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第六章
大歓迎ワンコと
女子寮も静かなもものだった。皆さん、出かけているみたい。
「――わあい、おかえり!」
私は部屋に戻ると、リッカからの熱烈な歓迎を受けた。私の周りをぐるぐる回っていたり、時には前足でのしかかってきたり。尻尾がブンブンだね、ブンブンだねぇ……!
「ああー、リッカぁ……」
私がしゃがむと、リッカは抱きついてきた。ああー、今日一日の疲れが飛ぶぅ……。
「そうだ、カイゼリン様の落とし物を拾ったんだって? もう、言ってくれていいのにー」
「えへへー」
私は片手で抱きしめながら、もう一方の手で背中をナデナデした。リッカも嬉しそう。うんうん、偉いねぇ、おりこうさんだねぇ!
可愛いねぇ!
このままリッカをぎゅっともしていたいけれど、お散歩にだって行きたいよね? うん、行こうね?
今日も歩いた歩いた。すっかり日も暮れていた。私は女子寮の玄関前まで来ていた。
「リッカ、新しいスポット発見したね?」
「わふっ」
いつもより歩いたのもあって、雪山……というか、小高い丘のようなところに辿り着いた。リッカは上っては下ってを繰り返していた。ソリ滑りとか、楽しそう。
「……ふう」
私は息を吐いた。本当にリッカとのお散歩が楽しくて。その分の落差ともいうか……女子寮に帰らないと、だから。ほら、ちらほらと寮生も戻り始めているから。
「はあ……」
「ふう……」
彼女たちも溜息をついてた。私だけではなかった。意味合いは違うと思った。彼女たちは肌艶もいいし、恍惚もしているようだったから。フーゴさんに会ってきたのかも。
私たちには気づいてなかったけれど、こちらも声をかけるタイミングも失っていたから。だから会釈だけしておいた。リッカは寂しそうだね……いつも可愛がってもらっていたから。
「くーん……」
「リッカ……」
本当に寂しそう、悲しそうだった。私はもしかして、と思った。寮生もそうだけど、職員さんもそうだったりする……? 私が授業受けている時とか、職員さんたちと遊んだりしていた。でも、それがないとしたら……。
「……リッカ、ごめんね」
あんなに喜んでいたのも、そうだったんだ……気づけなかった。もっと早く帰ってきたら良かったね。
「?」
リッカは首をかしげていた。うん、何のことやらだよね。君はそう思わないだろうから。せめて一緒にいようね?
「それにしても……」
こうもなること、ある? すれ違う寮生は上の空な人ばかり。私の挨拶の声も届いてない。無視って相変わらず堪えるけれど、無視とも違うというか。
私の存在すら認識してないような……? ううん、それは考えすぎかな。
寮生皆さんがそうだとしたら……『彼女』もそうなのかな。
「……それは嫌、かも」
私の頭に浮かんだのは、親しくなった女子寮の先輩のこと。彼女は元は迎賓館暮らしだったけれど、今は女子寮で暮らしている。
リナ・ゼンガーさん。黒髪のツインテがよく似合う究極美少女、改造制服もなんのその。そのような学園のアイドル。訳あって推し活していたけれど、推す心は今も健在なんだ。
『国民的歌手』の……うん、娘さんだね。『リナ』さんはそう。
国民的歌手ルイ・ゼンガー。その人とのことで色々あったから、モヤモヤはあっても乗り越えてもきたから。
恋するリナさんを想像すると、ああ、萌えもする。でもね、彼女にまで冷たくされたら……それこそ辛いともいうか。
「わふっ」
リッカがひと吠えした。大丈夫だよ、って言ってくれているようだった。
「ふふ、ありがとうね」
「わん」
そうだよね、リッカ。リナさんのこと、信じたい。信じられるよね?
そうこうしている内に、最上階のフロアへ。部屋に戻ったらいったん、ゆっくりしたいところで。
「……あー、つっかれたぁ」
「……」
壁、いいえ、私の部屋の扉に寄りかかっていたのは。かったるそうに呟いているのは。
「……リナさん? どうしたの?」
そう、リナさんだった。なんか疲労困憊ともいうか。心配にもなるというか……。
「あ」
リナさんはというと、よっと体を起こした。私とリッカをまじまじと見ていた。
「リナ、待っていたの。ていうかぁ……」
私たちを見ると、脱力していた。ずるずると。ついには床に座り込んでしまった。
「あー……いつものあんた達だわぁ……」
安堵しているようだった。そう、いつもの散歩帰りの私たちを見て、だった。
「リナさん、それは私もで……」
私だってそうだった。リナさんもきっと、『いつもの』リナさんなんだ。
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