春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第六章

女王である日々⑦

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「……」

 また一日が始まる。私は静かに朝の支度をやり終えた。

 フーゴさんと一緒にいる限り――悪意は向けられたまま。

 だとしても、それを選んだのは私だ。

 私は……シャーロット・ジェムは、一人じゃない。支えになってくれる存在だって。

 行こう。




「……なんかさぁ、調子狂うっていうか」

 朝の登校、リナさんがご一緒してくれた。そのさなかの彼女の一言だった。私も『確かに』と頷いた。
 悪口を言われるか、何かが飛んでくるか。それを覚悟していた、構えていたのに。

 遠巻きに見守る生徒たち。視線は相変わらず冷めたものでありつつも、それだけでもないというか――戸惑いも含まれてもいるような。


 結局、玄関口、それから廊下、階段の踊り場、ついには教室まで。何事もなく到着した。

「……うん、まあ、何もなかったっていうか。でも! 何かあったらすぐに言うのよ!?」
「は、はいっ!」

 私はリナさんに両肩をガッと掴まれ、見上げられていた。下からの圧のすごさに、私の返事も勢いよくなった。

「うん、よき返事! じゃあ、リナ、ぎりぎりまで居座るけどね? 何かあったらすぐに逃げてきなさいよっ」
「はいっ!」
「よし!」

 再度、大きな声で返事する。リナさんは満足そうだった。
 リナさんの言葉通り、彼女は予鈴が鳴っても去ることはなかった。ついには朝礼が始まる時間になりそうになる。向こうから担任のパロット先生の姿が。

「うー……教師がいるとはいえ……あんたを置いていくのもなー……」
「リナさん、ありがとう。大丈夫だよ」

 充分、よくしてくださった。

「うん、大丈夫。パロット先生はマトモというか。あと、ロルフ君とか」

 どうやら皆が皆というわけでもないみたいだし。

 まずは、担任のパロット先生。あの日のあと、終礼でお会いした時も、彼女はなんら変わりはなかった。遅刻の理由は寝坊だったみたい……。

 それにロルフ君。彼は変わらない。それに、フォローまでしてもくれている。ロルフ君だって私の支えでもあって――。

「……ロルフ君って、ウェーイな子?」
「うん、ウェーイな子」

 ウェーイな子で話が通じた。やっぱりそういう印象なんだ。

「……ロルフ君、ねぇ」

 リナさん? 彼女は何やら考え込んでいるようで――。

「――あら? あなた、二年生の子でしょう? もう朝礼始まるわよ?」
「「!!」」

 いつの間にか、担任の先生が近くまで。

「うー……」

 リナさんは離れたがらない、チラチラ私たちを交互に見てもいた。

「うー……戻りまーす。失礼しましたー、あとでねー……」

 リナさんは小走りで去っていった。『走っちゃだめよー』といった先生の言葉、聞こえていたみたいで早歩きに変更していた。

「あなたのことが心配であると……有り難いわね、本当」

 先生はしみじみと仰っていた……先生?

「……ジェムさん、大変だったでしょう。先生、まともに力になれなくてごめんね?」
「パロット先生……」
「私、あなたの教師だもの! これから力になるから!」
「はい……ありがとうございます」

 先生が私の背中に手を添える。緊張が緩むようだった。なんて心強いのかな。

「――皆、おはよう」

 私は先生と共に教室に入った。遅れ気味になってしまった。それも非難めいた目で見られるかと、覚悟していた。

「おはようございまーす」
「パロットちゃん、今日は寝坊じゃないねー?」

 ……うん、明るいノリはいつも通り。それは、パロット先生に向けてだから。

「おはよう」

 私からも挨拶をする。無視されようと、堂々と。背中にあるぬくもりが、勇気を与えてくれる。

「……おはよ」
「おう、おはよう」

 ……あれ?
 ぽつぽつと返ってきている……?

「うん、お、おはよう!」

 私はつい興奮気味になってしまい、声が大きくなった。皆、びっくりしちゃってる。

「ウェーイ、おはよー!」

 ロルフ君も大声で返してくれた。これはさすがに彼に軍配が上がった。見事な声量!

