親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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106: 宴は終わり、祭が近づく。

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「おっはよーー!!僕の可愛い奥さん!起きて!可愛い婚約者さん!!ウーーァーー♡♡♡」

「ふぁっ!?」

爆弾の様なテンションでラートンにベッドに飛び込まれ、イオンウーウァはバチリ!と目を醒ました。

「?????」

モソモソと揺れる布団と紫と黄緑の天蓋を見ながら状況を把握する。
布団からにょこりと現れたラートンに抱き締められ、キスの嵐を受けながら、ベッドで朝のおはよう攻撃を受けているのだとイオンウーウァが認識した頃には、彼女の見ていた夢の余韻など吹き飛んでしまっていた。

折角、甘く幸せな夢を見ていたのに、イオンウーウァはそれを反芻して幸せに微睡む事もなく、モシャモシャした金の髪と胸毛と尻尾で思考を埋め尽くされる。

でもまぁ、それも幸せかな、等と独り言ち、イオンウーウァがラートンの唇にそっと口づけすれば、ラートンの尻尾がブンブンと振れ、布団を全て床にはたき落とした。

何処までも二度寝を許さない姿勢のラートンに、イオンウーウァは眠い目を擦りつつ、起きる姿勢を見せる。

「ふふふ、僕の可愛い奥さん♡目を擦っちゃダメだよ、湯浴みの準備出来てるから、すぐに目が醒めるよ♪」

言うが早いかラートンにお姫様抱っこでバスルームに連れられ、イオンウーウァはそのラートンのふかふかした胸筋に額を擦り付けて過ぎ去る眠気の余韻を楽しんだ。

気候は少しずつ寒冷になっており、アメリがいそいそと用意するワンピースは少し暖かい、ふんわりした綿のドレスになっている。

アメリの指示でシフォンが調整した湯船も、最近少し温度を上げた。

季節は秋になろうとしており、国を挙げた行事、豊穣祭が近付いていた。


ーーーーー
ーーー



「豊穣祭!わたし!ぐぁんばりますね!!」

ふんこふんこと鼻息荒く決意を語るのはモカだ。

豊穣祭には、その年に成婚又は婚約した貴族の子女が参加する。
故に、同じく出席する身として、精一杯イオンウーウァとラートンを応援したい。そう考えたモカはやる気満々だった。
引きこもった結果、立体刺繍という技法を編み出したモカは今、己の承認欲求を正しく満たせる武器を手に入れ、すっかり自信とやる気に溢れた職人となっていた。

腹黒オコジョハーフの婚約者に正しく舵取りされた彼女は今、小さな工房を設立し、親族から数人の職人を養成しながら続々と商品を生産しており、今日は、豊穣祭用のドレスのお直しの為の、立体刺繍の納品に朝から鼻息荒くやってきたのだ。

「うーーん。秋らしくしたいけど、これだとこの菫達と色が合わないから、この葡萄の葉っぱとこの葡萄、あと、この秋の実、それと、これと、これと、これと……。うん、こーいう感じで纏めよう!だから、今選んだヤツを取り敢えず20パーツずつ作って来てくれるかな??後、代わりにこれとこれとこれを外そう。」

「なるほどなるほど!、了解ですー!ぐぁんばりますね!!」

ラートン様、と呼んでいたのが若様呼びになり、すっかり恋心の抜けたモカに、ラートンがどしどし注文を付けていく。

その様子を微笑ましく眺めながらシフォンは切っちゃいけない糸をうっかり切ってしまい、モカを絶叫させたのだった。

「あらあら、賑やかねぇ。」

「ほんとですねぇ。」

キャイキャイ騒ぐ一団の隣で、まったりとケーキとお茶を楽しみながら、イオンウーウァは伯爵夫人と一緒に作業を見守る。
ラートンとモカの熱量に付いていけなかったのだ。

だが、それを不満と思わずにまったり眺めるイオンウーウァに、我が領は今日も平和だなぁ、と伯爵は扉の隙間から覗きつつ、目を細めるのだった。







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