454 / 557
第六章
普段通りじゃない朝食
私は重い足取りで寮の食堂へ。十分早い時間なのに、もう皆さんは勢ぞろいしていた。
「おはようございます……」
私は及び腰になりながらも挨拶をする。一斉に私に視線が集中する……ひいっ!
私に集まる視線。すごく時間が長く感じられた。どうも値踏みされている気がして。いいえ、気のせいとかじゃない。私は実際に彼女たちから観察されているんだ。
「……うん、おはよ」
「……おはよー」
返された挨拶。彼女たちは私への興味は失せていたのか、それだけだった。
「……」
私も私で自分を見てみた。気合の入った彼女たちとは違う、普段通りの私。彼女たちにとっての私。相手になることはない、まさにそういった感じだった。
ああ、目の前で繰り広げられるは……超絶なマウントの取り合い。探り合い。いかに出し抜くか。
「あ」
あと、アサイーボウルの争奪戦。笑顔で押しのけ合っている。今、品切れになってしまった。こっちの世界のもの、食べてみたかったな。明日もあるといいな。一点集中でいこう。
そそくさと今日の朝食をトレイに乗せていく。なんだろ、随分とヘルシー寄りな内容ばかり。聞こえてきたのは料理人さんたちの話し声。なんでも沢山のリクエストだったとか。
「……」
食堂内はもうね、ギスギスし過ぎていた。笑顔を保ち続けていたままなのが、怖いくらい。
私、もう部屋に戻っていいかな? ……いいよね? 私にはこの雰囲気は耐えられないし、どうにかするとかも――。
「――おはよう、みんな!」
食堂に高らかに響いた声。声の主は――女子寮の寮長さんだった。
私は期待した。常に律している彼女。男女は慎みあるべきだと、そんなスタンスの彼女。彼女なら、このギスギスをどうにかしてくれるはずと――。
「……?」
私は寮長さんの姿を見た。彼女の姿はというと。
まず、いつもの丸眼鏡が外されていた。そのことによって、ぱっちりとした目元が明らかとなる。ショートカットでボーイッシュな印象だったけれど、今は違う。
凝ったヘアアレンジもしていた。顔もメイクしているようで、唇もつやつやとしている。
「「「せ、戦闘力が高い……」」」
女子の皆さんの声が揃う。戦闘力という言葉で表わされること。彼女たちが素直になるほど、賞賛されるルックスということだった。
「や、やめてくれないか……照れてしまうよ……」
「「「……」」」
自身の頬に両手を添える。その恥じらいっぷりがなんとも愛らしくて。うん、可愛い。推せる。私は真顔になったし、あちこちから『ぐぬぬ』といった声がしている。
「……ふう。ほら、皆! 学校も始まってしまうよ。休みの気分もここらで抜いておかないと!」
手をパンパンと叩いた彼女、寮生の皆さんも朝食を食べ始める。言動はいつもの寮長さん、だった。彼女は根っこは変わってない……でいいのかな?
っと、ジロジロ見るのはよくないよね。私は自分の部屋に――。
「――シャーロット君? こちらで食べないのかい?」
「!」
こそこそと逃げようとした私。寮長さんに呼び止められてしまった。
「……ええと、そうですね?」
私はひとまず振り返ることにした。返事は正直、考えあぐねいていたともいうか。せっかくのお誘いでもあって――。
「……ああ、君はそうだね」
「……寮長さん?」
寮長さんはどうしたの? 私の全身を見渡すような視線を向けてきた。それは……私の気のせいでも思い違いでもない。それは。
「……着飾らなくても。そのままで――綺麗だよね」
「あの……」
「……羨ましいよ。そんなにも容姿に恵まれて」
容姿を誉めている……? といっても、目は笑ってはいなかった。射すくめられるような眼差し――呑まれそう。
「……寮長さん」
私は彼女をじっと見た。今まで……いつだって。私にも朗らかにも接してくださって。それこそ慣れなかった頃からもだった。人見知りする私でも、打ち解けやすい方。
……今のあなたは。
「なんだい、シャーロット君……ううっ」
「っ!?」
寮長さんは頭を抱えだした。頭痛でも襲ってきたのかと、私は心配になったけれど。
「……なんだったんだ、今のは。ああ、シャーロット君は自分の部屋で食べるんだ。それじゃあね」
「は、はい……」
あくまで一瞬のことだった。寮長さんはケロっとしていたから。私は会釈をして、食堂をあとにすることにした。
「……ふう」
部屋に小机に食事を並べ、私は手を合わせて食べ始める。
「ぐーぐー」
「リッカ……」
いつの間にベッドの上に移動していたのかな。彼は睡眠を続行していた。さらに鼻がぴくぴくしていた。朝食の匂いに反応しているのかも。
「ふふ……」
気持ちが和んだ。いつまでも見ていたいけれど、早く食べてしまわないと。
「……いつもなら、楽しい時間だったのに」
私、いつもの女子寮の雰囲気が好きだったの。みんなで楽しく、かといって一人でいたい時もあるから。それを強制するとかもなくて。ほんわかとした空気感、中心だったのは女子寮長さんだった。明るく、そして気を配っていたのだと思う。
「ほんと、唐突過ぎるんだ……」
昨日がそう――一月下旬、三連休の最終日だった。最後の休みの日ってことで、女子寮入りしたんだよね。私はお土産話で盛り上がると思っていたのに――。
「……ごちそうさまでした」
朝ごはんも食べたし、あとは最終準備にもとりかかって。
出かけていない寮生、多分ね、私くらいだと思うから。皆さん――もう出ていると思う。『そんな話』も聞こえてきていたし。
食堂に食器類を戻しに行って、それから出発をしよう。私は快眠ワンコにこっそりと挨拶をする。
いってくるね、リッカ。
あなたにおすすめの小説
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
男女の友人関係は成立する?……無理です。
しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。
ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。
ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。
それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。
その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした
影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。
若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。
そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。
……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。