42 / 128
42: 才能
しおりを挟む「はーーっはっはっはっはっ!!」「きゃほーーーぅ!!」
ザザザザザザ……ザバーーンッ!ザザザザザザ……
「あああ……若様…ヒェェッ!!また波が来ますぞっ!ッーー!!」
エルゲン湾の港町から少し南下した遠浅の海岸線、その少し深くなった辺りの沖合いで、ラートンとイオンウーウァがシーサーペントの第一大漁丸に引っ張られた小舟に乗って大はしゃぎしていた。
小さな小舟にラートンが足を固定し、第一大漁丸が曳く縄を持って波間を滑走する。その逞しい腕の中に閉じ込められたイオンウーウァは上質の布で作った海女服を着て、上機嫌で諸手をあげていた。
後ろで一つに束ねた深緑の長い髪が、宙で翻る度に沖の船で見守ってるグーマがヒェェ……と、か細い悲鳴をあげる。
「いやいや、耐熱耐寒その他諸々エグい位に二人とも防御魔法掛けてるし、大丈夫ですって。」
「そうそう、かなりの勢いで海面に叩きつけられても露程にも痛まないし、絶対に溺れない様な付与まで付いてますから。絶対に沈まないし。」
背後で執事見習い二人が呆れ顔でグーマに声を掛けるが、グーマはひょええ、だの、うへっ!だのと騒いで全く聞く様子は無かった。
「キャーーー☆」「ああっ!ウーーァーー!」
一際大きな波が来て、ラートンとイオンウーウァを乗せた小舟が筒状になった波の中を滑り抜ける。
が、引っ張っていた第一大漁丸が波に負けて宙に放り出され、まっ逆さまに海面へと落ちてしまったせいで抜け切れず、ラートンが高々とふっ飛び、イオンウーウァは綱を掴んだまま小舟と共にひっくり返った。
「あれ??今若様が吹っ飛んだのに番様は耐えなかったか??」
「やっぱりそう見えたか??多分、若様は番様を道連れにしないように自分から手を離して飛んでったけど、その前、番様が若様が体重移動ミスった所をミスらなかったように見えたぞ!」
「おおー!番様は騎獣のセンスがお有りのようだな♪」
執事見習いの二人の会話に、後ろで作業をしていたサーペントの世話係も参加してカラカラと笑う。
そんな中、グーマだけが静かだった。
「………グーマ様?」「あっ……白目剥いてる…。」
「あー……グーマの兄さんはさ、昔っから肝っ玉の小ささが仕事の綿密さとか情報収集や分析の細密さとかー…えっと?慎重な判断とか?何かそーゆーのんに活かされるタイプの有能マンだからよぉ……。
この辺に寝かせとくか……。」
白目を剥いて静かに気絶してるグーマに執事見習い二人が驚いていると、グーマと旧知の仲らしきサーペントの世話係がポリポリと頬を掻きながらフォローの様な事を呟き、そっとグーマを抱えて休憩用の寝椅子に横たえた。
「キャッホッホーー☆」
「ハハハ!ウーァ凄い!一人でも乗れてる!僕の奥さんは才能に溢れ過ぎじゃない??サイッコーー!!」
一方、そんなグーマの様子など知らないイオンウーウァは立ち直った第一大漁丸が曳く綱をしっかり握り、小舟で波間を凄い勢いで疾走し、ラートンは波間をちゃぷちゃぷ漂いながら番の勇姿に称賛を送っていた。
「たーのしーー!!」
「意外とアクティブだよな、番様。」「最初の頃が嘘みたいだな…。」
波間をポンポンと弾むように滑るイオンウーウァを眺めながら、執事見習いは感慨深げに言い合うのだった。
16
あなたにおすすめの小説
何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。
自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。
彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。
そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。
大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…
番ではなくなった私たち
拝詩ルルー
恋愛
アンは薬屋の一人娘だ。ハスキー犬の獣人のラルフとは幼馴染で、彼がアンのことを番だと言って猛烈なアプローチをした結果、二人は晴れて恋人同士になった。
ラルフは恵まれた体躯と素晴らしい剣の腕前から、勇者パーティーにスカウトされ、魔王討伐の旅について行くことに。
──それから二年後。魔王は倒されたが、番の絆を失ってしまったラルフが街に戻って来た。
アンとラルフの恋の行方は……?
※全5話の短編です。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
『番』という存在
彗
恋愛
義母とその娘に虐げられているリアリーと狼獣人のカインが番として結ばれる物語。
*基本的に1日1話ずつの投稿です。
(カイン視点だけ2話投稿となります。)
書き終えているお話なのでブクマやしおりなどつけていただければ幸いです。
***2022.7.9 HOTランキング11位!!はじめての投稿でこんなにたくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです!ありがとうございます!
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
竜王の花嫁
桜月雪兎
恋愛
伯爵家の訳あり令嬢であるアリシア。
百年大戦終結時の盟約によりアリシアは隣国に嫁ぐことになった。
そこは竜王が治めると云う半獣人・亜人の住むドラグーン大国。
相手はその竜王であるルドワード。
二人の行く末は?
ドタバタ結婚騒動物語。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる