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第六章
女王である日々①
「――おかえり、シャーロット」
「あ……」
私は自室の扉を開き、驚いてしまった。なんてったって、リナさんが部屋に入っていたから。というか、リッカを抱っこしながら椅子に座っていた。
「わふっ」
リナさんに前足を掴まれ、そのまま左右に振った状態に。リナさんによるリッカの歓迎。可愛い。
「……ふふ」
……私の顔、安心しきっているだろうね。あの後、置いてしまったけれど。リナさん、何事もないようで良かった。
「あ、上がらせてもらってるね? ていうか! あんた、扉の鍵閉めないんだもの」
「それは……はい」
リナさんの呆れる声に、私も返事をした。それはそうだった。といっても……。
「今は閉めた方がいいよね……」
私は後ろ手で施錠した。今まではリッカが行き来しやすいようにって、鍵をかけることはなかった。でも今は寮内、学園内の様子がおかしいんだ。
「へっへっへっへっ」
……リッカ。今はリナさんもいてくれるけれど、リッカも寂しく過ごしているよね……。敵意を向けられている私。この子にまで被害が及ぶとなると……。
「……あのね、リナから話を聞いたの。僕、驚いたの」
リッカは説明を受けたんだね……あの二人の存在が消えたこと。リッカは当然のように、二人のことを覚えているものだから。『え!』ってなるよね……。
「くーん……」
「そうだね、リッカ……」
女王どうこうだけじゃない。消えた二人のこともある。心配は山積みだよね……。
「もう! なんかもう、めんどいコトになったじゃないの! 只事じゃないともいうかさ」
「うん……」
「――よし、作戦会議よ!」
リナさんがワンコを抱えたまま、立ち上がった。リッカも『わん!』と力強く吠えた。うん、私も感化されるようだった。本当に励まされるの。
「はい! となると――」
「――モルちゃんの部屋に集合よっ!!」
まずは先生がいらっしゃるか。幸いにも先生はご在宅とのこと。あとは、男子寮に赴くことに。
「――わあ、僕もいいの? それじゃ、お呼ばれしようかな」
男子寮で暮らすようになったエミルさん。彼の部屋への急な来訪ではあった。それでも柔らかな笑顔で返事してくれた。
「……僕も色々と話したかったから」
そう、穏やかな笑みではありながらも――エミルさんもきっと、異変を感じ取っているだろうから。
複数のキャンドルが揺らめく部屋。シックなトーンで統一されつつも、物に溢れている部屋。でもって収納術も駆使されている――モルゲン先生の部屋、作戦会議の場所だ。
今回も夕飯を一緒に食べることになった。私は食材を下ごしらえをしていた。しつつも、視線はどうしてもリッカの方へ。
リッカはというと――キョロキョロしたままだった。落ち着かないともいうか。
リッカはキャンドルの炎が……だよね? それを怖がっているようだった。今回も一人にするよりかは、それで連れてきた。今も慣れないようだけど、私はこうも思えてならない。
それとはまた、別のことなのだと。リッカは――部屋に来る前から不安定だった。
「……それにしてもな」
料理をしている先生もそう……先生。
「……はあ。いつもみたくな、サボりとか? それか、突発的なギルド仕事か。そうだったら良かったのにな……」
「……はい」
先生、かなり捜されたようだった。弟さんですものね……。
「アルト、リヒター……」
リッカが悲しそうに鳴いていた。私は料理を切り上げて、リッカに近寄った。モフモフな背中を撫でる。リッカは身を寄せてきた。うん、寂しいよね――。
「……あのね――エドワードはどうしたの?」
リッカは俯きながら訊いてきて――エドワードはって。
リッカはさらに……『どうして誘わなかったの?』って。様子がおかしかったのは、このことで?
エドワード?
「……」
エドワード……エドワード君? エドワード君が一体――。
「あ……」
青ざめたのは私だけじゃなかった。その場にいた全員がそうだ。誰しもが絶句していた。
――エドワード君の存在まで、消えていた。
こんな立て続けになんて……!