「声、でっか!」
「朝っぱらからデカいわ!」

 ロルフ君を中心に笑い声が上がっていく。『キミらも声でかいわー』って、ロルフ君が言うものだから、さらに盛り上がっていく。

「って、せんせー? 朝礼始めないんですかー? 睡眠時間にあてますかー?」
「あてません! ……っと、皆元気なのは結構。でも、静かにね?」

 ロルフ君におちょくられつつ、先生は朝礼をすすめていく。

「……この様子だと、いいのかな?」

 先生の手にあったのは、資料のようなものだった。いじめ、といった文字もちらっと見えた。先生、朝礼で議題に上げようとしたのかな……?
 案ずる気持ちが有り難くもあり、クラスのこの雰囲気を鑑みて。私は頭を下げた。それから首を振った。そのまま触れずに進めてください、と願いを込めて。

「……」

 このクラスもそう。登校途中もそうだった。何かが変わってきているんだ。私はそうは思いつつも……現状を素直に受け入れるにも迷っていた。せっかくの雰囲気、下手に壊したくもなかった。


 穏やかに朝礼が終わっていく。それから、次の授業までは自由時間。私は一人、自分の席に座っていた。特にジロジロみられることもなく、絡まれることもない。

「……ちょっとちょっと、シャーロット! 大丈夫だった!?」

 と、ここでやってきたのがリナさんだった。息を切らしながら、教室に入ってきた。呼吸は荒いまま。だ、大丈夫かな……? ひとまず扉の近くへ行くことにした。

「……って、大丈夫だったりする?」
「うん」

 私の顔、それからクラスの雰囲気。それを見てリナさんは言っていた。私も頷く。

「……ほんと、よくわからんわ。でもまあ、あんたがいいなら――」
「わぁ、リナパイセン! 最近しょっちゅう来ますねー?」

 私の背後からひょこっと姿を出すロルフ君。リナさんはびくっとなっていた。驚いたみたい。

「ま、シャーリーちゃんのこと、心配だったようだしー? 心配にもなりますよねー? ――でも、もう大丈夫っぽいすよ?」
「「え?」」

 またしても私たちの声が揃った。そして顔を見合わせた。

「……。ほら、フーゴパイセン? あの人が、一人ひとりに話しにいったとか」
「……フーゴさんが?」

 私は彼の言葉を思い出す。そう――。

『……すぐに。それは約束できねぇ。でも、早い内にはカタをつける』

 彼は確かにそう言っていた。言っていたにしろ、驚かずにはいられないのも事実。昨日今日の話であって。あれだけ多くの相手、一人ひとりに説得に回っていたというの? 
 こうして、沈静化してくれたの? ……うん、してくれたんだ。宣言した通りに。

「……すごいな」

 すごい人なんだ。それだけの説得力があるのも。それに――誠実な対応をしたのも。

「……なによ、メロってない?」
「!」

 リナさんがジト目で指摘してきた! 

「お、思ってない。メロいな、とか思ってないよ!」

 私は慌てふためいていた。

「あんれー? メロいって思ってないと、やばくない? ねーえ、シャーリーちゃーん?」

 そんな私を見て、ロルフ君が指摘してくる。

「!」

 そうだ、それもそう! 私は彼に近づくという名目があるのに。表立っていえないけど、ありがとう、ロルフ君!

「それにしても。あんた、随分と詳しいのね」
「そりゃあね?」
「ふーん……」

 リナさんの追求も、ロルフ君はなんてことない笑顔でやり過ごす。リナさんは険しい顔をしていたけれど。

「ま、いいわ。リナもね……ちょっと、感慨深いともいうか。フーゴ先輩……この子の為に動いてくれたんだなって」

 リナさんは優しい顔になっていた。そうだ、私、どれだけ彼女に心配をかけていたのかな。

「リナさん、色々とありがとう。側にいてくれたから」
「なによー、いいのよっ! リナがいたくているんだからっ!」

 はっきりと言い切る彼女に、私も笑顔になった。

 そっか……もう大丈夫なんだ。あとは、この現象の原因を探ればいい。こうなってくると、フーゴさんが本当に悪いとは思えはしないけど……今はともかく。

「お昼、お礼に行きたいな」

 私は今日の昼休みも誘ってみようと思った。感謝したい。

「あ、リナも行きたい! お世話になったんだもの」
「うん、一緒に行こう!」

 リナさんも来てくれるって! より楽しみになった。
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