春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第六章

二人の幼馴染



「――大丈夫、大丈夫。あのシャーロットなら、落ちてない。落ちてないって……あのツンの極みのあの子なら……!」
「……」

 モルゲン先生の授業も無事終え、今は休憩時間。そんなひと時、教室の入口からただならぬ気配がしていた。うん……アルトだ。
 シャーロット・ジェムの幼馴染であり、心配性でもある彼。アルト・モルゲンはモルゲン先生の弟でもあった。それにしても一向にこちらに来ないね? 人のことツンの極みとかまで……。

「……あのさ、シャーリーちゃん? 彼、そのままでいいの? なんか泣きそうになってない、あの子?」
「それはまあ……うん」

 私の隣の席から、同情するかのような声がした。ロルフ・ヴァールザーガー君。私がツンの極みというのなら、彼は陽気の極みともいうのかな? 誰にでも明るく優しく接する彼は、人気者だった。クラスどころか、学園中にも好かれていそう。

 ロルフ君でもあり――前世、前世でいいんだよね? 彼は冬花の方の幼馴染でもあった。日向ちゃん、性格は変わらずっていったところかな?

「うん、行ってくるね? それじゃ」
「うん、いってらー」

 私たちは互いに手を振った。私は席を立ち、教室の入口へ。ロルフ君の方は、友人と話していた。

「?」

 それにしても、ロルフ君? 結構ご機嫌な気がした。

『――ずっと、こうしていたくない?』
『それはやっぱりさ? もっと願って……望んで。オレのこと』

 かつての日々の中、私は『彼』に言われたことがあった。明るい彼が見せてきた、影の部分。
 ……ロルフ君として? それとも日向ちゃんとして? それはわからない。私は真意を問えないままだった。
 うん、いつかは話さないとだよね……。

「……ぐぬぬ、俺、見せつけられてる? これが現実か……」
「いやいや、アルト?」

 とりあえず、あらゆる誤解をしている子をどうにかしないと。

「ロルフ君とは普通に手を振っただけ」
「普通にとか羨ましい! なら、俺にも手を振って!」

 ……普通でいいのかな? 私は手を振ってみた。

「ファンサ、きた! ありがとう!」
「うん、良かったね……?」

 何が良かったか、自分でもわからなかった……。とはいえ、これでアルトの気分が浮上してくれたのなら。

「……でさ? フーゴさんにはデレたりしてないよね? 俺がいるというのに……あの人、ぽっと出だというのにぃ……!」

 気分は浮上してくれなかったようだ。切羽つまった様子で、私に問い詰めてくるという。いや、『俺がいる』とか、『ぽっと出』とか気になりはするけれど。

「……フーゴさん?」

 アルトが珍しい。彼、基本はファミリーネームの方で呼ぶのに。あと、君も結構ツン成分があるような……?

「……あー、うん。ギルドのクエストでさ、一緒に組んだこともあって。結構助けられてさ。神タイミングで回復してくれたり、フォローも上手くてさ。まあ……悪い人じゃないともいうか」
「ほうほう」

 あの人、回復ポジだったんだ。体格的にゴリゴリの前衛かと思っていたから。でもね、その方がしっくりとくるって、私は何故かそう思えていた。

「ふふ」

 それにね、私は微笑ましい気持ちになった。アルトがこうやって誰かを慕っているの、それも表面的でもないようで。こっちまで嬉しい気持ちになってくるというか。

「ニコニコしてるぅ……かわええ……えへへ」
「あはは?」

 アルトも笑顔になっていた。うん、平和だね? これでアルトのメンタルもどうにか――。

「……まあ、そういう人だから! だから、君が落ちないかって心配なわけで! 万が一、あの人のこと、君が、す、す、す……ああ!」

 アルトは両手で頭を抱えだした。『好き』という言葉を発するの、心と体が拒絶しているようだった。まあ、『デレた』とか『落ちた』でも充分に伝わるけれど……。

「……あのさ、ちょっと声抑えてなー?」

 ロルフ君がやってきた。気になったんだよね……声、大きいものね。

「ごめんね? ほら、アルトも。自分の教室に戻ろう? ね?」

 そろそろ次の授業も始まる。

「……うう、わかった。あ、これ渡しておくね?」
「これって、本?」

 アルトが袋に入った何かを渡してきた。私は直感で答えた。数冊入っているっぽい。

「さすシャ! 図書室で借りてみたけど、面白かったから。続きも待てなくて買ってみたんだ。『幼馴染』のラブストーリーもの。君も気に入ると思うから」
「そうなの?」

 アルトが……図書室。そして『幼馴染もの』。色々と気になりはするけれど、貸してくれるってことかな?

「そうそう。でね、プレゼント――」
「え」
「……わかってるって。貸すから、貸すだけ。感想ちょうだい? いつでもいいから」
「そっか。ありがとう、アルト」
「いいって、いいってー。他にもあるからさ――」

 アルトは笑顔全開だった。うん、新たな本との出会い、君と語るのも楽しそう。私は楽しみが増えた。

「えー……なんで? シャーリーちゃんが読んだ読んでない、わかんの?」

 ロルフ君が口にしていた。それは、うん……アルトだからとしか。

「俺レベルだとね、わかるから」

 ……うん。

「……へーえ。つか、キリなくね? ほら、弟クン、戻った戻った」

 ロルフ君は適当に切り上げたのか、いつまでもいようとするアルトを押し出そうとする。

「そうそう、戻った方がいいよ?」

 今度はね、君のクラスにやってくるでしょう? ……モルゲン先生が。もっとも、アルトは気にしてなさそうだけど……欠席上等でしょうけど。

「まあ……君から頼まれたわけで。渡せるものも渡せたし、とりあえず現状も確認できたわけで」
「うんうん」

 アルトは納得の流れにいきそうだった。この調子、この調子……!

「――それにね、君が誰を想おうと。ちょっと寄り道しようとね。最終的には、こっちに来てくれればいい」
「え……」

 アルトの目が一瞬――赤く光った気がした。それは気のせいと思えるほど、本当にわずかなことだったけど。

「本当にさ、本を読んで改めて確信したから! だからさ、ぜひぜひ読んで読んで! 幼馴染最高! 最後に幼馴染は勝つって!」
「あ……」

 勝ち誇るように告げると、アルトは颯爽と去っていった。嵐のようだった……。

「……私たちも席に着こうか」

 呆気にとられたままだった。さあ、次の授業の準備もしないとね。

「……ロルフ君?」

 ロルフ君は、アルトが走っていった方を見ていた。さっきみたく呆れた表情でもしているかと思ったけれど。

「いいこというじゃん? ――最後は幼馴染、ねぇ?」

 そこにあるのは、不敵な笑みだった。どこか意味深とも思えるもので――。

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