親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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118: 押してない。殴っただけだ。

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「おお…!アナグマが、龍人に、それも青龍のセイロンの嫡男に立ち向かってる…!」

「それどころか、龍人が殴ったのに気にしてないぞ…!」

「番様の方も人族なのに龍人に怒鳴り返して攻撃までしてるわ…!」

リュートが戸惑い、痛みに呻き、どんどん消えていく龍の威圧感。
自由になった獣人達は遠巻きながらも四人の様子を伺い、ひそひそさわさわと感嘆を洩らしあった。

「りゅーさまになにするのよ!フン!!」

マリローズが中庭に並んでいたテーブルから自分も銀のお盆を取り、イオンウーウァに投げつける。

その若干変則的なカーブを描きながら迫り来る刃の様なお盆をイオンウーウァは華麗に仰け反って回避し、ラートンが慌てた様に避ける。

「マリローズの番さま♡が私の大切なラァトを押したり襲ったりするからじゃない!」

「シャァァ!殴ったんだ!」

「ギャウウ!誰を殴るんだ!?僕の愛しいウーァを殴るつもりなら許さないぞ!!」

番さま♡と茶化してマリローズを煽るイオンウーウァにマリローズが猛牛の様に鼻息を荒くしていく。
その一方で、イオンウーウァも押したと言ったのにリュートが怒り、何故か話を曲解するラートンが更に牙を剥き出して怒る。

(殴ったんだ!の自己申告二回目…。)((ぅゎ痛そう…!))(また押したって言われてる…。)(よっぽど殴られたと思われないのが癪に障るんだな…)((凄い!バドワイザの番様、ガンガンセイロンの嫡男にも向かっていく!!凄い!!))(知らなかった…お盆って武器なのね。)(龍人が殴ったのに…押したって……アナグマが凄いのか筋肉が凄いのか……。)(バドワイザの番様、ふっくらした妖精さんみたいな見た目で結構辛口だなぁ…。)(キーキー怒ってても、手足が長くてスラッとしてるから、割と様になってるわ!……顔真っ赤だけど。)

そんな、何処かズレまくったまま展開バトルを進めていく四人を固唾を呑んで見守りながら、獣人達は思い思いの感想を抱いた。

「ええい、りゅーさまをよくも!!」

口調だけは可愛く、そして恐ろしく俊敏で滑らかな動きでマリローズがまたひとつお盆を手にしてイオンウーウァに向かう。
それを、華麗なバックステップで先程マリローズが投げたお盆を拾い構えたイオンウーウァが受けて立つ。

ギャリィィン!ガン!ガンガンガン!ガィン!ギャリィィッ……!

「おかしいな……レモン、銀のお盆というのは片手剣の一つだったか?」

「しっかりして、テル!騎士としてのプライドを粉々にしてくるレベルの動きだけど、只のキャットファイトケンカだよ!」

激しい鍔迫り合いの様なお盆対決に、ぐらりと目眩を感じながらラミテルが呟き、レモンドは慌てて婚約者を励ました。

(何かあればラートン様とイオンウーウァ様をお守りしなければ、なんて思っていたが、正直、加勢する隙がない…。かといって、本気を出せば怪我をさせてしまうかもだし…)

やっていることは子供のケンカの様に単調で大人げないのに、妙に動きが良くて見守るしか出来ないマリローズとイオンウーウァのキャットファイトに、レモンドは舌を巻きつつそっとラミテルの背中をさすった。



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