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誰も嵌めない結婚指輪。
しおりを挟む後でちょっと様子を聞いてみよう。
昼食会の後、シャルルゴールドはそう思ったにも関わらず忘れ去り、翌日、その知りたかった様子の方からシャルルゴールドの元へやってくる事になった。
「殿下、城下の宝石商が見つけました。買い取った商人は紋章に気付かなかったそうです。」
側近がコトリ、と執務机にシンプルな金の指輪を置き、シャルルゴールドは困惑しつつその穏やかな光沢を見つめた。
「……へぇ。誰のだい?」
何と言って良いのか判らなくて呟いたシャルルゴールドの言葉に、ハァ、と側近が溜め息を付き、何処から出したのか小箱をパカリと開けて隣に置いた。同じ金の指輪が鎮座している。
「誰のって、貴方の結婚指輪じゃないですか…。」
「結婚指輪………?…あっ。」
何せ執務の合間にやっつけで指示を出し、交換してから馬車で外すまでの短い時間しか嵌めてないし良く良く見たりもしなかったのだ。
シャルルゴールドはイオラとの結婚指輪など、すっかり忘れていた。
「でも、俺のはその箱に入ってたヤツだろ?何で二つある?」
「ですから、何故これが城下の宝石商に渡ったか、離宮を調べるべきだと思いませんか?」
苛苛と側近に言われ、シャルルゴールドは初めて異変に気付いた。
盗まれたのか、売り払ったのだと。
「そうだな、ちょっと調べてきてくれ。」
何でだろう、と首を捻る様に見せかけて首をパキパキ鳴らす王子に、側近は溜め息を吐きながら聞いた。
「まずは殿下からです。最後に王子妃を見た時、指輪をしていましたか?又、それはいつです?」
「……………。」
返答が返って来ない事に、側近は怪訝な顔をした後、その表情を信じられない、とばかりに歪めた。
「流石に、異国から単身嫁いできたのですから、食事くらいは共にしてください、とお願いしましたよね?敗戦国の人質とは言え、王女ですよ??」
「判ってるさ、ちょっと我が儘姫の出鼻を挫こうと思って暫くほったらかしてただけさ。そろそろ様子を見に行こうと思ってたんだ。」
側近の言葉にシャルルゴールドは言い訳するが、それでも側近に調べに行かせて自分は会いに行こうとしない様子に、側近は再び溜め息を吐いた。
そうして側近は離宮へ出向き、シャルルゴールドは執務を再開し、王子妃の事などすっかり頭から追い出した。
ーーーーー
ーーー
ー
一方の側近、サイド・ニーアは離宮で調査を開始して早々、王子の側近を辞めたくなった。
敗戦国から嫁いできた王女が、結婚して十日で忽然と行方を眩ましていたからである。
そもそも、離宮の使用人配属数がいつの間にか改竄され、侍女三人だけになっていた。
「あの我が儘王子め。じゃじゃ馬ならしのつもりか知らないが、どうするんだよ……。」
シャルルゴールドが改竄した犯人なのは明らかだった。
サイドは魔法で冷やしたハンカチを目元に被せ、頭の中を整理しつつ少しだけ休む。
結婚指輪が流失した理由はすぐに判明した。花と硝子珠。
侍女達はまさかこんなシンプルな物が結婚指輪だとは思わなかったらしく、見せてもさらりと答えた。結婚式翌日に頼まれました、と。
あの様子では、それは嘘では無いだろう。
その代わり、サイドが部屋を開けろと言うまで部屋がもぬけの殻だと知らなかったのが嘘なのは明白だった。
三人の侍女は下手な演技を繰り広げていたが、サイドが離宮にやってきた時から顔面蒼白で震えが止まらなかった。
だがあの様子では、そもそも彼女達も気付いたのは最近なのだろうとサイドは推測する。
(あの肝の小ささじゃ、秘匿に何日も耐えられない。大方二、三日前に気付いて、事の大きさに怖くなって報告出来なかった、とかだろう。)
それよりも、指輪の使い道が花と硝子珠だと言うのが問題だった。
それはつまり、逃走資金にしたわけではないのだ。
聞けば、王子妃は婚礼衣裳から一度も着替えていないらしい。
婚礼衣裳を纏った異国の姫君と大量の花と硝子珠。
こんな物が一体どうやって消えるのか……。
サイドは何度目か判らない長い長い溜め息を吐いた。
ーーーーー
ーーー
ー
二日後、侍女達に全部白状させ、運んできた花屋やメイド達の証言を洗っていたサイドはどんよりとした気持ちで溜め息を吐いた。
侍女達は茶会でも開きたいのかと思って、かなり大量の花と硝子珠を用意して離宮の前に荷車で放置させておいたらしい。
「花と硝子珠を用意しろ、としか仰りませんでしたので……。」
震える声で答えた侍女に、結局は己の首を絞めるのだから、ちゃんと仕事をしておけば良いものを、と思いつつサイドは報告書を作っていた。
離宮だけでなく、王城や隣接する王妃宮等全ての使用人に聞き込みをしたところ、荷車から花を取っている白っぽいドレスの女を見たというメイドが一人いた。昼下がり、掃除している王妃宮の一室の窓から見えたが特に変だとは思わなかったらしい。
まぁ、誰も婚礼衣裳のままフラフラしてる王子妃とは思わないだろう。
そんな感想を浮かべてサイドは一人へらりと皮肉っぽい笑みを浮かべた。
そして、翌朝、花屋が荷車が返って来ないので見に来て、空の荷車を回収していったらしい。
「つまりは、近辺にいるか、そこからどうやってか消えたという事だ……。」
嫌な予感をひしひし感じながら、サイドは近衛や騎士、兵達に捜索の指示を出そうとした。
だが、一足早く近衛騎士団の方から王子妃の行方に関しての報告が届き、サイドは吐きそうな程の胃痛を感じながらシャルルゴールドへと報告に向かった。
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