春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第六章

誰と踊りてぇか――誰を選ぶか


「!」

 彼が、フーゴさんがこっちを見た。たまたま、そうだとは思う。それか、私の隣にはリナさんもいるから――。

「――いたいた」
「え……」

 しっかりと耳に届いた言葉。それは空耳ではない。
 しっかりと重なる私たちの視線。もう錯覚でも勘違いでもない。

「よう――シャーロットちゃーん?」

 はっきりと、私の名を呼んだから。

 彼が、ゆったりとした動きでこちらに近づいてくる。人も自然と彼に道を譲るかのように。
 ……というよりは、事態を飲み込めてもいなかったからか。よくわかってない状態で、通り過ぎる彼を見送っていたともいうか。

「……?」

 よくわかっていない、事態を把握できていない。それは私にも言えたことだった。
 彼がただ、こちらに来る。それを私は黙って待っていて――。

「……ちょっと、なに?」

 リナさんが怪訝そうな顔をしながら問う。フーゴさんに対し、警戒を隠すこともない。

「……おっと、リナ・ゼンガー。わりぃな、そっちの子と話させてくれね?」
「……は?」

 穏やかな顔を向けるフーゴさんにも、リナさんは顔をしかめたまま。そんな彼女をも越えて、私の元へ。

「まぁ、大体察しはつくだろ? ――もう、わかってんだろ?」

 ……今になって、なのかな。私がこの人と対峙するのは。こうして面と向かって、こんなにも近しい距離で話すのは。

「な、何がですか?」
「……はは」

 それに察しといわれても、だった。私は何もわかってもいない。そんな私を見て、フーゴさんは軽く苦笑した。

「ん、はっきり言わせてもらうか――二月十四日、一緒に踊ってくれねぇか」
「!?」

 当然、私に衝撃が走った。私だけではない。一瞬、静まり返っていた場も――大いなる悲鳴が上がった。

「はぁ……はあ!?」

 リナさんもそう、大きな声を出していた。

「ど、どうして!?」
「なんで、その子なの!?」

 納得がいかないって、大ブーイングが起きていた。私はふさわしくはないと。

「……」

 わ、わかってます……こんなリア充のトップみたいな人と、私は似つかわしくないって! というか、突然も突然過ぎて……! 

「……なんでってなぁ、シャーロットちゃんがいいからだよ」

 身も蓋もない発言。

「誰と踊りてぇか――誰を選ぶか。となるとなぁ?」

 直球過ぎる言葉を向けてくるフーゴさん。迷いなく彼は笑う。

「……そうは言われましても」

 私はどうしてもわからないというか、『わかりました』とも言えないというか。本当にどうして自分なのかと……!
 選ばれて嬉しい、とかよりもね……この、突き刺すような視線がね……!?

「……ちょっと、考え直した方がいいんじゃない? この子の身にもなってよ」
「リナさん……」

 そっと私に寄り添ってくださった。この殺伐とした雰囲気の中、私が安心していたところ。

「……ふーん」

 フーゴさんは面白くなさそうにしていた。

「えっと……」

 私、面前で断ったようなものだった? 恥をかかかせたも同然だったかも。といっても、ここで受けられるような勇者でもないし。 私にとってはよく知らない人でもあって――。

「……ふっ、よくわかってないようで」
「?」

 機嫌は確かによろしくなかったようだけれど、彼自身何か納得でもしたのか。口元が笑んでいた。

「……ま、それもそうか。『今は』そうみてぇだからな?」
「???」

 本当に頭が混乱しそう。何が今はそうみたい、なの? 

「どのみち――面識無いも同然か」

 一人で頷いて、一人で話を進めてしまっている。彼の意識が自身に向いているのなら、私たちは去ってもいいのかな? 

「……その、行きますね? 今回の件は名誉あるお話かもですが、私には不相応ということですみませんが――」

 隣のリナさんも『行こ行こ』と去ろうとしている。ですね、ここいらで――。

「――っと、逃げる気かぁ?」
「へ」

 体に浮遊感があった。一瞬にして気づく。

「……!?」

 私はフーゴさんに抱き上げられていると……!

「「「ひぎゃああああああああ!」」」
 悲鳴というよりは絶叫が廊下に響き渡る。狼狽えたり、にらみつけたり、私たちを引き離そうとしたりだった。迫る彼ら――。

「――やっとの機会だ。行こうぜ?」
「ちょっ……」

 筋骨たくましい彼が、私を軽々と抱き上げては――颯爽と立ち去っていく。

 それでも多勢に無勢、捕まるのも時間の問題と思ったけれど。

「……」

 紫色の煙があたりをたちこめる。彼らが私たちを見失ったのは確か。私だってそう、視界の確保もままならない。

「どのあたりにすっかな。落ち着いて話せそうな――」

 ただ、フーゴさんだけは違う。彼だけが見失うこともなく、迷うこともない。



 それでいて大胆だった。

 連れてこられたのは、あろうことにも学園の食堂。それもテラスの特等席まで。そこは湖一面も見渡せる、二人がけソファでもあった。
 彼はわかっているんだ。今は追いかけられてくることもないと。だって今も――紫の煙は漂ったままだから。

「あー、走った走った――よっと」
「わっ」

 私は声を上げた。ゆっくり下ろされはしたものの、ふかふかのソファに座らされた。そうだ、このソファって密着っぷりが――。

「んじゃ、オレも――」
「!」

 この流れは……私の隣に座ろうとしている? 勘違いだと思いたけれど、彼はニヤニヤもしているから。動揺している私を楽しんでいるかのようで?

「……いや」

 実際にフーゴさんは隣に来ようとはしていた。でもそれを止めたようだ。彼は別の椅子に座っていた。

「……圧迫するよな」

 そう呟きながら。確かに……。

 それからフーゴさんは話し始めた。若干、申し訳なさそうに。

「それとだ、無断で抱き上げて悪かったな。あの場を抜け出したくてよ」
「……いえ」

 こういったことも気にしているようだった。彼がますます分からない。

「ただ……」
「おう?」

 私はどうしても気になってしまって。フーゴさんは耳を傾けてくれるようだ。

「せめて一言があればと。リナさんを置いてしまったから。一緒に逃げ出せたのに」

 あの場にリナさんを一人にしてしまった。皆さん同様に反対する側だった彼女。害意を向けられることはないとは信じたいけれど……。

「……リナ・ゼンガーね。上手く立ち回ってるんだろ。オマエの方がわかってんじゃね?」
「それは、まあ……」

 それは確かに、だけど。でも、心配な気持ちはあるから。彼女は大切な存在でもあって――。

「……オマエって、やっぱオモシレーのな」
「……」

 またしてもな発言だった。どこが面白かったのか、見当もつかない。

「そうやって関係を築き上げてきたんだよな――相手がどうであれ」

 ――オマエは、と。私に向けてだった。

「……フーゴさん?」

 あなたは何を言おうとしているの? どうして。

「そうやってきたんだよな」

 どうして、そんな眼差しを向けるというの。まるで。

「……そうしないと、だったんだよな」

 それはまるで憐れみ? 同情? 慈しみ? わからないよ。でも、敵意がないのはわかった。

「……生きられなかったんだろ」

 どの意味を伴おうにしろ、私を案じている気持ち、それが伝わってくる。
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