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ゴードウィン男爵
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マイコンに導かれたのは、大きなお屋敷であった。
「すごいな。正門、庭、柵、至る所に細やかな細工がされている。あの大きなお屋敷も豪華だ」
「ええ。男爵閣下はいつでも国内外の賓客を迎え入れることができるようにと、こうして財を投資しているのです」
感心する烈に、マイコンがにこやかに説明してくれる。その烈の脇腹を、ラングがこっそりと肘でつついた。何事かと振り向くと、ラングは小声で話しかけてきた。
(なんてこと言ってるが、こりゃ相当領民から搾取してるぜ?)
(そうなのか? この国の貴族はこれくらいするものなのかと)
(なわけねえだろ。たかが男爵だぜ? 一気にきな臭くなってきたな)
(どういうことだ?)
(ミアが俺らの想像している地位の人間だとするならよ、こんな風に私財をため込んでるやつが手放しで、民のために~って迎え入れるわけねえ。政争か何かに利用する気か、それとも......)
(ふ~む、まあまずは会ってみなきゃわからんだろ)
(それはそうだけどよ......そのまま囲まれてブスリなんて嫌だぜ? 俺は)
(まあ、ミアの動きを伺っておこう)
ラングはそんなもんかね、と頭をポリポリと掻いた。烈たちはマイコンに導かれるまま、お屋敷の庭を通り過ぎ、中に案内される。だが、中はさらにすごかった。
「ほわ~! 眩しいです!」
「なんとまあ。これは凄いやらなんとやら」
「目が痛くなってきたな」
ミアを除いた三人が口々に感想を発する。
「見ろ二人とも。あの壺なんか、売れば庶民が10年は食っていける代物だぞ?」
「持ってっちゃだめですよ? ラングさん」
「いかねえよ。第一旅の途中で目立ってしょうがねえ」
「毎日、山賊に襲われる人生かもな」
「いやだねえ。俺のモットーは平穏無事なのに」
二人と廊下の調度品について話しながらも、烈はちらりとミアの方を見た。こちらに背中を向けて、その様子をうかがい知ることはできないが、やはりどこか空気が冷たく感じた。
そうこうする内に、ひと際豪奢な、扉の前に着いた。マイコンがこんこんと扉をノックする。
「閣下。殿下をお連れしました」
すると、中から「入っていただけ」と声がする。マイコンが「失礼します」と一声かけ、扉を開け、ミアたちを中へ促す。彼らが中へ入ると、甲高い声が聞こえてきた。
「おお! 殿下! お迎えもせず申し訳ありません!」
目の前にいるのがゴードウィン男爵なのだろう。
(でっぷりと太った腹に、これまた豪奢な刺繍の服。確かに相当な贅沢をしているみたいだな)
恐らくミアも同じことを思っていたのだろうか。その声は平淡だった。
「久しぶりだな。男爵」
ゴードウィンはそれに気づいているのかわからないが、両手を広げて歓待の意を表した。
「ええ、ええ。お久しぶりですとも。殿下が出奔されてからというもの、我らが家臣一同血眼になって探しましたから」
「殺すためにか?」
ゴードウィンはぎょっとした。
「まさか!? かのにっくきペルセウスならともかく、私は違います!」
「そうか。すまなんだな。貴公がそれほどの国士とは知らなんだからな」
「無理もありません。私は殿下のように武術の才もなく、できることはありませんでしたから。しかし!!」
ゴードウィンがずずいっと詰め寄る。
「ペルセウスの専横を憂う気持ちは人一倍にございまする! 是非! 我が私兵をもって、殿下の軍団の末席に加えていただけますよう」
「助力感謝する。私も気持ちは同じだ。これからフライブルク砦へ向かう故、そなたも軍備を整えて、参陣してもらいたい」
「これから! いけませぬ! もう夜も遅いですし、御身に万が一のことがあれば、私はカイエン公爵を筆頭とした、国内の有力貴族たちに八つ裂きにされてしまいます! 恐れながら、わが軍とともに、フライブルク砦へ向かっていただけるのがいいかと」
「いや、兵は神速を貴ぶ。ここで歩みを止めれば機を逸す」
「ならばせめて一晩だけでも! 晩餐会をご用意していますので」
そこでミアは考え込んだ。そして顔をぱっと上げるとにっこりとほほ笑んだ。
「よかろう。ならば一晩だけそなたの厄介になる。部屋を用意してくれ」
「ええ、ええ、かしこまりました。お供の者たちの部屋はいかがされますか?」
ゴードウィン男爵はその時、初めて烈たちの存在に気付いたのだろうか、薄汚れた彼らの格好を見て、不快そうにしながらも、ミアにお伺いを立てていた。
「彼らは私の大事な仲間だ。彼らには私と同等の扱いをしてくれ」
「はあ、かしこまりました」
ゴードウィンのこちらを見る目は、一層嫌悪感に包まれていた。
「すごいな。正門、庭、柵、至る所に細やかな細工がされている。あの大きなお屋敷も豪華だ」
「ええ。男爵閣下はいつでも国内外の賓客を迎え入れることができるようにと、こうして財を投資しているのです」
感心する烈に、マイコンがにこやかに説明してくれる。その烈の脇腹を、ラングがこっそりと肘でつついた。何事かと振り向くと、ラングは小声で話しかけてきた。
(なんてこと言ってるが、こりゃ相当領民から搾取してるぜ?)
