親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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104: 荷馬車はゴトゴト

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幸いか、イタチ達の計画通りか。
黒一色に見えた落下地点は川で、四人は一塊になって落ちた。

水が苦手なアポローロの為にも早く水から上がらねば、と、アクァリズは必死で三人を抱えて泳いだのを覚えているが、途中で流れに呑まれ、抵抗虚しく意識を失ったようだ。

そして、ボーファに助けられて今に至る。


ーーーーー
ーーー



「成る程な……。」

ボーファの呆れた声に、アクァリズは更に俯いた。

錯乱してブレスを吐こうとしたアポローロに攻撃するつもりはないといったが、そもそも、ブレスに怯えて逃げることを期待してる時点で、その行動は立派な攻撃である。
威力妨害とでも言うのだろうか……。

元来、龍とは傲慢で強欲で、直ぐに脅して略奪し、それに一切の罪悪感を感じない生き物だ。
なので、彼等は、この期に及んで、あわよくば略奪を狙った事に関しては一切悪いとは思っていなかった。
だが、手を出しちゃいけない相手に、酔っていたとはいえ、無謀に突っ込み、仲間を危険に晒したのはアクァリズにとって、とても許しがたい行為だった。

四人の中で一番冷静な判断が出来たであろうアクァリズが止めていればこんな事態にはならなかった…。

それと同時に、アポローロと途中で合流したのは本当に幸運だったとも思う。
彼一人で一気に町に突っ込んで、ブレスでも吐いていたら、確実に仕留められて居ただろうから。

(それだけは……本当に良かった。)

俯いて己の不甲斐なさと責任を噛み締めるアクァリズを、ボーファが冷ややかな目で見下ろす。
龍人や大型獣人達特有の、中小獣人に対する残酷な迄の見下し観は腹立たしかったが、仲間に対する気持ちの強さは、同じ龍人として共感出来た。

(いやいや、イタチ感覚で考えちゃダメだ。他種族の事なんか、兎や鼠だって気にしないんだから……。イタチ系が特別なだけだ…。)

軽く頭を振って、そう思い直したボーファは、龍人達に少しだけ優しくしてやることにした。

「ほら、一匙ずつだけ恵んでやるから口開けな。」

未だに身体が温まり切らずガタガタプルプルしてる四人に貴重なウルヴァリンの火炎酒を一匙ずつ飲ませてやり、荷馬車を整理して少しだけスペースを開けてやる。

「あんたらの家に連絡できそーなヤツん所まで後払いで運んでやるから乗りな。」


たった一匙だけでも、ポッと瞳に光が宿った龍の青年達が嬉しそうにボーファを見上げた。
龍ドラゴンも龍人も、無類の酒好きなのだ。

「いいか。火炎酒や荷物に手を付けたら放り出すからな!」

そういってボーファが荷物で埋まった御者席に座れば、アクァリズ達もいそいそと荷馬車に乗り込む。

ボーファがレディマーガレットに「少し重くなるがよろしく頼むよ」と声掛ければ、鈍重だが頑丈な彼女は全く重さの変化を感じてないようにのそのそと動きだした。


「いやー良い宴だったな!」「本当に!」「番様万歳!!」

街道に戻れば、イタチ系獣人達が口々に言い合いすれ違っていく。
勿論、ボーファもニコニコと言葉を交わし、時々、ウルヴァリン達と拳を合わせたりハイタッチしたりしていく。

そんな中、四人のボロボロ龍人は出来るだけ気配を消して荷馬車の片隅で小さくなっていた。

勿論、だからと言って気付かれない訳もなく、獣人達の視線を痛いほど感じたが、皆、なんとなく察したらしく、わざわざボーファや龍人達に問い質す者はいなかった。

青い空の下、のそのそノロノロと進む荷馬車の上で、四人は只管イタチ達の無言の視線に耐え、揺られ続けた。
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