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第六章
女王である日々⑤
迎賓館にいる警備員さんは、フーゴさんの顔を見ただけで通してくださった。顔パスだった。何事もなく通過したフーゴさんに、私も会釈しながらも続く。
整えられた花園、紫の花々が咲き誇る。芳しい香りたち、リッカがいたら興味深そうに嗅いでいそう。私はその光景を浮かべ、クスリと笑った。
「……ふっ」
「……!」
フーゴさんも笑っていた。思い出し笑いを見られた感、私は恥ずかしくなった。
彼のエスコートによって、さらに歩いていく。花園の中心にガーデンベンチがあった。私たちは並んで座る。
「ほらよ」
「わあ……」
フーゴさんによってバスケットは開かれる。共に美味しそうな香りが漂ってきた。見た目もすごく綺麗だった。きっちりと詰められていて、彩りも華やか。この状態を崩すのが躊躇うほどで。
「食わねえの?」
「あ、いえ。いただきます。というか、フーゴさんからで」
私はごちそうになる身。ましてや相手は先輩でもあったから。
「ふーん?」
「フーゴさん?」
この企んでいるかのような笑顔は、なんだろ? 私がますます躊躇っていると。
「ほら、食わせたる」
「!?」
彼が手にしたのはサンドイッチ。彼がしようとしていること、それはわかる。私は仰天してしまうも。
「……やっぱり、実は嫌だったりするのか?」
「そ、それは……」
嫌というか、不慣れというか、いつまでも慣れないというか……。
「……いえ、いただきたいです」
そうも言ってられないよね。私は口を開けた。
「……お、おう」
「?」
言った当人が、どうしたことかな……一瞬、固まったともいうか。
「……」
「……」
しばらく間があったけれど、私の口にサンドイッチが入ってきた。
「……美味しい」
みずみずしい、フルーツのサンドイッチ。食感もたまらない。うん、やっぱり上手くは説明できない。
ただ、優しい味がしたなって。私の顔がほころんだ。
「……。おう、食え食え」
「ふふ、はい」
ひと心地つけたと思いだった。彼の手ずから食べさせてもらうことはない。私はすすんで食事をいただく。
「……」
そんな私を眺めているのが、フーゴさんだった。その視線もであり、食べようともしない彼が気がかりだった。私はいったん、食事の手を止めた。
「なんだよ? 食えよ?」
「はい。ただ、フーゴさんは食べないんですか?」
「あ」
あ、って。どうしたんだろ?
「あまりにもな、うまそうに食うから。つい、見てたわ」
「っ!」
「いつまでも眺めてるわけにも、だよな。いただきます」
と言うと、フーゴさんも手にとり始めた。『我ながらうまいわ』と言いながら、普通に食べていた。普通に。さらっと。
「……」
私はというと……なんともいえない表情になっていたとも思う。私が止まったままなのを見て、フーゴさんは。
「食わねえの?」
と、またしても。
「い、いただきますとも……!」
フーゴさんの言う通り、本当に美味しい料理たち。温かいスープもコップに注いでくれた。心も体もあったまる……。
「……やっぱさ、そうやって笑っていてほしいよな」
「え……」
フーゴさん、またしても食事を止めていた。そうして私に向ける眼差しは、とても柔らかいものだった。
「教室に来た時、すげぇさ、顔が強張っていただろ?」
「それは……」
嫌がらせに遭っていたから。それをフーゴさんには言うのは躊躇ってしまう――。
「……オレが原因で、嫌な思いしてきたろ」
フーゴさんはわかっていた。勘づいていたのかも。私に向けて、複雑そうにしていた。
「それは、その……」
フーゴさんが原因というよりは、そういうことをする人が悪いと思った。それに、それも覚悟の上で――あなたに近づこうとしていたのは私だ。
「――悪かった」
「!」
フーゴさんは両膝に手をついて、私に頭を下げてきた。いえ、それは……。
「……すぐに。それは約束できねぇ。でも、早い内にはカタをつける」
「フーゴさん……」
「オマエと一緒にいたい。けどな、それで辛い思いをさせるのは本意じゃねぇ」
「……そう」
本当にね――調子が狂うともいうか。
フーゴさん、俺様っぽいのに。それなのに、妙に気遣いにも溢れているともいうか。
私は彼とは初対面も同然、そのはずなのに。
どうしてなのかな――初対面とは思えなくもなっていた。
私は『彼』と接したことがあるんじゃないかって。
ああ、私は彼のことを知らないといけない。このままにはしておけないんだ。
「……そうだ」
こうして接することでわかるのは、フーゴさんは悪い人ではないこと。アルトたちだって、そうした評価だった。そうだ――。
「そういえば、フーゴさんもギルドに所属されてるんですか?」
「お?」
唐突だったかも。それでも話を聞く姿勢ではあった。私は続ける。
「私の幼馴染……アルト、ですね。彼がすごく感謝していて。守ってくれたとのことで、私も感謝したいなって」
私は彼の様子を窺った。本音をいれつつも、探りでもあった。
「……」
フーゴさんは――黙り込んでしまった。真顔になった彼は、私を見ている。彼の方も私を窺っているかのようで。
きわどい質問だったのか。フーゴさんが、彼らの消失にも関わっているかもしれないから。私は笑顔を保ちつつ、冷や汗もかいていた。
「……幼馴染? ……アルト? ……よくわかんねぇけど」
フーゴさんは、わからないと言った。記憶……ないのかな? 鵜呑みにしていいのか、否か――。
「あのさ? その幼馴染君、随分と大切なのな?」
「え……」
ベンチの背もたれに手をついて、フーゴさんの顔が――近づいてくる。
彼の紫の瞳に……圧されそうになる。
「長年、付き合いがあったってだけだろ? 単なる幼馴染なんだろ? ……の割には、だよなァ?」
彼の犬歯が牙を向くかのようで――捕食されそうで。
「……幼馴染でもあり、大切な子なんです」
アルトも。ここでは出してないけど、リヒターさんやエドワード君だってそう。色々あったものの、かけがえのない人たちなんだ。だから、この主張は譲るわけにはいかなかった。
「……へえ、『大切』ねぇ」
そう口にすると、フーゴさんは私と距離をとった。
「……ま、そうだな。色々『ケジメ』つけてから、それからだな」
何やらつぶやきながらも、食事を再開した。ぽかんとしている私には、『お腹、いっぱいか? 無理して食うなよ?』と気にしてくれた。そうではなかったので、私も改めていただくことにした。
フーゴさんは悪い人ではない。それどころか――きっと、いい人。
でも、あなたは……何かを隠している。私はそう思えてならなかった。
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