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55: 残念だよ。

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「ぁ……ありがとう。ちょっと髪の毛が絡んだだけなの……。大丈夫よ、ラァト…。」

ドア、壊れちゃったわ…。と呆然しながら、大丈夫というイオンウーウァの言葉に、ラートンがサッと手を魔法で清めてイオンウーウァの頭に張り付いた。

「何だって!?僕の可愛い番さんの可愛い髪の毛が絡んじゃったの!??」

大変じゃないか!と大袈裟に驚き、サッとモカの手からブラシを奪ったラートンに、モカはポカンとしたまま見つめる事しか出来なかった。

壊れたドアも、あんな小さな悲鳴を聞き付けて来た事も、髪の毛にまで可愛いと言った事も、色々モカには衝撃的過ぎたのだ。

ラートンがジリジリとそんなモカとイオンウーウァの間に体を捩じ込もうとしているのに気付いたシフォンが即座にモカを数歩下がらせ、血相を変えて謝った。

「す、スミマセン!若様…!イオンウーウァ様!私が不器用なばかりに…!」

(此処は私が謝ろう。モカもきっと悪気があった訳じゃない筈…!ちょっと面倒臭がりなのが出ただけで…。)

まるでシフォンが不器用なばかりにやってしまったと聞こえる謝罪は、生来嘘が苦手なシフォンの、精一杯の庇い立てだった。

だが、チラリ、とドレッサーの鏡越しに三人の顔色を窺ったラートンは、黙っておいた方が良いのかな?と考えてるだろうイオンウーウァ、必死に謝りつつモカが頭を下げないのを気にするシフォン、我に返ったものの、私悪くないもん…と言いたげなモカの様子を見て、大体を把握したようだった。

「ああ、此処だね!可哀想に…。悪いけど此処から先は僕がやる!任せてられない。全くもぅ、残念だよ。
あ、モカ、君はもういいから休んでいて。
シフォン……いいかい?こういう時は下の方からこうやって丁寧に梳かしていくんだ。ほら、綺麗に梳かせただろう?」

優しく梳かしながら言うラートンに、シフォンがコクコクと頷きメモを取りながら手元を真剣に見る。

「いいかい?イオンウーウァは僕の大切な大切な宝物みたいな人なんだ♡少し位時間がかかっても構わないから、丁寧さを優先させてね。」

手早く髪を編み込みながら言うラートンに、シフォンがへどもどしていると、君がやる時は只の三つ編みとかで構わないから、とフォローしてくれ、シフォンはコクコクと再び頷いた。

そうして髪を整え終えたイオンウーウァのバスローブ姿にラートンは今更ながら恥じらい、なるべく可愛いながらもシンプルな構造のドレスと、それにあったアクセサリーを数点選んだ後、魔法で壊したドアを直しながら出ていった。

その間、手持ち無沙汰に立っていたモカは、今日はもういいと言われたことを思い出し、ドレスを着せようと奮闘するシフォンを一瞥したものの、無言で退室した。

「ふぅ。ビックリしたぁ。でも、休んでって言われたし、私もお風呂でも入ろっと♪」

侍女用にと割り振られた部屋に戻ると、モカは鼻歌交じりで着替えのドレスを選び、ホテルの使用人に風呂の準備を頼んだ。




ーーーーー
ーーー



パタン、とドアの開閉音が聞こえ、書類仕事をしていたアンズは顔をあげた。

「若様、お帰りなさい。急に出ていかれるから何かと……。何かあったんですか?」

「可愛いイオンウーウァの痛がる声が聞こえたから、ちょっとね……。」

どうしたのかと聞いたアンズが、ラートンのその一言でスーーっと顔の色を失くしていく。

一気に重くなった部屋の空気を気にせず、ラートンは少し大きめの声で言った。




「バジル、居るかい?」


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