離縮まる

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グリフィンから降りて邸に戻る頃にはラートンは今までの頬や額等の顔面や指先、手の甲へのキスに加えて唇へのキス、耳や首等にもキスを雨霰と降らせる様になっており、イオンウーウァはラートンの頬や背の届く脇腹や腕にシャツ越しにキスをし、時々唇へのキスをねだる様になっていた。

キスを自分からする程であれば……。とその様を目撃した使用人達は考えた。

((相思相愛のようだし、少し若様の手綱を弛めてもいいかもしれない……。))


だが、使用人一同が、私だけは若様を多めに見ても良いだろう。なんて思ったせいで、手綱はかなり弛む事となった。



「やっほー♡僕の可愛い奥さん♪まだ起きてるかい??」

「あら、ラー様、起きてるわ。どうしたの?」

夕食が終わり、アナ率いる精鋭メイド部隊に風呂で磨かれた後、種々の手入れをされたイオンウーウァがベッドに潜り込んで暫く、ラートンが窓からひょっこり顔を覗かせた。 

イオンウーウァが応えれば、筋肉達磨の巨体に似合わずスルリと侵入ってきたラートンが、音もなくベッド横に来て顎をベッドにぽてりと乗せた。

「今日。グリフィンに乗って楽しかったけど、疲れちゃったんじゃないかと思ってさ♪
どう?大丈夫?一応、旅の疲れが取れるまで待ってから誘ったんだけど…。」

いつもの大声とは違う、囁くような小声で話すラートンに、イオンウーウァは何だかドキドキする胸を押さえて、応えた。

「そうなの…。旅の疲れがあったの?私…。判んないけど、確かにちょっと疲れてる気もするわ。……この、ここの辺りが重ーい感じがするの、疲れてるって事よね??」

疲れるというのは沢山森の中を歩き回ったりした時など、直接的なものしか知らず、じっと座ってる事でも疲れるとは知らなかったイオンウーウァは、言われて初めて、あれは疲れていたのか、と思い至った。

そんなイオンウーウァを紫紺の瞳を蕩けさせて見詰めるラートンが、そっと、握ったイオンウーウァの手の甲を親指で撫でた。

「僕の可愛い番さん♡明日も元気に遊べるように、マッサージをしてあげようか…?」

「まっさーじ?」

「そう、ほら……こうやって、今日可愛い僕の番さんが使った筋や筋肉を揉むんだ……気持ち良くないかい?」

揉む……その言葉に、幼き日に疲れたという父の肩を母が笑いながら揉み、一度訪れた祖父の肩を叩いてあげた時の家族のコロコロとした楽しそうな笑い声が思い出され、イオンウーウァは嬉しさに頬を染めてこくりと頷いた。

「…気持ち良いわ。」

イオンウーウァがそう応えれば、ラートンの紫紺の瞳がじゅわりと蕩ける。

「今日は沢山遊んだからね…。いっぱい揉んであげる♡」

親指の付け根、掌、手の甲、腕の筋……ゆっくりと、揉みながら這い上がってくるラートンの熱くて、大きくて、太く逞しい指に、イオンウーウァは何だかドキドキしながら微笑んで目を閉じた。

「可愛い僕の奥さん♡キス、しても良いかい?」

肩と二の腕の繋ぎめを親指でゆっくりと揉みながらラートンが聞けば、けぶる様な深緑の睫毛から菫色の瞳がキラリと覗いてラートンを見詰め、少しの羞恥と悪戯心を宿し近付いた。

「………♡♡♡」

イオンウーウァからの口付けに舞い上がったラートンがガバリとそのままベッドに乗り込み、イオンウーウァをベッドに押し倒す。

「可愛い奥さん♡♡大好きっ♡大好きだよっ♡♡……反対の腕は、キスをしながらしても良い?」

チュッ♡チュッ♡チュ♡チューーッ!♡♡と激しく音を立ててイオンウーウァの反対の手の甲や指にキスをしながらラートンがねだれば、イオンウーウァがはにかみながら頷く。

そうして、ラートンは腕、足、腰に背中、白い首筋にデコルテとたっぷりとイオンウーウァに触れ、イオンウーウァはお返しにブラッシングして欲しいと言うラートンの要望通りに尻尾や髪の毛、胸毛や腕毛に至るまでブラッシングをして過ごした。

感極まったラートンがイオンウーウァの頬を舐めれば、くすぐったそうな声をあげて笑った後、イオンウーウァもラートンの頬を舐める。

「嬉しいな♪可愛い可愛い奥さんが僕にグルーミングしてくれるなんて♡嬉しいな♪幸せだな♪♪」

御機嫌なラートンが歌うように囁けば、イオンウーウァが深緑の頭を揺らして笑う。

(幸せとラー様は言うけど、本当に…本当に今、幸せだわ…。)

窓から差し込む月明かりと揺らぐランタンの灯りの中、ラートンの胸毛をブラッシングしたりみつあみにしてみたりしながら、イオンウーウァはそっとそんな事を考えた。




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