「……ひとまず食べるぞ。食べて力をつける、だろ?」
「……わん」
先生が出来立てのご飯を、リッカの前に置いた。リッカは小さく尻尾を振った。私たちのご飯はこれからスパートをかけていく。はい、先生。今は食べましょう。
美味しいはずの料理。だけれど、味がしなかった――。
夕飯も食べ終えて、片づけも済ませた。私たちは思い思いの場所に座っていた。
先生は床に直座り。エミルさんは食事の席のまま。彼は背筋伸ばし、凛とした姿で座っていた。
「エミル先輩、隙ないわー……」
「え……そうかな?」
リナさんの言葉に、エミルさんは困ったように笑っていた。リナさんは……うん。例の黒いクッションに沈むように座っていた。でも、彼女は座り直した。『見習うわ』と口にしていた。
私は今回は窓近くのソファをお借りしていた。リッカは私の隣に座って、窓の外を見ていた。先生はカーテンを閉めないでくださったようだ。
「女王、か」
その先生が口にしていた――私がそう呼ばれてしまったこと、伝わっているんですね。
「もー! そんなの向こうが勝手に認定しているだけ! スルーでいいのよ、スルーで!」
リナさんは憤慨しているようだった。うん、そうしたいです……。
「……本当にね、勝手な話だよ。なんていう男なんだろうね……」
エミルさんも納得がいってないようで……だからかな、そんな据わった目つきなのは……。
「本当になんなんだろうね、あの男は……」
エミルさん、心底忌々しそうに言っていた……あの綺麗な顔をとことん歪ませながら……。
「はあ……それでもな。そのフーゴが――トリガーなわけだ」
先生の仰る通りだ。あの人が起因している、それは確かなのでしょう。
「私は……」
アルトもリヒターさんも、ついにはエドワード君まで。もうね、躊躇している場合ではないんだ。
今や頂点ともいえるフーゴさん。そんな彼の隣に立つ女王――カーストトップともいえる存在。
カーストトップ。ずっと縁がなかった言葉。それもただのカーストップじゃない。
相手を蹴落とさなくてはならない。君臨しなくてはならない。
彼の隣にいられるように。
私は――知らなくてはならないから。
そうだよ、躊躇っている場合じゃない。私は――。
夢を見た。
いつもの鳥籠の夢……だったと思う。あの冷え冷えとした空気感は、馴染みのあるもの。
それでいて――辺り一面がモヤがかっていた。紫の色の、視界を覆い隠すようなモヤが。
ここ数日、ずっとそうだった。
私はそこで、人影を見る――華奢な女性、だとは思う。
『――しっかりして。元凶は彼よ』
「……!?」
はっきりと声が聞こえた。しかもこの声――初めて聞いた声ではない。
声の人物は鳥籠の外にいるはず。私は外側に向かって駆け寄ろうとするも。
ここで目が覚めてしまった。
さあ、寮を出る時間だ。私は自分の姿を鏡で最終確認する。いつもの私とは違う――フルメイクによって彩られた顔。
『……ふう。リナの女子力全放出したんだから。可愛いに決まってるじゃない!』
あの夜、私はリナさんにアドバイスをもらっていた。彼女のお墨つきももらった。今はそれを自信の元にさせてもらうんだ。
『……エミルがね、僕を何が何でも守ってくれるって』
リッカが呟いた通りだった。私の側よりは、今はエミルさんの保護下にいた方がいいと。学園も休むと言っていた。彼は『リッカ様の為なら――お強いとはいえ、ね?』とのこと。今はその言葉に甘えることにした。
そうだね、今度は私が頑張る番だ――学園に行こう。
「――よう、シャーロットちゃん。迎えに来たぜ」
女子寮を出ると、すぐに出くわすことになった。私のこと、フーゴさんは待っていてくれたようだ。
「……おはようございます」
私も彼に挨拶をした。そんな様子を――やはり注目されているようだった。妬み嫉みの眼差しは止まない。見た目を変えたこともあるのだと思う。
それでも私の視線は彼へ。怯む心を隠しながらまっすぐに立つ。
「……へえ、雰囲気変えてきた、と」
妙に感心しているようだった。まじまじと私を見続けている。
「――フーゴさん。虫のいい話だとは思います……それでも。あなたの申し出、受けさせてください」
私も彼の紫の瞳を見つめ返した。吸い込まれそうなそれを。
「……へーえ。なるほどなぁ?」
「……」
……ああ、すごい見てくるな。私を見透かしてくるようだった。昨日の今日で乗ってきた私を怪しく思っているのかも。
「……いんや、いいか。オマエが何を考えていようと、それはいい」
「そんな……」
「いいんだよ。話を受けてくれたことには変わりねぇ」
私に企みがあること、それはお見通しのようだ。でも、彼はそれはそれ、といった感じだった。
「――互いに楽しみだなぁ?」
――二月十四日が、と。彼は犬歯を覗かせながら笑っていた。
「はい」
私も受けて立った。
これで一歩前進だ。私はこの人に近づく必要があった。
何を考えているのか。何を思っているのか――何を企んでいるのか。
あなたを掴んでみせるから。
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