親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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76: そしてドラゴンを食べる。

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「うわぁ~~♡うわぁ~~♡♡僕の奥さん…うわぁ~~♡♡♡」

ちょっと失礼します、とラートンを追い出してイオンウーウァと専属メイドとなったアメリが馬車に乗り込み、中でゴソゴソゴトゴト…。

再び出てきたイオンウーウァにラートンは語彙力だとか威厳だとか、色々なものが飛んでいってしまったようだ。

綺麗だよ、とか、似合っているよ、とか、貴族の男性として美辞麗句を捧げるのがマナーなのだが、そんな言葉が何一つ出てこないのに、その態度は最大の賛辞だと周囲は微笑ましく思った。

実際、馬車で辛くない様にと着心地重視で仕立てられたドレスは、ウエスト部分の締め方、リボンの結び方、下に重ねたシフォンのパニエのせいで印象がガラリと変わっていた。

髪も短時間で見映えのする編み込みが施され、化粧もほんのり施して、その代わり映え様は、ラートン程ではないが皆一様に見惚れるほどだった。

「ラァト……恥ずかし……。」

そんなに見つめないで、とうっすら菫色に染められた爪が美しい手でイオンウーウァがラートンの目を塞ぐ。

その仕草が可愛くて、掌がすべすべと心地好くて。

イオンウーウァの両手の向こうでラートンがデッレデレの顔をしているのは一目瞭然だった。

アンズもバジルもグーマもシフォンも、商会の職員も、胃に直接蜂蜜を一瓶流し込まれたような面持ちでそんな二人のやり取りを眺める。

「うふふ、まぁまぁお二人…♡うふふっ♡」

専属メイドフィーバーとでも言おうか、アメリだけは一人ぴょんぴょんと嬉しそうに体を弾ませ、イチャつく番を眺めていた。


ーーーーー
ーーー


「わぁ、これがドラゴンステーキ……。」

目の前に出された切り株の様な肉塊にイオンウーウァは呆然と呟く。

何がステーキだ、これは最早焼けた巨大な肉塊だ。

数年前この店を訪れた人族のグルメ富豪がそう評した名物料理が、今、イオンウーウァの目の前に二つ鎮座していた。

「お待たせしました。ドラゴンステーキ二人前でございます。」

しゃなりしゃなりとした仕草で、中性的な給仕がどすこい!といった感じのステーキを二つ軽々とテーブルに置き、ヒラヒラと演技がかった動きで紹介してしゃなりしゃなりと去っていく。

大きなお皿に小さくきらびやかに盛り付けられた鴨料理でも運んできたかの様な給仕とドラゴンステーキのどすこい!じゅうじゅう…とした様相のちぐはぐさにイオンウーウァが呆然としている内に、ラートンはそれが当たり前の様にステーキを切り出した。

カリカリになった表面と、中のジューシーな部分。骨から削いだ部分。
なにやらおすすめの部位があるのか、ラートンはザクザクと肉を切り開きながら特定の部位をキコキコと細かく切り取っていく。

その職人の様な華麗な手捌きに見惚れながら、イオンウーウァは目の前に少しずつ抽出されたドラゴンステーキの細片にフォークを突き刺した。

「頂きます…♡」

ラートンがニコニコしながらどうぞ、と頷く。

一体ドラゴンのどの辺りのステーキのどの辺りの部位を食べているのかちょっと良く判らなかったが、旨味はあるものの、牛や豚というよりは鶏肉に近いようなあっさりとした味わいで、思ってたより食べやすい。

「……美味しいわ♪」

イオンウーウァが一口飲み込んでからそう言えば、ラートンは嬉しそうに尻尾を振った。

そうして、自分の分を食べ始めたラートンと一緒に、イオンウーウァはドラゴンステーキを堪能した。

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