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101: 三度見した事態。
しおりを挟む「………えっ???」
ソワソワする気持ちを抑え、イタチ系獣人達に挨拶を返しつつ、目を龍化させて良く見てみる。
穴が空いてボロボロの羽、傷だらけの身体。
四人とも酷い有り様だったが、体つきや、少しだけ体に残ってる衣類から、龍人貴族の子息だと察された。
(はぁ……これだから龍人は……。)
ボーファは溜め息をついてから、そっと手綱で愛しのドラゴン、レディマーガレットに指示をした。橋を渡りきったドラゴンが、トコトコと右折する。
「はーぁ…。龍人貴族の子息がこんなところでボロボロになってん原因なんて一つしか考えられないよなぁー……。」
ボーファの父を助けてくれた様に、イタチ系獣人は龍人に歯向かう数少ない種族だ。
しかも、他の種族と違って、他種族が困っていても口を、というか牙を出してくる。狼や熊、虎等、他の大型獣人達は自種族の事以外は我関せずなのに、だ。
それ故に、龍人達はイタチ系獣人に何かとちょっかいをかけてくるのだ。
(流通とか貿易とか、イタチ系獣人におんぶに抱っこのクセに…。)
だが、このまま放置するのも、同じ龍人として少し良心が痛んだ。
それに、このまま彼等が死んだりして、龍人貴族側からバドワイザ様に変な難癖をつけられても困る。おめでたい婚約にケチがついてしまう。
そうならないよう、同じ龍人の俺が尻拭いをしなければ……。
ブツブツとそんな言い訳を呟きながら、ボーファは川原を目指した。
ーーーーー
ーーー
ー
「おい、おい、……起きろ、大丈夫か??」
ぺちぺちと頬を叩かれ、アクァリズ・セイロンはふ、と冷たい水底に沈んでいた意識を浮上させた。
背中に当たるゴツゴツした石が温かく、ゆっくりとだが、意識がクリアになってくる。
少し動かすだけでギシギシ軋む、重たい体を何とか動かし、隣を見れば、従兄弟であるバイライト・セイロンとその向こうにロックウォータ・セイロンが見える。
「おいおーい、おきろー。」
ぺちぺちと彼等の頬を叩くのは龍人の様だが、身形からして平民だろうか……。菫の刺繍の服を着て、イタチの匂いをプンプンさせている。
そこまで考えて、アクァリズは、バドワイザの婚約式の事を思い出した。
温かい石のお陰で動くようになった上体をゆっくり起こす。
「はぁ……。」
見下ろして、ボロボロの身体に後悔がヒシヒシと押し寄せる。
起きろ、と頬をぺちぺちして回ってる龍人は少し濡れ、温かく丸い川原の石には川岸の大岩の横まで四本の色濃い濡れた筋がついていた。
(俺達、あそこに引っ掛かってたのか……。)
それを、見つけた龍人が助けてくれたのだろう。
魔力に溢れて元気な時は大丈夫なのだが、蛇や蜥蜴獣人達ほどではないにしてもドラゴンも変温動物、傷付いて弱った身体が落ちた川の冷たさに動けなくなってしまっていたのだ。
引っ張りあげて貰わなければ、あのまま何日も動けないまま衰弱死していたかもしれない。
「………っわ!」
そこまで考えてゾッとしたアクァリズを、いつの間にか戻ってきた龍人がゴロリと隣に転がす。
何をする、と怒りたい所だったが、接地してる腹からジワジワと熱が身体に巡り、アクァリズは黙って川原に張り付いた。
横を見れば、バイライト達もひっくり返されている。
その扱いはまるで焼いてる肉でもひっくり返すみたいだし、腹這いになってる四人はまるで日向ぼっこしてるイグアナだったが、
確かに、先程までのぬるくなった石の上に居るよりは新しい面に寝そべった方が温かくて回復が早かったので、アクァリズは静かに目を閉じた。
(あったかい……。)
「……ふぅ。」
龍人達をひっくり返したボーファが荷馬車に腰掛け、一服。
キセルを咥えて大きく息を吐く。
こっふこっふとご機嫌な音を出しながら、放牧中のレディマーガレットが近くの草を食んでいる。
眼下に寝そべる龍人四人はまるで日向ぼっこのイグアナか潰れた蛙の様にぺちゃりと平たくなって休んでいた。
(後三十分程寝かせてやってから移動しよう。)
見上げれば、青い空に白い雲が穏やかに流れている。
「まったく……変なもん拾っちまったなぁ……。」
良い天気の午前、ボーファのぼやきは静かに浮かんで消えた。
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