春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第六章

久々のカイゼリン様



 昼休みに入って、私は食堂に向かおうとした。そうだ、早めに食べて借りた本読もうかな? それじゃ――。

「――ジェム様。突然で恐縮ではございますが、ご予定はございますか?」
「リヒターさん?」

 私を呼び止めてきたのは、リヒターさん。ちょうど教室を出るタイミングだった。

 私のクラスメイトでもあるリヒターさん。同学年だろうと、それこそ下級生だろうと、ワンコだろうと。彼は態度を崩さない。どこまでも敬語なんだ。そして、様呼びなのもそう。

「誠に突然ではございますが、我が主があなたに興味を持ち始めまして。話をしてみたいと」
「そっか、カイゼリン様が」

 私は整理してみた。そうだね、カイゼリン様と活動していたのは、十二月のこと。でも、今って『そうしなかった』から。彼女にご挨拶にもいかなかった、その延長線になるんだよね。そっかそっか、初対面になるんだ。

「さようでございます」

 カイゼリン様は彼の主。財閥令嬢を支えてもいて、学園の自治組織も共に活動している。私は二人に特別な絆があると思っている。まあ、その……色々あったりもしたけれど、やっぱりね? リヒターさんにとっての大切は――。

「……」
 リヒターさんからの視線が痛い。この、咎めるような視線は?

「……ええ、そういう方ですから。ジェム様という方は」
「え」

 何がそういう方なんだろう……というか、また私の心、読んだりしてない? してないよね?

「いえ、失礼いたしました。主にも結果を伝えなくてはなりませんから。途中、教室に寄ってもよろしいでしょうか?」
「もちろん」

 楽しみになってきた。私は彼女のことを好いている。リッカのことも可愛がってくれている。
 ……ただね? カイゼリン様までも『そうだったら』どうしよう。彼女まで――フーゴさんに夢中になっていたりしていたら。





 ――その心配は杞憂に終わった。

「――それで、それでね? ……貴女のワンちゃん、いつも可愛らしいなって。早朝のお散歩も遠巻きに眺めておりましたのよ?」

 私たちは食堂のテラス席、囲うように食事をしていた。感慨深いものはあった。あの慌ただしかった時間、リヒターさんと一緒に立っていたというのに。今はこうして共に食べられるの。

「ああ、名はリッカちゃん、でしたわね? とても愛らしくて、しかも賢そうな子でありませんか! そうね、去年の話になるわね? わたくし、あの子に落とし物を届けてもらったこと、ありましたの」
「そうだったんですか……!」

 もう、リッカ! なんて偉いことをしていたの! 言ってくれればいいのに、高速ナデナデしたのに! 帰ったらそれとなく訊いてみようかな!

 こうやって、私たちはリッカの話ばかりだった。リヒターさんは聞き役に徹していた。

 私は胸をなでおろした。フーゴさんの『フー』の字も出てこない。愛らしいワンコのことを語り合う、平和な空間といえた。このまま、穏やかに昼も終えられそう。そう、私が安心しきっていたところで。

「――不躾な質問、お許しくださいませ。お二方はフーゴ様のことをどう思われていますか?」
「!?」

 そうはさせてくれないのが、リヒターさん。ぶ、ぶちこんできた……!

「まあ、リヒター? 突然フーゴさんのことを話したりして? あなた、どうなさったの?」

 カイゼリン様はぽかんとしていた。そう、そうだよね……皆が皆、そうわけではないよね? カイゼリン様、何も心当たりがないようなお顔もされていて。

「……?」

 それはそれで、疑問にもなるというか。この、なにも影響されてない感じが……カイゼリン様が不可思議であると思えてしまう。

「……いえ、大変失礼いたしました」

 リヒターさんも何もなかったかのように、そう振舞ってはいる。それでも、気にはなっているようだった。その上で。

「懸想されているようでしたら、こちらも入念に下調べをしなければなりませんから。我が主のお相手ともなりますと、慎重に動きませんと」
「ま、リヒターったら! 昨日今日、いらした相手ではありませんの? とはいえね、突然恋に落ちるのもあり得ること。ふふ、素敵ではありますわね?」

 主のために動こうとするリヒターさんに、楽しそうにしているカイゼリン様。ああ、尊い……久々に浴びた。

「ふふ、リヒター? あなたが気になるのは、わたくしではなくて? ねえ、シャーロットさん? 貴女はどうなのかしら?」
「!?!?」

 カイゼリン様は『代わって訊いてあげた』と得意そうだった。リヒターさんは、そう、無表情だ。私は、彼みたく読心術はないから……。

「あはは、カイゼリン様ったら。あなたが仰る通り、来たばっかの人ですよ? 私もよくわかってはいないですし」
「突然、恋に落ちるとも。そうとも仰っていましたね」
「……リヒターさん? ぶっこみ過ぎじゃないかな?」

 私がカイゼリン様のお言葉をお借りすると、彼までそうしてきた。

「……私にも理解できるものですから。突然の出会いとはいえ――惹かれることは」
「……」

 リヒターさんが私を見つめてくる。カイゼリン様は『まあ……』と固唾をのんで見守っていた。テラス席の人たちも、同様に見守っていて――。

「……失礼いたしました。正直なところ、お相手として申し分ないところです。聖なる立場の方であられます。血統、家柄からして。あなたに相応しい方ともいえましょう」

 リヒターさんはカイゼリン様に向き直った。つらつらと申し立ててもいる。すごい、すでに動いていたんだ。
 聖なる方、か。私は『聖女』のイメージが浮かんだ。なんとなく。

「ま、仕事が早いのね、リヒターったら!」
「光栄でございます」

 カイゼリン様はひたすら感心していた。リヒターさんも恭しく返す。

「ときにリヒター? そちらの殿方は、食堂にはいらっしゃらないようね? わたくし、お話してみたかったのに」
「ええ、本日は庭園でお食事をとられているようです。多くのご婦人方に囲まれているようですね」
「ま!」

 リヒターさん、そちらまで調べているようだった。いつの間に……?


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