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参戦の理由

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 バウワーを討ち取ったミアたちは、ブレマンの街へ帰った。そこではさほど大規模ではないが祝勝会の用意がされていた。

 夜ではあったが篝火かがりびが用意され、まるで昼間のかのように街の中央を照らしていた。さらにその中心でミアがグラスを掲げて立っていた。

 ブレマンの街の住民も、戦に従軍した雷迅衆も、烈たちもみな彼女の言葉を待っていた。

「みんな! 聞いてくれ!」

 すべての視線が一気にミアに集まった。

「此度の戦、カイエン公爵とミントレア子爵、そして雷迅衆の武威を見せつけることのできた戦となった。まずは協力をしてくれたことへの礼を言いたい!」

 街の住人たちが俄かに活気づいた。王族に礼をもらうというのはやはり彼らにとっても誇り高きことなのだ。ミアはその様子を見てつづけた。

「だが、これは始まりに過ぎない。ペルセウスの専横はまだ続いている。諸君らにはさらなる武の証明を期待している」

「......」

 住民たちは無言だった。これから来る大戦に向けて力を溜めるかのようであった。

 それを見てミアはにっこりと笑った。

「だが! 今日はそれをすべて忘れて飲もう! そして明日からの活力としよう! 雷迅衆に栄光あれ!」

 そういってミアは盃を掲げた。その場にいたみんなも合わせて手にした盃をミアに掲げる。

「ミネビア殿下に栄光あれ!」

 ブレマンの街の住民は元々上下関係など気にしない気風である。ゆえに次々にミアに乾杯を求めてきた。中には自分の子供を抱き上げてくれとお願いする者もあらわれた。その一人一人に丁寧にミアは対応していた。

 その様子を背後でひっそりと、カイエン公爵とミントレア子爵は見ていた。二人は秘蔵の酒を蔵から出して、ちびちびとやりあっていた。

「すっかり王族になりましたね。殿下は」

「まあ昔から才気はあったがな」

 ミントレア子爵は酒を注ぎながら、カイエン公爵に笑いかけた。

「そんなことありませんよ。あなたの元に修行に来た時などそれは可愛らしいお嬢様だった。少しやんちゃではありましたがね」

「少しで済むか。奥義書を盗んで勝手に会得するわ、俺の剣を盗んで山賊退治に出かけるわ、隣であたふたしているアイネの方がよっぽどお姫様だったわ」

「ありましたね。そんなこと。珍しく戸惑うあなたを見るのは、私たちにとって中々胸がすく思いでした」

「おい......」

 流石に憮然とするカイエン公爵にミントレア子爵はふふっと笑う。

「これは失敬。ですが今回の戦、あなたが参戦を決めたのはやはり意外でした」

「ん? そうか?」

「ええ、現陛下も先王の息子には変わりありませんからね。まさかどっちかの陣営に味方するとは思いもよりませんでした」

 カイエン公爵は幾許か思案した後、酒をぐっと飲み干した。そして普段の飄々とした顔から、真面目な顔へと表情を変えた。

「春先にな......幾人か刺客が来たので返り討ちにした」

「なんですと? そのような話聞いておりませぬが?」

「まあ、別にいうほどのことでもなかったからな。ただ狙いは明らかにアイネだった」

「なんと......もしや刺客の主は......」

「ああ、ペルセウス本人ではなかったが、その子分のガウマン伯爵というものだった」

「なれば、ペルセウス本人が知らないということはないでしょうね」

「子分の独断の可能性もあるがな。だが気づかぬ男ではない。それがなぜアイネを狙ったのか......俺を協力させるためであれば浅はかな策であるが......」

「彼の者にしてそれはないと?」

「ああ、そんなことをすれば俺に復讐されるのは目に見えてるからな。どちらかと言えば俺の参戦を目的としていたとしか思えない」

「だから、その真意を探るために参戦したと?」

「いや?」

 カイエン公爵はにやっと凶悪な笑みを浮かべた。

「先王の頃、数々の策を授けて軍を勝利に導いた『氷焔』と合法的にやり合える機会が来たんだ。策に乗ってやらなきゃいけねえだろ?」

 ミントレア子爵は唖然とした。それからはあっとため息をついた。

「あなた、本当に若いころから変わりありませんね。愛弟子も娘も無視で頭の中は戦ですか」

「完全に無視しているわけじゃないぞ? だからミアの陣営で参戦することにしたんだ。それがなきゃ一人でやってる」

「はいはい。もう好きにしてください。我々は付いていくだけなので」

「おう! 助かるぜ。まあ......」

 不意に言葉を切ったカイエン公爵をミントレア子爵は不思議そうに見た。

「なんです?」

「いや、それだけが理由じゃねえんだけどな」

 そう言って、カイエン公爵はすっと目を細めた。視線の先には遠くでラングたちと飲む烈がいた。
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