(そうなのか? この国の貴族はこれくらいするものなのかと)
(なわけねえだろ。たかが男爵だぜ? 一気にきな臭くなってきたな)
(どういうことだ?)
(ミアが俺らの想像している地位の人間だとするならよ、こんな風に私財をため込んでるやつが手放しで、民のために~って迎え入れるわけねえ。政争か何かに利用する気か、それとも......)
(ふ~む、まあまずは会ってみなきゃわからんだろ)
(それはそうだけどよ......そのまま囲まれてブスリなんて嫌だぜ? 俺は)
(まあ、ミアの動きを伺っておこう)
ラングはそんなもんかね、と頭をポリポリと掻いた。烈たちはマイコンに導かれるまま、お屋敷の庭を通り過ぎ、中に案内される。だが、中はさらにすごかった。
「ほわ~! 眩しいです!」
「なんとまあ。これは凄いやらなんとやら」
「目が痛くなってきたな」
ミアを除いた三人が口々に感想を発する。
「見ろ二人とも。あの壺なんか、売れば庶民が10年は食っていける代物だぞ?」
「持ってっちゃだめですよ? ラングさん」
「いかねえよ。第一旅の途中で目立ってしょうがねえ」
「毎日、山賊に襲われる人生かもな」
「いやだねえ。俺のモットーは平穏無事なのに」
二人と廊下の調度品について話しながらも、烈はちらりとミアの方を見た。こちらに背中を向けて、その様子をうかがい知ることはできないが、やはりどこか空気が冷たく感じた。
そうこうする内に、ひと際豪奢な、扉の前に着いた。マイコンがこんこんと扉をノックする。
「閣下。殿下をお連れしました」
すると、中から「入っていただけ」と声がする。マイコンが「失礼します」と一声かけ、扉を開け、ミアたちを中へ促す。彼らが中へ入ると、甲高い声が聞こえてきた。
「おお! 殿下! お迎えもせず申し訳ありません!」
目の前にいるのがゴードウィン男爵なのだろう。
(でっぷりと太った腹に、これまた豪奢な刺繍の服。確かに相当な贅沢をしているみたいだな)
恐らくミアも同じことを思っていたのだろうか。その声は平淡だった。
「久しぶりだな。男爵」
ゴードウィンはそれに気づいているのかわからないが、両手を広げて歓待の意を表した。
「ええ、ええ。お久しぶりですとも。殿下が出奔されてからというもの、我らが家臣一同血眼になって探しましたから」
「殺すためにか?」
ゴードウィンはぎょっとした。
「まさか!? かのにっくきペルセウスならともかく、私は違います!」
「そうか。すまなんだな。貴公がそれほどの国士とは知らなんだからな」
「無理もありません。私は殿下のように武術の才もなく、できることはありませんでしたから。しかし!!」
ゴードウィンがずずいっと詰め寄る。
「ペルセウスの専横を憂う気持ちは人一倍にございまする! 是非! 我が私兵をもって、殿下の軍団の末席に加えていただけますよう」
「助力感謝する。私も気持ちは同じだ。これからフライブルク砦へ向かう故、そなたも軍備を整えて、参陣してもらいたい」
「これから! いけませぬ! もう夜も遅いですし、御身に万が一のことがあれば、私はカイエン公爵を筆頭とした、国内の有力貴族たちに八つ裂きにされてしまいます! 恐れながら、わが軍とともに、フライブルク砦へ向かっていただけるのがいいかと」
「いや、兵は神速を貴ぶ。ここで歩みを止めれば機を逸す」
「ならばせめて一晩だけでも! 晩餐会をご用意していますので」
そこでミアは考え込んだ。そして顔をぱっと上げるとにっこりとほほ笑んだ。
「よかろう。ならば一晩だけそなたの厄介になる。部屋を用意してくれ」
「ええ、ええ、かしこまりました。お供の者たちの部屋はいかがされますか?」
ゴードウィン男爵はその時、初めて烈たちの存在に気付いたのだろうか、薄汚れた彼らの格好を見て、不快そうにしながらも、ミアにお伺いを立てていた。
「彼らは私の大事な仲間だ。彼らには私と同等の扱いをしてくれ」
「はあ、かしこまりました」
ゴードウィンのこちらを見る目は、一層嫌悪感に包まれていた。
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