春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第六章

図書室ツアー


「……」

 以前。前から。エミルさんもそうだ。彼もここ最近になって、繰り返しの日々の記憶を有するようになった。
 色々なこと――それもそう。因縁の相手で、敵対していた関係。
 ――私の命を奪ってきた死神、かつてはそうだった。

 彼に力を与えていたのは、獣人族によって造られた女神像……いいえ、そこはなんというか。  
 百合の花を象った『拡声器』、それがそうだったんだよね?
 エミルさんたちにとって大事だった、女神像。それは破壊されてしまった。そう、破棄したのは――。

「うっ……」

 頭がぼやける。伴うように、頭痛もする……思い出したい、なのに思い出せない。私、前のループでエミルさんと一緒に訪れた場所、そこまでは覚えているのに……!

「……シャーロット?」

 突然苦しみ出した私に驚きつつ、エミルさんは立ち上がる。労わるように触れようとする。

「だ、大丈夫。大丈夫だから……」

 痛みは長くは続かなかった。だから私は安心させたくて、そう伝えた。

「……あ、ごめんね」

 エミルさんはそれがわかると、伸ばしかけた手を下ろした。それから、気まずそうに目をそらしている。

「……エミルさん」

 私たちは――共に生きられない関係だった。命を奪われる者、奪う者の関係だったから。

 今は違う、違うけれど。
 エミルさんに罪の意識は残ったまま。私たちは普通に話せるようになった。協力関係になったとしても、それは残り続けるんだ。

 私だってそう。新たな関係を築けるようになったとしてもね、されたことの記憶は消えてくれない。恨みも完全に無くなったわけでもない。割りきれない。私一人が苦しんだわけでもないから。

 それでも。

「……そうだ、エミルさん。おすすめの絵本、あるかな? リッカがね、もっと読みたいって」

 思いは消えたわけではないけれど――共に生きられること、それを望んだのは確かだった。

「……あ。うん、そうだね。人もいないことだし、本巡りツアーでもしようか?」
「いいんですか?」
「もちろん。僕もすることがなくて、本当に暇していたから」
「ありがとうございます。絵本もだし、他にも興味のあるのもたくさんあって」

 エミルさんは素敵な提案をしてくれた。私もそれならと、素直にお願いすることにした。

「うん、僕もお薦めしたいのがあるんだ。それこそ、幼馴染ものとか? 僕、負けてられなくてね?」
「あ、ああー……なるほど?」

 負けてられないって、本好きだからこそかな。うん、なるほど。



 エミルさん、さすがというか。本のソムリエとでもいうのかな? 私が気になっていた本や、逆に縁のなかったジャンルまでお薦めしてきた。きっと気に入ると、彼は念押ししてくる。

「あとね、リッカ様? あの方は充分に理解なさっているから。絵本に限らず、もっと難しい本でもいいと思う」
「おお、さすがリッカ……」

 私は目から鱗が落ちた。そうだよ、あの子は賢い子! 絵本以外だって読んでもいいようね。文字だって読めるし、なんなら書けるし!

「ほら、これとか」
「ええ、いいですねって……分厚いね? さすがに読み聞かせとかじゃないよね?」
「ふふ」

 素敵な笑顔で返された。うん、まあ、年齢レベルは上げようってことで。
 そう、リッカ様。春の女神様を深く信仰しているエミルさんたち、眷属であるリッカもそうであった。様づけだって、当然ともいえた。

「エミルさん、ありがとうございました。借りていくね」
「うん、気に入ってもらえたなら。これからリッカ様とのお散歩でしょ?」
「そうそう。一日の楽しみ」
「ふふ、そうだよね。それじゃ手続きは手短に、だね?」
「お願いします」

 和やかな時間。本当は穏やかなあなただと思うから、こうも落ち着くひと時が過ごせるんだよね。
 落ち着いた、静かで――。

「本当に誰もいなかったね」

 もしかしたら誰かいたり、とも思ってはいた。そうではなかった。確認できる限り、エミルさんと私だけだった。どうしちゃったのかな?

「……思い当たる節はあるけどね」

 エミルさんはすごい速度で処理をしつつ、顔をしかめていた。さっきまでは、穏やかな表情だったのに……。

「思い当たる……ああ」

 私もそう、そういうことかと思ってしまった。エミルさんは『正解だよね、きっと』と複雑そうにしていた。
 図書室に通いつめている生徒も、なんなら委員だってそう。女子も男子も関係ない。教師や職員もかもしれない。

 誰も彼もが――フーゴさんに夢中だと。

 アルトだって懐いている。リヒターさんも主の相手として悪くないと。エドワード君は心底羨ましがっている。なら、エミルさんだって――。

「……あの男、か」
「……」

 人の顔ってここまで険しくなるのかな。声だって、こんな這うような……。

「……ああ、ごめんね? 僕、ろくに彼のこと知らないのにね? なんだろうね、自分でもわからないんだけど……」

 エミルさん、明らかに取り繕っていた。その、思わしくない相手だなってのはわかってしまった。面識だってないでしょうに、当人も不思議がっていて。

「あれ……?」

 そう、面識なんてない。ないはずなんだよ? エミルさんとも、私とも――。

「……なんなのかな」

 徐々に、だった。この妙な感覚、そう、そうだ。
 ――何かが抜け落ちているかのような。
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